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file5-10 意識不明 [同調(シンクロ)]

一樹とソフィアは喫煙所を探した。市民病院のエリア内はすべて禁煙になっていて、喫煙所は広い駐車場を横切って、病院裏手の通用門の横あたりにあった。病棟からは随分の距離だ。辺りには灯りもなく、暗闇にポツリと小屋のようなものが建っていた。
一樹とソフィアは喫煙所の中を覗いたが、数人の人影はあったが、林の姿は見えなかった。
「おかしいなあ、ここじゃないのか?」
二人は、病院の外周道路を回ってみたが、やはり見当たらなかった。
もう一度、病棟に戻ろうとしたところで、駐車場の植え込みから呻き声が聞こえた。もしやと思い、一樹が覗き込むと、林が植え込みの樹に埋まるように倒れていたのだった。

抱え起こすと、林の脇辺りがヌルっとした。一樹の手は真っ赤な血で染まった。
「おい!林!しっかりしろ!」
林は返事が出来ないくらい衰弱していた。
「ソフィア、すぐに、助けを呼んできてくれ!」
ソフィアは、病棟に向かって駆け出した。

「おい、林!おい・・林!」
一樹は何度も林を揺すり、顔も叩いて意識を取り戻させようとした。林がうっすらと目を開ける。そして、
「あ・・あ・・か・・ず・・き・」
林は、朦朧とした意識の中で、息さえも途切れがちに、何とか反応したようだった。それでも、どうにか搾り出すような声で、一樹に
「さ・・・には・・気を・・ 」
かすかな声で何かを告げた。
そして、一樹の手を探り、自分の病棟服のポケット辺りに手をやった。一樹は、ポケットをまさぐると、小さな鍵が入っていた。
「・・た・・の・・む・・」
林はそう言うと大きく息を吸い込んでから、静かになった。

すぐに、病棟から看護士がストレッチャーをもって駆けつけた。林の体を持ち上げると、スナックで刺された辺りから大量に出血している。すぐに酸素マスクがつけられ、病院内へ運ばれた。

処置室の前の通路の長椅子に、一樹とソフィアが座っていた。もう1時間くらい経過していた。時折、看護士が輸血パックを持って入っていく。
ようやく、手術中のランプが消え、医師が出てきた。
「・・大量の出血によるショック状態でした。・・とりあえず止血していますが、予断を許さない状況です。」
「あの、傷は誰かに刺されたということですか?」
「さあ、出血は、ここに運び込まれたときの刺し傷が開いたためです。刺し傷は、内臓にも達していましたから、むやみに動くとこういう大量出血になる事はあります。安静にしているように指示したんですが・・・おそらく、歩き回った事が一番の要因だと思いますが、それ以上は。」
「そうですか。」

しばらくして、酸素マスクと点滴をつけた林のベッドが運ばれてきた。
「まずは意識が戻るかどうかです。出血も今は何とか治まっていますが、今度また出血が起こると体力的に限界でしょう。とにかく、今晩は山になるでしょう。」
医師はそう告げて、去っていった。

林の件は、すぐに署にも連絡を入れた。ただ、明らかな外傷はスナックでの刺し傷以外ない事や、むやみに動いた事が原因という医師の診断があり、事件という扱いにはならなかった。

一樹は林の病室にいた。ソフィアは疲れたのか、待合室のソファで寝入っていた。
一樹はベッドの脇に座って、一人状況を思い返し、林の身に起こった事を想像していた。
「林はそれほどヘビースモーカーではなかったはずだ。こんな状態で、タバコを吸いに行くなんてことはないだろう。・・誰かが来た課、呼び出したか。そして、きっと傷の状態を知っていて、そこにダメージを与えるような事を・・。こいつは、きっと一連の事件の重要な情報を握っていたんだろう。」
そう呟くと、林のポケットに入っていた鍵を取り出した。鍵には、市内でも有名なスポーツクラブのロゴとナンバーが刻印されていた。
「きっと、この鍵のロッカーに、何か隠してるんだな。明日にでも行ってみよう。」


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