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file6-4 手帳 [同調(シンクロ)]


 一樹は、林に手渡された「鍵」を頼りに、市内にあるスポーツクラブへ向かった。1階にはショッピングセンターがあり、2階以上にジムやスパ等が設置されている人気の施設だ。
受付で、警察バッジを見せ、事情を話して、支配人に案内されるまま、ロッカー室へ入った。壁一面に大型のロッカーがあり、鍵番号を頼りに探した。それは、ロッカー室の一番奥にあって、30cmほどの小型のロッカーだった。
 ゆっくり、鍵を開けると、中には、黒い手帳が一つ入っていた。日常的に使っていたものではないらしく、真新しいものだった。

 開くと、写真が一枚ひらりと落ちた。一樹はそれを拾い上げた。
 写真には、若い女性が黒いボディの車に乗り込んでいくところが写っていた。少しピントがぼけているのか、ぶれているのか、顔まではわからなかったが、もう一人女性が写っているのが判った。もう一度手帳を見ると、もう1枚写真が挟まっていた。その写真は、どこかの建物に入っていく写真だった。入口に男が一人立っていた。
「こいつ、スナックの襲撃の時の男に似ている。」
顔かたちまでは判らないが、一樹には、体格からそれと判った。
「林の奴、やっぱり、例の怪しい情報を追っていたんだ。」
手帳を開いてみた。そこには、加藤由紀の経歴が書かれていた。
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黎明大学医学部卒業、美容整形医師として海外に。行き先は不明。
日本では、一時、市民病院にも勤務。結婚したが1児をもうけて離婚。
夫はその後死亡。
3年ほど前に、橋川市に現れたと思われる。
権田会長とはその頃に出会い、開業資金の提供を受けている。

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そして次のページには、もう一人、「権田健一」の名があった。
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黎明大学医学部卒業後、アメリカ カリフォルニアに研究のため留学。
留学中の詳細は不明。突然姿を消し、アメリカでの足取り不明。
帰国後、魁商会設立。輸入品を取り扱う事業を立ち上げる。
3年前に魁トレーディングへ改称し、地元の企業をいくつか買収。
資金の中身は不明。正業の収益だけではないと思われるが・・
魁トレーディングへの改称とほぼ同時期に由紀ビューティクリニックも開院。
開業資金はほぼ権田が出している。愛人。

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「この二人が今回の事件に関係してるって言う事なのか?・・・」

ロッカー室に座り込んでぶつぶつ言っている一樹に、スポーツクラブの支配人が咳払いを一つした。
それに気付いて、一樹は、手帳を持ってスポーツクラブを出た。車に戻り、もう一度じっくり手帳を見た。

「権田会長と加藤由紀がどう関わっているんだろう。・・・」
引き続き、手帳を捲った。そこには、ぽつりと「神林ルイ」という名前が記されていた。
「なんだ、神林ルイって?神林レイの間違いじゃないのか?だが・・権田会長と由紀、そして神林病院が何らかの形で繋がっているってことかな?」

更に捲ってみると、手帳の真ん中に ψ の記号が書かれていた。そして、シュン・リュウ・セイ・ユウ等、名前なのか判別できないメモもあった。
「これは・・」
そういうと、一樹は携帯電話を取り出し、取ってあった写真を開いた。佐藤刑事が死に際に自分の血で書いた記号と同じだった。
そして、手帳の最後には、林と若い女の子が仲良く写った写真が挟まっていた。写真の隅には、おそらくその女の子が書いたと思われる「Love ユカ」の文字。
最初に手帳から落ちた車に乗り込む女の子が、このユカだと一樹には判った。
「なんて事だ。・・まさか、林の奴、自分の恋人を囮に使ったのか?」
そう思って、写真を裏返してみると、
「ユカ、お前は馬鹿だ。俺の為に自分で囮になるなんて・・一体、どこに居るんだ。必ず助けてやるからな。」
と林の文字があった。一樹にはようやく理解できた。
携帯電話が鳴った。
「はい。矢澤です。」
「大変!ソフィアさんがいなくなっちゃった!ちょっと離れてたすきに姿が・・・ごめんなさい。」
電話の相手は、署で保護役をしている藤原女史だった。
「すぐに戻る。」
そう言って、一樹は車を走らせた。

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