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file5-6 暗闇の中で [同調(シンクロ)]

F5-6 暗闇の中で
佐藤は意識を取り戻した。腐敗臭のするプールの中で、身を起こそうとしたが、落ちたショックか殴られた為か、痺れて力が入らず、動けなかった。しばらく、そのままじっとしていると、徐々に暗闇にも目が慣れてきて周囲の様子がわかり始めた。腐敗臭の原因は自分が横たわる場所そのものだった。細かく砕かれた肉片、白骨も見えている。人間のものなのか判別は出来ないが、尋常な状況ではないのはわかった。右手辺りに僅かだが水面が見えた。僅かに動く右手を伸ばし、そっと触ってみた。ジュッと音を立てた。
「ううっ」
痛みに佐藤刑事はうなり声を上げた。強い酸性の液体のようだった。これが徐々に、この肉片を溶かしているのだとわかった。このままここに居ると、自分の身も溶けていくだろうとわかった。だが、まだ痺れが取れない。プールの壁を見たが、とても登れる高さでもない。佐藤刑事は、観念した。

そんな時、天井から明りが入ってきた。誰かが出入口を開けたようだった。カンカンという梯子を降りてくる音が聞こえた。そして話し声。
「ちゃんと殺したんだろうな。」
「いや・・殴ったらそのまま下に落ちたんで・・死んだかどうか判らない。」
「情報をくれるのは助かるが、勝手な事するんじゃないぜ。」
そういう会話の後で、プールの上部から懐中電灯の明りが照らした。
佐藤刑事は、じっと動かずにいた。

「ここからじゃ、よくわからないな。ちょっと下に行って見て来い。」
「勘弁してくれよ。そのまま置いてけぼりにして、俺まで殺そうと思ってんだろ。」
「ふん・・お前はまだ使えるから殺しゃしないさ。さあ行けって!」
「イヤだよ。・・いいじゃないか、どうせしばらくすれば溶けちゃうだろ。あいつには悪いが、イケナイ場所に足を踏み入れたんだから・・」
「ちっ!しょうがない。まあいいだろ。・・そうだ、もう少し、薬を入れとくか、早く溶けるだろ。」
そう言って、脇にあるバルブを開いた。

プールの底から音がして、ぼこぼこと何かが上がってきた。酸性の液体が注入し始めたようだった。
「ああ、これも溶かさなくちゃ。」
そう言って、佐藤刑事のカバンを投げ入れた。
一人の男が、プールの中を覗き込みながら
「例の情報、どうだった?」
「ああ、会長に報告したら、以前、アメリカで同じ様な女がいたとおっしゃってた。」
「何だ、そんな女、他にも居るのかよ?」
「そうらしい。ひょっとして、その女と関係があるかもしれないから、もう少し確かな事を掴むようにって言われたよ。」
「そうかい、わかった。任せてくれ。」
「それにしても、予知能力だか透視能力だか知らないが、困ったもんだぜ。」

「会長って、アメリカにいたのか。・・それにしても、素性がわからない人だな。」
「・・命が惜しければ、会長の事はあまり詮索するんじゃないぞ。」
「わかったよ。おれも命は惜しいからな・・もうちょっと良い目に遭いたいしなあ。」
佐藤は、男たちの会話が途切れ途切れに聞こえていた。そして、その声の主の一人は、聞き覚えのあるものだと感じていた。

「ああ、こいつの車も処分しなくちゃなあ・・・・こんなところに放置されてると怪しまれる。」
「どこかでスクラップにすればいいだろう。・・・もういいだろう、これですっきりなくなるだろう。」
そういって、バルブが閉じられ、二人の男は梯子を登って行き、また暗闇の世界になってしまった。

佐藤刑事は、徐々に体の痺れが取れてきて動けるようになってきた。
プールに液体が注入された事で、佐藤の居た場所が徐々に上昇して、手を伸ばすとプールの縁に手が届くようになっていた。佐藤は、腕の力だけで何とか登ろうともがき、何度か足を滑らせて強い酸性の液体に焼かれた。激痛に耐えながら、それでも何とか登った。しかし、もう全身に力が入らない。僅かに動く指で、流れ出る自分の血液を使って、何か記号のようなものを書いた。そして、そのまま、意識を失ってしまった。


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