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file5-13 発見 [同調(シンクロ)]

静かになった刑事課の部屋の奥では、昨夜から庶務課の藤原女史が、佐藤の行方をパソコンで追跡していた。夜中に署長からの電話で呼び出された割りには不機嫌ではないのは、もともと藤原女史は、刑事課希望であったが、時代がまだ女性捜査員を認めていなかった為、結局、刑事になれなかったという経緯があるからだった。ようやく出番が来たと嬉々としてやってきたのだった。しかし、どれだけ熱心に頑張っても、電源が入っていない携帯電話はなかなか捕捉出来ない。半ば、諦めかけた時、突然、信号がキャッチされた。

「鳥山課長、佐藤さんの携帯電話が見つかりました!・・あ!消えた!」
ほとんど金切り声のように室内に響き、鳥山があわてて駆け寄ってきた。
「どこだ!」
「すみません。ほんの一瞬ですが、信号がキャッチできました。・・もう消えています。・・今、座標で地図と照合します。・・ああ、ここは、武田フーズの工場ですね。」
「いや、あそこには居なかったと報告があったが・・」
「じゃあ、携帯電話だけがどこかに落ちてるってことですかねえ。・・・でもおかしいわ、落ちてるんなら、電源が入ったり切れたりしないと思いますが・・・。誰かが触ってるはずなんですがねえ。私、行って見てきましょうか?」
鳥山課長は、藤原女史の意気込みは充分理解していたが、
「いや、そっちは、矢澤に当たらせよう。君は、引き続き、佐藤の車の行方を捜してもらいたい。君しか出来ない仕事だ、頼む。」
そう言われて、藤原女史は、気分良くパソコンに向かったのだった。

鳥山はすぐに一樹に連絡をした。
「矢澤、今、どこだ?」
「ええ、ちょっと林の一件で調べ物ですが・・」
「さっき、佐藤の携帯電話をキャッチした。武田フーズの中らしい。携帯だけかもしれないが、一度見に行ってくれないか?」
「はい、判りました。」
昨夜、林から預かった鍵のロッカーを調べに行く途中だったが、急遽、Uターンして、武田フーズに向かう事にした。

武田フーズに到着した一樹は、事務所と工場の中を歩いて回った。ソフィアも一緒だった。
何度か佐藤の名を呼んでみたが、何の反応もなかった。ふと、一樹は何か工場の中が、事件の時と違う事に気が付いた。事件のあとの現場検証で、あちこちに印が付いているが、それとは違う違和感があった。
一樹は、武田を捕らえる時に潜んだ、機械の下に同じように潜り込んでみた。
「ねえ、何やってるの?」
ソフィアは一樹のおかしな動きが気になって尋ねた。
「いや、何だか、どこか前に来た時と違うんだ。・・で、あの時と同じ姿勢で見てるんだよ。」
暗闇の中に潜んだとはいえ、一樹は打ち消す事が出来ない違和感が残ったままだった。
「おかしいなあ。何かが違うんだ・・微妙に・・どこか・・」
じっと見回してみた。ふと発見した。
「わかった、これだ。」
そう言うと、機械の隣に積上げられたコンテナに近づいた。
「あの時、コンテナにぶつかって倒れたんだ。いくつか転がったはず。でも綺麗に積みあがっている。それに、並び方が全体に真ん中に寄ってるんだ。」
一樹はコンテナの周りをじっと見た。
「ほら、ここ。最近動かしたんだ。埃の積もり方が違ってる。・・この辺りに何か隠してあるんじゃないか?」
そういうと一樹はコンテナを動かし始めた。ソフィアもそれを見て一緒に動かした。積みあがったコンテナの真ん中あたりの床にドアがあった。
取っ手を持って持ち上げると、腐敗臭が広がった。ソフィアは思わず吐きそうになって遠のいた。一樹は中を覗きこんだ。真っ暗だった。車に戻って懐中電灯を持ってきて、静かに、梯子を下りていった。
「ソフィアはそこに居たほうがいい。万一の事があるといけない。・・良いね。」
そういい残して、静かに床下に入った。

中をゆっくりと懐中電灯で照らした。柱に持たれかかるように誰かが居た。そっと一樹は駆け寄った。
「おい、佐藤、佐藤、大丈夫か?」
佐藤は反応しなかった。足元を照らしてみた。佐藤の両足は膝から下が焼け、骨が見えていた。そして、大量の血の海が広がっていた。その血痕の先は、深いプールに繋がっていた。
「あそこから這い上がってきたのか・・」

プールを見ると、黒い塊と液体が溜まっている。その中に、佐藤のカバンが半分ほど溶けたような状態で見えた。佐藤の携帯電話をキャッチできたのは、カバンに入っていた携帯電話が、液体に漬かって溶け始め、電池が燃え上がった時に、一瞬電波を発したのだった。

佐藤のところへ戻った一樹は、佐藤の右手の先に、血で描かれた記号のようなものを見つけた。文字なのか絵なのか、わからない。ト音記号のようにも見える。一樹は、携帯電話のカメラでその記号を写した。

一樹が床下から上がってくると、署に連絡した。
「佐藤、発見しました。武田フーズの床下にいました。しかし、課長、・・すでに死んでいます。・・」

10分ほどで、刑事課や鑑識課が総動員で現場に現れ、現場検証のあと、佐藤の亡骸が運び出された。

「課長、実はお話が・・。」
一樹はそう言って課長に、林の最後の言葉と鍵の存在について話した。そして、佐藤が残した記号のようなものを見せた。
「わかった。お前は、別行動で、隠されている林の情報と佐藤のメッセージを探ってくれ。わかった事があれば、俺に直接報告してくれ。・・・それと、ソフィアさんはどうする?」
「できれば、署内で保護できませんか?亜美はレイさんに付いていた方が良いでしょうから、誰か付けていただけると・・」
「そうか。なら、藤原女史に頼むか。女性のほうが良いだろう。・・お前も気をつけろ。今回の事件、ひょっとするともっと犠牲者がでるかもしれんからな。注意するんだ、良いな。」
「はい、判りました。これ以上、犠牲者は出しません。」
そう言って、ソフィアの待つ資料室へ行った。

「ソフィア、ちょっと危険な捜査に入る。そこで、お前の保護は、署内で・・藤原さんにお願いした。もうすぐ来るだろう。悪いが、おとなしくここに居てくれ。」
「えっ!私、一樹と一緒に居たい。」
「悪いな。ここからは、お前を一緒に連れて行くわけには行かないんだ。判ってくれ。また、連絡する。いいな。」
一樹は、ソフィアを残してさっと部屋を出た。

行き先は、まず、林の残してくれた鍵のロッカーだった。

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