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file5-11 情報収集 [同調(シンクロ)]

捜査会議の後、鳥山課長は刑事室で新たな情報を待っていた。
聞き込みに回っている刑事達が順次情報を入れてくるのだが、これと言った有力情報はなかなか掴めなかった。鳥山課長はこれまでの事件簿を見ていた。

ここ数年大きな事件が無かった町で、急に様々な事件が起きている。鳥山は、それぞれの事件はばらばらに起きたのではなく、何かのつながりがあるはずだと考えていた。更に、2年前の葉山刑事の事件と容疑者が同一の可能性があること・・とてつもなく大きなものが動いているはずだった。しかし、そのキーワードが見つからなかった。

夕方遅くになって、佐伯が戻ってきた。
「ただいま戻りました・・暴力団とサラ金のほうからは、これといった情報はないですね。」
佐伯はそう言うと、どかっと自分の席に座った。鳥山が訊いた。
「おい、佐藤はどうした?一緒じゃなかったのか?」
「ええ、あいつ、朝から、ほら、課長が言ってた誘拐事件の裏取りで回ってるんじゃないですか?」
「そうか・・ああ、それで、お前のほうはどうだ?」
「いえ、特に、クリニックと犯人との関係はなさそうですね。やっぱり衝動的な犯行なんでしょう。・・ああ、あいつ、随分、借金はあったようですよ。金に困って衝動的にって奴でしょう。もう良いんじゃないですか?」
「そうか・・いずれにしても拘留期限もあるからな・・判った。奴は明日にでも身柄を送ろう。・・佐伯、お前が護送してくれるか?」
「ええ、いいですよ。・・課長、俺上がります。明日は朝から護送任務なら早く寝とかないと・・」
そう言いながら、部屋を出て行った。

夜遅くになって、2班の松山という刑事が戻ってきた。
「課長、署長の言われたように、検問エリア内の検証をしてみたんですが・・」
その刑事は地図を持っていた。
「何かわかったか?」
「ええ、確かに矢澤さんの言うとおり、検問を抜けるのは難しいはずです。それで、主要道路の検問位置から内側で見たら、いくつか病院はあったんです。さっきまで一通り回ってきましたが、個人病院ばかりでとても潜むような場所は・・ただ、スナックのある場所の隣の公園を抜けると、川沿いの土手を使って、北方面へ抜ける道が見つかりました。」
「そうか、やっぱり抜け道があったか。」
「ああ、そうです。・・ちょっと該当しないかもしれませんが、その道から上がったあたりに、例の、加藤由紀の病院・・・由紀ビューティクリニックでしたか、が見えました。川沿いの高台ですから、結構目立ちました。」
「そこには行ってみたのか?」
「ええ、院長は不在でしたが、受付でカメラ越しで話は訊きました。・・まあ、これといった不審な点はありませんでした。」
「そうか・・ご苦労さん。」
由紀ビューティクリニックがあるのは単なる偶然なのか?鳥山は考えていた。ただ、関連があるとしても、立入り捜索をする事は出来ないのは明白だった。
「なあ、松山、佐藤を見なかったか?」
「いえ、あいつ、昨日の夕方から見てないですね。・・ちょっと連絡してみましょうか。」
松山は携帯電話を取り出してかけた。
「課長、あいつ、電源を入れてないみたいですね。・・確か、署の車でいってるはずですから、無線も呼んでみましょう。」
しかし、無線も通じなかった。
「おかしいですね。あんな真面目な奴が、携帯も無線も切ってるなんて。何かあったんでしょうか?」
「あいつには、誘拐事件の裏取りで、武田フーズを調べるように指示しておいたんだが・・。」
「ああ、武田フーズなら、・・ええっと・・ああ、森田が南のほうを回ってたんで・・」
そう言っていたところで、森田が戻ってきた。
「ご苦労さん・・なあ、森田、佐藤のやつ、見なかったか?」
「ええ。・・・そのことで、課長にと思って。」
「どうした?」
「ええ、今朝、あいつから、武田フーズに行くんで捜査会議に出れないかもしれないから、午後に喫茶店で待ち合わせをしてたんです。・・でも来なくて。携帯も通じないし、何かあったんじゃないかと武田フーズに行ったんですが、居ないんですよ。車もありませんでした。一体どうしたんでしょうか?」

鳥山はいやな予感がした。何か今回の事件の情報を得たことで、命を狙われるような状況になったのではないか。

その時、署長が刑事課へ入ってきた。
「今、亜美から連絡があった。」
そういうと鳥山に亜美の話をそっと耳打ちした。鳥山は小さく頷いてから、課員たちに、
「ユウキさんはまだきっと生きてる。・・・病院や研究施設を中心に、怪しい動きがないかもう一度当たってみてくれ。・・・どこかに監禁されているはずだ。」
もう夜も遅い時間だったが、部屋に居た刑事たちは皆飛び出していった。

「署長、・・実は、佐藤が居ないんです。誘拐事件の裏取りで、武田フーズを調べるように言ってから、一度も戻らず、連絡も取れない状態です。」
「それは・・きっと今回の事件の何かを掴んだんだろう。無事ならいいが・・。そうだ、GPSで探してみよう。確か、庶務課のお局・・藤原さんなら何とかしてくれるんじゃないか。」
「ですが、こんな時間です。今からだと・・」
「私から連絡してみよう。・・・それから、亜美の話は、矢澤にも伝えてあるから、何か連絡をくれるだろう。・・今夜は徹夜になりそうだな。」

そこに電話が鳴った。一樹から林が意識不明の重体になっている事が報告された。
「そうか・・まあ、事件性は否定できないが、病院内でのことだからな。医師が事件性がないと判断しているんじゃ、強制的な捜査には無理がある。一応、状況をお前が徹底的に調べておけ。」

鳥山も署長も、一連の事件を引き起こしている組織が存在していると確信していた。


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