SSブログ

7-4.間一髪 [峠◇第1部]

「こんにちは、容体はいかがですか?」
祐介の母が、病棟の洗面所に向かう廊下で声をかけられた。
「あら、武井さん。ええ、少し良くなってきているようで、今朝も目を開けている時間が長くなっていて・・・」
「それは良かった。ご主人の件では、我々の捜査が後手に廻ってしまって、申し訳ないと思っています。もう少し、注意していれば・・」
武井がそこまで言うと、祐介の母は、
「あの人が犯した罪を聞き、当然の報いを受けたと考えようと思っています。」と気丈に答えた。そして、
「祐介は、あと少しで回復します。そうなれば、玉城の家を守る事もできますから・・」と続けた。
「申しわけないんですが、祐介さんに事故の状況をお伺いしたいんですが・・これも仕事で・」
と武井は頭を下げながら訊いた。
「朝方は良かったんですが、今は、また意識がはっきりしないようで、お話はできないと思います。」
「そうですか。お話できるようになったら、ご連絡ください。」と言い残して立ち去った。

それから、武井は、エレベーターの方に向かっていった。

しばらくして、幸一たちが病院に到着した。急いで、祐介の病室に向かう。
「おば様、祐介さんは大丈夫?」
と怜子は病室のドアを開くなり、言った。
「どうしたの、血相を変えて。祐介はまだ眠っているわよ。今朝は一度目を開けたんだけど・・」
安らかな寝顔の祐介を見て、3人とも安心した。
「ねえ、おば様。武井さんは来なかった?」と怜子が訊いた。
「ええ、今しがた、お見えになって祐介の様子を聞かれたわ。話せるようになったら連絡をと言ってらしたわ。」
「それから?」幸一が矢継ぎ早に訊く。
「え?その後はすぐに帰られたんじゃないかしら?・・エレベーターホールの方へ行かれたから・・」
「しまった!啓二の部屋だ。」と幸一。
それを聞いて、ドアの外にいた和夫が廊下を走り出した。
祐介の病室は2階にあり、帰るならエスカレーターの方が便利なのだ。啓二の部屋は6階にある。そこへ向かったに違いなかった。
「間に合ってくれ!」
和夫は心の中で叫びながら、部屋へ急いだ。エレベーターを待っている余裕はなかった。
階段を一気に駆け上がった。
啓二には、身寄りのものがなかった。
病室には誰もいないが、念のために、警察官が1人ドアの外に待機している。だが、武井なら簡単に病室に入れるはずである。
6階についた。階段口で、和夫は、「えーと、右だっけ左だっけ・・。」と迷いながら、右へ駆けた。突き当たりに警察官が立っている。
一目散に向かったが、警察官に制止され、入れてくれと問答していると、幸一と怜子が追いついた。
隙を突いて、怜子が部屋の中に飛び込んだ。

武井が、抵抗する啓二を押さえつけていた。口には塗れタオルが詰め込まれていた。
「やめて!武井さん!もうやめて!」
怜子が大声で叫んだ。
その声に驚いて、武井の動きが一瞬と止まった。そこへ、幸一が飛び込んできて、武井ともみ合いになった。
和夫と警察官もほぼ同時に部屋に入ってきた。もみ合っている二人を、警察官が取り押さえる。和夫も上から圧し掛かった。
「一体、どうしたんですか?武井さん。」
息を切らしながら、警察官が問う。
「いや・・・なんでもない。大丈夫だ。君は外に出ていてくれ。」
と武井が言うと、不承知の顔ながら、廊下に出て行った。
怜子は、啓二の口からタオルを引き抜き、様子を見た。
啓二は、救助されてから日が浅く、まだ体力が回復していないが、意識ははっきりしていた。
小さな声で「大丈夫だ」と言った。
無事な様子を見て、3人はほっとした。そして
「武井さん、もう全て話してくださいますね。」
と幸一が言うと、武井はこくりと頷いた。
「ここではなんだから、ケンの喫茶店にいきましょう。」と怜子が提案し、4人は向かった。

nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

Facebook コメント

トラックバック 0