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file5-12 潜伏先 [同調(シンクロ)]

F5-12 潜伏先
 翌朝早く、改めて捜査会議が開かれた。
「昨夜、スナック襲撃事件の被害者、林さんが病院で意識不明の重体の状態で発見された。事件性は低いと考えられるが、同一犯によるものと仮定すると、相当執念深い犯人といえる。・・スナック襲撃事件の裏にはきっと大きな事件に繋がる可能性が高い。そのつもりで、2班は、聞き込みを頼む。」
「判りました。」
「それから、1班は、ユウキさんの拉致事件の捜査を頼む。こっちは時間がない。早く発見しないと命に関わる事態だ。ああ、それと、佐藤が昨日から行方不明だ。武田フーズの裏取り捜査中に居なくなっている。今、居場所を特定しているところだが、佐藤の足取りも合わせて情報収集してくれ。」
鳥山は会議の冒頭でそう言った。
「あの、課長!」
手を上げて声を出したのは、松山だった。
「昨夜報告したように、襲撃犯は、検問をすり抜けていったとも考えられます。検問の網の中にある病院だけでなく、対象を広げる必要もあると思いますが・・・」
それを聞いた鑑識課の川越が発言した。
「大量の出血がありますから、・・それほど遠くはないでしょう。それと、外科手術ができる処、そして輸血も必要です。内科医は外して、外科を中心に絞り込んで任意の捜査ではどうでしょうか?先ほどの地図では、そういう病院は・・由紀ビューティクリニックくらいしかありません。」」
「あそこは、男性立ち入り禁止で、インターホンでの対応だ。・・任意じゃ、中に入れてくれるかどうか。」
それを聞いていた佐伯が口を挟んだ。
「抜け道があったんなら、潜伏などしないだろ。市外へ逃走して、今頃、怪我をした奴は死んでるさ。そんな、厄介な病院の任意捜査するのは無駄だよ。・・それに、佐藤だって、そのうち現れるさ。みんな、事件が続いたんで、何でも大袈裟に考えすぎてるんじゃないか?」
佐伯の言い分にも一理あった。
そこに、電話が入った。
「課長!隣の原田署から連絡です。」
「うむ、何だ?」
電話を取ってなにやら話をし、すぐにみんなのほうに向いて言った。

「隣の原田署から、身元不明の遺体が上がったそうだ。こっちからの情報と照らして、襲撃犯の可能性もある。すぐに、照会に行ってくれ。」
佐伯は、その知らせを聞いて、
「な?どうだ、言った通りじゃないか。」
そう言って、これ見よがしな顔をしてみせた。さすがに刑事課の面々は押し黙ってしまった。

「あのう、課長。良いですか?」
沈黙を破って声を出したのは、森田だった。
昨日、夜遅く戻ってきてからまた佐藤の足取りを追っていた。
「武田フーズの業務内容の裏取りを佐藤を手伝っていたんですが、どうもちょっと気になる事があって。」
「なんだ?」
「ええ、武田フーズは加工会社ですが、2年ほど前までは、食品の下処理で結構営業は良かったんですが、突然、魁トレーディングの下請けに入ってるんです。ちょうど娘が行方不明になった頃で。・・その後、従業員を随分解雇していて、仕事も随分減っているんです。以前の取引先にも聞いたんですが、この地域では結構、品質の良い仕事だったみたいで、突然の変化に戸惑ったところも多かったようなんです。」
「それと一連の事件とのつながりが?」
「いえ、魁トレーディングの下請けの仕事で、魁トレーディング輸入担当部長だった加藤と武田が繋がっているのはわかるんですが、どうも仕事の実態が見えないんです。表面上は、KTCが輸入した食品の加工をする事になっているんですが、月に1回か2回程度の搬入記録なんです。それに、担当部長の加藤も、それ以外に会社内での仕事も少ないようで、何か別の仕事をしていたんじゃないかと思える節があるんです。」
「何か、魁トレーディングに裏の仕事があるということか?」
「済みません。佐伯の言ったように、ちょっと大袈裟に考えているのかもしれませんが・・どうも気になっていて。」
これには佐伯が強く反応した。
「考えすぎなんだよ。・・きっと、魁トレーディングの下請けで儲かる見込みがあったんだろ。でも、円高かなにかのせいで、思うように輸入品の確保が出来ず、武田フーズも仕事が来なくて、恨みをもった武田が、加藤部長と結託して、金を強請り取ろうとした。誘拐事件の取調べの自白もそうなってるだろ。矛盾点はないじゃないか。」
「まあ、佐伯、そう決め付けるな。もし、裏に何かあるなら大変なことになる。・・武田と加藤をもう一度取り調べしてみるか?」
鳥山課長がそう言うと、
「課長、すでに武田と加藤の送検も終わっていますから、再捜査となると、検察からも反発はあるのではないでしょうか。」
「そうか。・・・例の強盗犯の方は?・・佐伯、どうだ?」
佐伯はちょっとムッとした表情で、
「昨夜、報告したとおりです。特に何も出てきません。暴力団やサラ金関係も当たりましたが、供述どおり、借金の返済に困って、衝動的に強盗に入ったというところです。今日、これから身柄を検察に移すんでしょう。もういいじゃないですか。」
「そうか。わかった。現状から、ユウキさん拉致事件とスナック襲撃事件に絞って進めよう。いいな。それと佐藤の発見だ。以上。」
捜査会議は終わり、それぞれ分担された聞き込みに出かけていった。佐伯は、強盗犯の身柄を検察に護送する任務に就いた。

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