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file4-10  秘書 [同調(シンクロ)]

「レイさん!しっかりして!」
亜美は救急車の中でじっとレイの手を握って呼び掛け続けた。
救急処置で、呼吸は安定しているのだが、脈拍や血圧が下がったままで、意識は戻らなかった。

神林病院では救急搬入口で、神林院長と数人の看護士が待っていた。救急車が到着すると、すぐに救急処理室に運び込まれた。
「すみません。一緒にいたんですが、急に意識がなくなって・・」
亜美がそう言うと、院長は、
「大丈夫です。・・持病の発作でしょう。すぐに回復しますよ。」
そう言って、処置室に入っていった。
ほんの1分ほどですぐに出てきて、
「大丈夫。もう発作は収まりました。ただ、少しダメージが大きいようなので、PCU・・ああ、特別室に移して、治療をします。大丈夫です。」
そう言うと、レイの横たわるベッドが処置室から出てきた。
点滴と酸素マスクをつけているが、顔色は随分戻っていて、安らかに眠っているように見えた。
院長は、レイの頭を撫でて、じっと寝顔を見てから、
「少し、無理をしたんでしょう。・・シンクロは随分エネルギーを使うようです。・・あるいは・・」
そこまで言ってから院長は口を噤んだ。エレベーターが到着し、ベッドが入っていった。
「それでは、今日はありがとうございました。」
そう言うと、院長も一緒にエレベーターに乗り込んで行った。

亜美は、院長に尋ねたい事もたくさんあったのだが、この状況では聞きだせないままだった。とりあえず、一樹にレイの無事を知らせようと思ったが、とっさに出てきてしまって、カバンも何も持っていなかった。どうしたものかと途方にくれて、病院の玄関へ向かって歩きかけた時、声を掛けられた。
「突然すみません。紀籐亜美さんですね。」
「はい。貴方は?」
声を掛けてきたのは初老の紳士で、しゃんとした姿勢で仕立てのいいスーツを着ていた。
「私、神林院長の秘書で、山口と申します。」
そういうと、名刺を一枚手渡した。名刺には確かに、医療法人 神林会 秘書の肩書があった。
「先ほど院長から、紀籐様をお送りするように申し付かりましてお声を掛けさせていただきました。」
落ち着いた低い声でそう続けた。
「差し支えなければ、私が署までお送りいたします。・・それから、矢澤様には先ほど私が連絡をさせていただきました。」
「そうですか。」
亜美は秘書の導くままに、ロビーの奥の通路を続いた。
通路の先には、神林の自宅があり、その前に、黒い高級車が停められていた。後部座席のドアが開いて、亜美が乗り込むと静かに発車した。
「この車は?」
「ええ、レイ様の専用車です。外出の際には、必ず使われます。」
「レイさんて、神林院長とどんな関係なの?」
「さあ、私も存じ上げません。」
「確か、アメリカからお母様と一緒に治療のためにいらしたと聞いたのですが・・」
「さあ、私は院長の秘書ですので、レイ様のプライベートの事は教えられていませんのでお話できる事はございません。」
「そうですか・・じゃあ、もう一つだけ。今日みたいな発作は以前にもあったのかしら?」
「・・・いえ・・・そんなに発作はなかったのではと記憶しております。・・少なくともここ数ヶ月ではございませんでした。」
「そう。」
秘書は、本当に知らないのか、或いは、秘密にしているのか、判断できない言い方で受け答えをした。
亜美もこれ以上詮索するのはと思いとどまり、口を閉じた。ほどなく署に到着した。

「ありがとうございました。レイさんに早く回復されるよう祈っていますと伝えてください。」
「承りました。それでは失礼いたします。」
車はまた静かに走り出し、視界から消えていった。
署に戻ると、資料室には、一樹もソフィアも居なかった。机の上に置手紙があった。
『もう少し、ソフィアと現場で聞き込みをしてみる もう帰っていいぞ。 矢澤』
「何よ これ! 勝手なんだから。もう知らない!」
一樹がソフィアと一緒に行動している事に、無性に頭にきていた。


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