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file5-8 特別室の秘密 [同調(シンクロ)]

5-8
レイは、病院の1階フロアで、亜美を待っていた。白衣に聴診器、黒縁のメガネを掛け、典型的な医師のスタイルだった。亜美が自動ドアから中に入ってきた時、レイが頭を下げた。
「レイさん?」
「さあ、14階の特別病棟に行きましょう。そこでお話しましょう。」
レイに案内され、エレベーターに乗った。病院のエレベーターは患者の移動のために、一般のものよりもゆっくりと上がっていく。亜美は、フロア番号の表示を見ながら、隣に居るレイが、別人のように感じていた。
静かにエレベーターが着いてドアが開く。14階は静かなフロアだった。確かここに葉山刑事も入院している。そう考えていると、
「ここに葉山さんの病室もあります。あちらです。エレベーターから右手側の通路に、いくつかの病室が見えた。
「ここは、脳へ重大なダメージを負った患者への特別治療を行なうために作られました。何人かは、意識を回復し日常生活に支障のないくらいまで回復された方もいらっしゃいます。・・もちろん、そのまま亡くなる方もありますが・・さあ、こちらへ。」
案内された先には、大きなドアがあった。ドアと言うより壁が開くように、真っ白いドアがあった。レイが、ドアの横にあるセキュリティ照合の為のモニターに瞳を合わせる。何か音がして、ドアがゆっくりと開いた。
「さあ、どうぞ。」
入って直の部屋には、部屋の中をモニターする為の機材が壁一面、整然と置かれ、知識のないものにとっては近未来の建物に感じた。ドアの向こうには、もう一つ別の部屋があるようだったが、出入口が判らなかった。
「ここから先はまだ入れません。・・とりあえず、ここでお話しましょう。」
そう言って、部屋の隅に置かれたソファに座った。

「ここに、お母様がいらっしゃるのよね。」
「ええ、その部屋の中です。」
「お体の具合は?」
「ええ、今は安定していると思います。」
レイはそう返事をして、壁にある様々なモニターに視線をやった。

「レイさん、今行方不明になっているユウキさんの事なんだけど・・」
「ええ、・・その前にお話したい事があるんです。」
レイがそう言った時、亜美は、急に異様な感覚に襲われた。何か、自分の頭の中で動いているような・・いや、この部屋全体が歪んできているような・・強い波が頭の中を揺さぶるような感覚だった。眩暈がし、吐き気を感じ、息苦しくなった。隣に座っていたレイも身を起こしていられないらしく、ソファに倒れこんでいる。
「大丈夫。もうすぐ慣れるわ。」
そういう声が聞こえる・・いや、耳から聞こえるのではなく、頭の中で響いている。徐々に意識がはっきりしてきた。すると、レイがゆっくりと起き上がった。
「ごめんなさいね。いつもこんなふう。でもだんだん制御できなくなってるみたい。もう良いわ。」
先ほどの白衣のレイとは違って、言葉遣いや表情が明るい。

「亜美さん、もう大丈夫ね。じゃあ、話を聞いてくれる?」
「ええ・・でも、一体何?」
「・・理解してもらえるかどうかわからないけど・・これが私の能力なの。・・そう、貴女が感じていた私への違和感は、能力と関係してるのよ。いつもは、静かで・・そうお嬢様みたいなレイなの。でも能力を使えるのは今の私。ちょっとお転婆っていうのかしら、別人格のレイって思ってもらえれば良いわ。」
「二人のレイさんがいるって言う事?」
「まあ、そういう言い方が一番近いかもね。」
「頭の中で響いていた声もそうなの?」
「ええ、能力を使うレイになる時には、周囲にも影響するみたい。・・最近は、より強くなっているみたいなんだけどね。」
「病室のお母さんには?」
レイはその質問には少し悩んだような表情を見せて、
「大丈夫よ・・・ママの・・部屋は特別になってるから・・」
と少し遠慮がちに応えた。

「それで、・・あの、ユウキさんの事なんだけど。」
「そうね。シンクロを始めるわ。・・でも、また発作が起きるかもしれないから・・もし、発作が起きたら、このボタンを押してくれる。・・院長に繋がってるから、直に発作を抑える薬をくれるようになってるから。」
亜美はレイからボタンを受け取ったものの、戸惑っていた。
「じゃあ、始めるわね。良い?亜美ちゃん?」
レイは、両手で頭を包み込むようなポーズを取り、静かに目を閉じた。レイの髪の毛が少し青み掛かって光っているように見えた。すぐ隣にいる亜美も、大きな波に飲み込まれていくような感覚になっていた。1分ほど経った程度だが、途轍もなく長い時間だったようにも感じる。
突然、レイが苦しみだした。額から大粒の汗を流し、顔色も赤みがかってきた。息が上がり、ソファの上にのけぞるような姿勢になり、何か呻いた。そしてそのまま横に倒れてしまった。
亜美もほぼ同じタイミングで、頭の中に何か風景が広がるのを感じた。白い壁、長い紐のようなもの、そして全身に走る熱い感覚。味わった事のないような苦しさと恍惚の感覚だった。

「レイさん、大丈夫?」
レイはすぐに目を開けた。そして、起き上がると、震えだした。
「何か、わかったの?」
亜美は恐る恐る訊いた。
「亜美ちゃん、貴女も感じたんでしょ。」
そう問われて亜美はびっくりした。
「ええ・・何か白い壁と・・紐のような・・」
「そう。ユウキさんは生きてるわ。でも、酷い。病院か研究室か、とにかく、そういう設備のある所に監禁されてる。そして、体中にチューブが繋がれてる。」
「モルモットにされてるみたいね。」
「ええ、・・それと、何か特殊な薬を体に注入されている。淫靡な感覚を生むようなおかしな薬・・これ以上シンクロすると私もおかしくなるわ。」
「ええ・・私も感じたわ・・どうして、そばに居るだけなのに・・。体が熱いわ、何だかおかしい。」
「早く見つけないと・・。」
「でも、彼女の意識がもう絶え絶えで・・どこかまではわからない・・どうしよう。」

亜美はすぐに署長に連絡した。
「そうか、わかった。だが、場所はわからないのか?」
「ええ、無理みたい。病院か研究施設の中。実験台にされてるみたいなの。」
「病院か・・・わかった。こっちで市内の病院をもう一度当たってみよう。また、何かわかったら連絡しろ。・・ああ、それと、レイさんに無理させないようにちゃんと観てるんだぞ。」
署長はそう言って電話を切った。


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