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file6-2 最上階 [同調(シンクロ)]

 ここは、ビルの最上階にある特別室だった。
室内には、高級な調度品が並んでいて、リビングルームには、本皮の真っ赤な大型のソファーが中央に置かれていた。アロマの香りが充満し、あちこちにある花瓶には見事な活花もある。
 白髪まじりの紳士が、ソファーに座り、ブランデーを傾けている。脇には、素肌に、透き通る生地のドレスだけをつけた40歳前の女が、男に体を撫でられながら、横たわっていた。

「今回の素材は・・優秀よ・・・今までの3倍くらい取れてる・・」
「それはいい。」
「やっぱり、嫌がる意思を持ってるほうが、成績がいいみたい。・・納得ずくではダメね。」
「そうか・・やはり、昔みたいに、一人暮らしの女をいきなり拉致してくるほうがいいか。」
「ええ、それと気が強いほうが良いわ。今度の子も、最初散々暴れて手を焼いたのよ。」
「そうかい・・じゃあ、お前みたいな女が一番良いんじゃないか?」
「そうね・・でも・・私は、あんな事しなくてもいつでも頭の中には一杯溢れてるから・・」

男は、テーブルにあった携帯電話を取り上げると、どこかに電話をし始めた。
「ああ、俺だ。・・処分はどうした?・・・・言ったとおり、工場の高熱炉に投げ込んだか?・・ああ・・それなら大丈夫だ。・・・次のターゲット、早く見つけるんだ。・・・・良いんだ・・・無理にでも・・・ああ・・・それでいい・・注意して・・いいな。」

電話を切ると、男は少し苛立っていた。
「警察の動きがどうにも鬱陶しいな。あいつは何をやってるんだ。」
また、携帯電話を手に取ると、別のところへ電話をした。
「ああ、俺だ。・・・お前、ちっとも役に立ってないじゃないか。・・いい加減、捜査を中断させろ。・・・いや、わかってる。・・・今までだって何も問題なかったじゃないか。・・・だいたい、あの刑事が何であそこにいるんだ。・・・刑事の動きはお前が抑える約束だろうが・・・今のままじゃ、お前も始末する事になるぞ。良いな。」

「全く、どいつもこいつも役に立たん奴ばかりだ。」
そういうと、別のブランデーを取りにカウンターバーの方へ向かっていった。

「大丈夫よ。・・警察は全く気付いていないはずよ。・・」
「だが、周りをうろうろされるのはたまらんなあ。」
「大丈夫だって・・林だってもう死んだと同じでしょ。・・うるさく付きまとってたけど、結局、何も掴めずじまいだったじゃない。警察なんて、そんなに執念深くないでしょ。気にしすぎるのは、やめましょ。」
「だが、あいつらを切り捨てるシナリオが少し狂ったのは計算外だった。こっちが手を回す前に警察に捕まるなんて、今までになかったじゃないか。」
「貴方が警察に連絡するのが早すぎたんじゃないの?」
「いや、まずは警察をこっちに引き寄せておいて、あいつらを始末するつもりだったんだ。だいたい、まだ、通報したばかりだったんだぞ。何か、おかしいと思わないか?」
「そうね・・・うちだって、セキュリティの通報より早く警察が来たのよね・・なんだか、家の中が見えてるような感じだったわ。・・・」
「だろ?事件が起きるのを予期してたような速さだったろう。やはり、あいつが行ってた透視能力のある女は本当にいるんだろうか?」
 警察内部の一部しか知らない情報を、権田会長はすでに耳にしていた。
「へえ、そんな子がいるの?・・面白そうね、その子、きっと面白い頭の中をしてるんじゃないかしら・・その子を拉致してきて、実験台にしてみたいわ。」
「ああ、それも面白いだろう。だが・・・」
男は何か思い出したように、言葉を止めた。そして、
「まさかな・・・そんなはずはないが・・・一度調べさせるか・・・」
そう言うと、携帯電話を取って、また電話をした。

「ああ・・俺だ。・・例の予知能力のある女の事、もうちょっと調べてくれ。・・・そうだ・・・神林病院と何か関係ないか調べて連絡くれ。・・・ああ・・・すぐにだ・・。」
そういうと電話を切った。

「ねえ、もういいじゃない。・・ほら・・取れたての薬よ。」
女はカバンの中から小瓶を取り出し、付いているスポイトで1滴だけ、自分の体に垂らした。その1滴を、男は自分の舌で掬い取るように吸い上げ、身震いした。全身に恍惚感が走り、二人は体を重ねた。
特別室は、魁トレーディングの最上階。そして、権田会長と由紀の密会の場所だった。

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