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file5-3 パパと相談 [同調(シンクロ)]

F5-3 パパと相談
亜美はまた屋上にいた。一樹に怒っている自分がよけいに腹立たしかった。
「なんで、私が頭に来るのよ。・・もう、一樹の事なんか無視してやる。」
そんな事を呟きながら、空を眺めた。ジーンズのポケットに入っていた、レイとの連絡ツールが震えた。

「もしもし、レイさん?大丈夫なの?」
「ええ・・ごめんなさい。ご心配をおかけしました。」
その返事は、昨日のレイとは別人のようだった。
「それで・・行方不明になっているユウキさんとシンクロできたの?」
「そのことで、御連絡をしたくて。実は・・・」

レイは、発作が起きた時の状況とユウキとのシンクロについて説明した。

「それって・・」
「はい。でも、まだ判らないんです。シンクロしようとしてるんですけれど、なかなか・・」
「余り無理すると・・」
「大丈夫です。病院の中ですし、発作が起きてもすぐに処置してもらえます。また、連絡します。」
「判ったわ。一樹には私から伝えておくわ。でも気をつけてね。」
「ありがとうございます。それでは・・」
通話は終わった。レイの話が本当なら一刻を争う事態だが、その話を捜査本部にどう伝えればいいのか考え込んだ。

「どうした?また一樹と喧嘩したのか?」
振り向くと、紀籐署長が立っていた。
「一樹のことはどうでも良いの、あんな無神経! それより、ねえ、パパ?どうしよう?」
「どうしたんだ?」
「実は、たった今、レイさんから連絡があって・・」
亜美はレイから手渡された通信ツールを紀籐に見せた。

「ああ、昨日は大変だったそうだが、大丈夫なのか?」
レイが発作を起こし救急車で運ばれた事は署長の耳にも届いていた。
「ええ、すぐに治療して発作は大丈夫だったんだけど・・」
「そうか、良かった。で、相談の中身は?」
「昨日、一旦ここに戻ってきた時、行方不明のユウキさんとシンクロできたらしいのよ。」
「それなら、無事にいるって事なのか。」
「いえ、それが、レイさんの発作は、ユウキさんの身に起こった事が原因・・らしいの。」
「というと?」
「発作は、最初苦しみ始め、徐々に呼吸が出来なくなって、最後には心拍も低下したの。」
「まさか、シンクロした相手と同じ状態に?」
「そうらしいの。・・レイさんに見えたのは、マスクをした人間に首を絞められている様子らしくて・・で、最後には、心拍も低下したのだから、ひょっとしてもう殺されたんじゃないかって。今日もシンクロを試みたらしいんだけど、通じないんだって。」
「そうか・・・もう殺されている可能性が高いということか。」
「でね、どう報告しようかって・・確証ではないわけだし、レイさんの事を刑事課に公表するわけにもいかないでしょう?だからどうしようかって。」

紀籐署長は、あごに手をやって考え込んだ。そして、
「矢澤と鳥山課長にはレイさんからの連絡の内容を報告しなさい。まだ、現場に知らせるのは早いだろう。それに、殺されたと決定付けるのもやめておこう。いや、レイさんを信じないわけではないんだ。遺体がないんだ。それまでは無事を祈るしかないだろう。・・午後から捜査会議もある。私も出るから、聞き込みの状況も聞いてから、どう動くか皆で考えよう。」
「判ったわ・・いや、わかりました。」
そう言うと亜美は屋上から階下へ下りていった。

「被害者とシンクロすると自分の命も危なくなるとは・・・」
紀籐署長は一人呟いた。


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