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file5-4 捜査会議 [同調(シンクロ)]

F5-4 捜査会議
署の2階の会議室には、署の主だったメンバーが集まっていた。紀籐署長と鳥山課長が、事件の概要を記したホワイトボードを背に座っていた。一樹もソフィアを連れて、会議室の隅に座っていた。
鳥山の声で会議が始まった。
「よし、会議を始める。スナック襲撃事件の概要はいいな。じゃあ、新たな情報があれば報告してくれ。周辺の聞き込みはどうだ?」
その声に、佐伯が立ち上がって、
「課長、部外者が入ってるんですが・・・」
と矢澤のほうを見ながら言った。それには署長が応えた。
「いや、良いんだ。今回の事件の被害者でもあり、細かい状況も知っている。私が許可したんだ。」
佐伯は、憮然とした表情で椅子に座った。鳥山はその様子に違和感を覚えながらも、

「会議に入るぞ!・・新たな情報は聞き込み班からはどうだ?」
前列に座っていた刑事が立ち上がって応えた。
「1班・2班とも、聞き込みに回りましたが、夜遅くで、目撃者はまだ出ていません。物音を聞いたという住民もいましたが、車や男を見たという情報はありません。」
「そうか、検問にも引っかからなかったが、車の特徴から持ち主の割り出しはどうだ?」
別の刑事が立ち上がって
「黒い車というだけでは台数が多くて絞り込めません。・・ただ、盗難車リストに同じような車両はありましたが、今そっちは当たっています。」
「引き続き頼む。・・鑑識はどうだ?」
「スナックの中は客の指紋もあってとても特定できるものは今のところ・・それと、現場の血痕は、一人は怪我をした林のものと、もう一人は不明で、前科者との照合を進めていますが今のところ容疑者を特定できるものはありません。」
「なんだ!ほとんど何も掴めていないのか。・・・拉致事件のほうはどうだ?」
さっきの前列の刑事が立ち上がって、
「被害者のユウキさんの立ち回り先や交友関係、調べていますが進展ありません。」
「そっちもか・・だが、黒い車両と男たち、必ず、二つの事件はつながりがあるはずだ。両方の事件をつなぐものを探るんだ。」
「あのお、課長、いいですか?」
会議室の後ろのほうに座っていた佐伯が手を上げた。
「どうした?佐伯。」
「・・実は、被害者自身の経歴を調べたんですが、どうやら工場を解雇された時、結構な借金を持っていたようです。サラ金に追われて、どこか風俗に身売りしたとは考えられないでしょうか?」
「借金か。では、スナックの襲撃は?」
「いや、あれも、実はスナックのママも借金を抱えてました。同じサラ金ではないんですが・・サラ金のバックにいる奴らが、女を風俗あたりに売り飛ばしてという事じゃないんでしょうか?偶然、矢澤や林が居合わせて、襲撃のような形になったと考えられませんかね。ひょっとしたらスナックのママが詳しく知ってるんじゃないでしょうか。」
ソフィアがそこに居るのを知っていてわざと嫌らしい言い方をした。他の刑事たちも、ソフィアのほうを見た。
「私、知らない。借金なんて・・あれはお店の為のお金・・」
そこまで言うと顔を伏せて泣き出してしまった。
一樹が、
「佐伯!お前、いい加減な事を!」
そう言って立ち上がり、佐伯のところに駆け寄ろうとしたのを周りの皆が止めた。
「いい加減にしろ!捜査会議中だ。・・・だが佐伯の話で、借金と暴力団の関係は当然考えるべき点だ。よし、市内の組事務所周辺の聞き込みも進める。・・直接動いて拉致されてるユウキさんに万一のことがあってもいかん。慎重に、車と男をポイントに目撃者を探すんだ。」

「あのう・・僕も発言して良いですか?」
鑑識課の川越が恐る恐る声を出した。鳥山がいいぞというようなジェスチャアをした。
「拉致現場で採取した指紋は、葉山さんの事件の容疑者と一致しています。ですから、今回の事件は単なる拉致事件じゃないと思うんです。もっと酷い事件に繋がっていると・・・それと、スナックの血痕ですが、容疑者の特定は難しいんですが・・あの量は尋常じゃありません。おそらく、矢沢さんが包丁で切りつけた時、男の腕の動脈辺りまで切ったようです。・・ですから、早く処置しないと出血多量で死亡する事が考えられます。・・・なので、近くの病院に担ぎ込まれる可能性があります。その線で容疑者へたどり着けないかと思うんですが・・」
それを聞いて佐伯が馬鹿にしたように言った。
「お前ね、市内にどれだけの病院があると思ってるんだ?一つ一つ調べるのか?」
「いえ、・・昨夜の事件から1時間・・いや2時間以内で治療したはずです。それに保険なんか使っていないでしょうし、何より、動脈をつなぐのはちょっと縫う程度じゃ済みません。ある程度、治療体制のある病院に絞られます。」
それを聞いて鳥山が、
「そうか、その線が強いな。よし、市民病院や総合病院、救急搬入できる病院あたりに絞って聞き込みだ。そういう病院は必ず監視カメラを持ってるはずだ。該当する時間の映像を入手して当たるんだ。・・それは1班で分担してくれ、いいな。2班はサラ金と暴力団の関係から・・マル暴の連中の協力も得て進めるんだ。それと、鑑識課は・・」
「指紋の照合は出来るだけ早く進めます。・・それとスナック前で採取した足跡とタイヤ痕も調べています。」
「よし頼む。」
そこまで聞いて、紀籐署長が発言した。
「この事件は、これまで管内で起きた行方不明事件や女性殺害事件、そして葉山君の事件。それぞればらばらの未解決事件に繋がっていくんじゃないかと考えている。先入観に囚われず、少しでも疑問に思った事はとことん調べてみてくれ。・・それと拉致されたユウキさん、一刻も早く救出するんだ。いいな。」
署長の言葉に皆心を一つにし、会議室を出て行った。

佐伯も立ち上がり、ソフィアのほうを睨んで、不敵な笑みを浮かべた。そして、一樹の背を叩いてから、会議室を出て行った。

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