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file5-14  不明遺体 [同調(シンクロ)]

プールの中の塊は、大半は豚や牛の肉の塊であったが、それに紛れて人骨も発見され、詳しく鑑識で検査する事になった。佐藤の遺体も司法解剖されたが、打ち身が数箇所とプールの中の濃硫酸によって焼かれた跡以外には、特に外傷がなく、故意にプールに落とされたのか、誤って落ちたのか、判らなかった。
「佐藤が乗ってきたはずの署の車がありません。誰かが、ここで佐藤をプールに突き落とし、証拠を消す為に車もどこかに持ち去ったはずです。」
佐藤と同期で懇意にしていた、森田や松山が鳥山課長に迫り、殺人事件として捜査する事を提案し、プールの中の遺体らしきものもあわせ、武田フーズの全容を解明する事となった。
すぐに検察に連絡し、武田と加藤の身柄は、翌日には、橋川署に戻された。

武田の取調べをやり直す事となった。誘拐事件で直接逮捕した佐伯が、まずは担当する事となった。
「ダメです、課長。まったく知らないの一点張りで、大体、工場の地下にそんな施設があることさえ知らなかったなんて言ってます。誘拐事件も、仕事が減って倒産に至った恨みからの犯行だと、自供は変えません。」
そう言いながら、諦め顔で取調室から出てきた。
「少し、時間をおいて、証拠固めを進めてから、再度、取調べをする。松山に変わってくれ。」
課長の判断で、一旦、留置場に戻された。

「課長、人骨の1体は、武田フーズの娘とDNAが一致しました。」
鑑識課のDNA検査の結果が報告された。行方不明で捜索願がでていたが、実際には工場内に遺体があったことが判明し、刑事課は色めき立った。
「武田フーズの社長自身が、娘を殺害し遺体を隠す為に工作したか、他の人間・・例えば、加藤部長が関連しているのか・・いずれにしても、詳しい事情聴取が必要だな。」

松山刑事が、武田の取調べを始め、すぐに武田は自供し始めた。
娘の不埒な行動に腹を立てた武田が、夜、工場で娘に説教をしていた時、逆切れした娘が暴れた為、殴りつけたら運悪く頭を打って死んでしまった。遺体を隠す為に、工場地下にあった廃棄物処理の機械で娘の遺体を粉砕し、濃硫酸溶液のプールに捨てたというのだった。
松山刑事は、鳥山課長に大筋の内容を報告した。
「そのことを知っている人間は?」
「いえ、いません。居たら、もっと早く捕まっていたんじゃないでしょうか。」
「かなり手を焼いていたのは事実だから、自供内容は信用できるだろう。それ以外の遺体については?」
「その後は、地下室を封鎖したので、他に遺体があるわけはないと言っています。」
「という事は、武田以外にも、そのプールの存在を知っている人間が居るという事か?」
「ええ、・・ひょっとして、加藤じゃないでしょうか?KTCの取引で、しばしば武田フーズに出入していますし、誘拐事件も結託していたわけですから、工場内部の事を知っていてもおかしくないです。」
「よし、次は加藤の取調べだ。・・・だが、佐藤の件では、二人とも留置場に居たわけだから、もし、誰かが佐藤を殺したとしたら、他にもあの場所の存在を知っている人間が居る、いや、その場所を知られたくない人間が居るという事になる。・・加藤の取調べはその点にも注意してやってくれ。」
「判りました。」

加藤の取調べ準備が始められた時だった。
「課長、大変です。・・加藤が・・」
「どうした!」
「急に胸の痛みを訴え始めて・・・呼吸と脈拍がありません。今、救急を呼んでいます。」

すぐに救急隊がやってきて、応急処置をして、すぐに病院に運んだが、加藤は救急車の中で息を引き取った。病院の診断では、加藤には既往歴もあり、心筋梗塞によるものとの報告があった。

武田フーズの地下室の遺体の件は、武田の供述の内容しか裏付けるものがなくなった。武田への取調べが一層強められた。担当は、松山刑事と佐伯刑事だった。
取調室の机を挟んで、武田と松山刑事が向かい合っていた。佐伯は、窓際に背を向けて立っている。

「あの地下室のことを知っているのはお前以外に居ないのか?」
松山刑事が強い口調で問いただす。
「いえ・・」
「加藤は知っていたという事はないか?」
「いえ・・・」
「しかし、最近まで使われていた形跡もあるんだ。」
「知りません。」
「よく思い出すんだ。・・娘の遺体以外にももう一人遺体があったんだぞ。今のままでは、それもお前の罪になる。極刑は免れないんだ。」
武田は沈黙した。そのやり取りは何度も続いた。しかし武田の口からはNOの言葉ばかりが続いていた。

その様子を見て、佐伯が、武田の肩を叩き、耳元で、ゆっくりと口を開いた。
「昨日、加藤が死んだよ。心筋梗塞だってさ。気の毒な事だな。」
その言葉に、武田は佐伯の顔をまじまじと見て、ごくりと唾を飲み込んだ。そして、観念したように口を開いた。
「・・・お話します。・・あの地下室は、加藤部長も御存知でした。鍵も1つ渡しました。・・娘の事は秘密にするという約束で、時々、夜中に材料の搬入と一緒に使っていたらしいです。でも、そのことは一切聞かない約束でした。ですから、何をしていたのかは全く知りません。・・まさか、遺体を処理していたなんて・・」

武田の供述で一気に事件の手掛かりが進むかと思われたが、当の加藤は死んでいて、結局、加藤の行動を掴む事もままならなかった。

「課長、加藤が部長をしていた魁トレーディングの家宅捜索はできませんか?」
松山刑事が躍起になって迫った。
「家宅捜索をするには、加藤が地下室で遺体処理をやっていた証拠がなければ無理だな。」
横から佐伯が口を挟んだ。
「鑑識からの報告じゃ、地下室内には指紋すら出てこなかったんだろ?武田の供述だって、罪を逃れる為の作り話かもしれない。・・遺体が誰なのかもわかってないんだ。現状じゃ、武田の娘の殺人と遺体損壊を立件する程度じゃないのか?それ以上は厳しいだろ。それに、加藤が死んじまった事は警察の管理問題も問われる事になる。早々と事件を終わりにしたほうが良いんじゃないか?」
佐伯の言うとおり、現在の証拠の範囲では、それ以上の捜査は進められなかった。検察からも、被疑者死亡ではとても刑に問う事も難しいと返答があったばかりだった。
「じゃあ、佐藤の死はどうなるんだ!」
松山刑事ほか、刑事課に居たほかの課員たちも憤りを持っていた。
「・・気持ちはわかるが、佐藤自身が足を滑らせたって事もあるだろ。・・まあ、武田の娘の遺体を発見できただけでも成果じゃないのか?」
佐伯がみんなを前に話す。
「お前、相棒が死んだってのに、そんな言い方ってあるか!」
松山が佐伯に食って掛かった。
「俺に当たるのはお門違いだろ!大体、課長が指示した事だ。単独で動いていた事がそもそもおかしいんだよ。当たるんなら、課長にしろ。」
そう言って佐伯は吐き捨てるように言い残して、刑事課の部屋を出て行った。

襲撃事件・行方不明事件・遺体発見、途轍もない事件が連続して発生して、刑事課全員疲れきっていた。

「みんな、疲れてるんだ。・・ああ、今日は少し休め。このままじゃ、事件の本質すらわからなくなる。さあ、今日は解散だ。」

ユウキが行方不明になってすでに1週間が過ぎていた。何一つ進展のないまま、時間が過ぎていた。


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