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file6-5 失踪 [同調(シンクロ)]

一樹が鳥山と相談し、ソフィアを藤原女史に保護を頼んで出かけた後、ソフィアは藤原女史と一緒に資料室にいた。二人は、特に会話もなく、ソフィアも退屈だった。
ただ、ここ数日、落ち着いて眠れなかったため、ソファーに横になってうとうととしていた。その様子を藤原女史も確認し、本来の仕事をこなす為、資料室から出て、庶務課に戻っていた。

「藤原さん、ソフィアさんは?」
鳥山課長が尋ねた。
「ええ、なんだか疲れているようでうとうとしていたんで、そっとしておいたほうが良いかなと思って・・」
「そうか・・まあ、俺たちもそうだが、これだけ事件が続いたんだ、疲れてるだろう。まあ、時々様子を見ておいてくれ。」
「はい。」
署内にいる限り、襲われる事もないだろうと皆安心していた。

一人になったソフィアのそばには、誰もいないことを見計らって、資料室に男が入ってきた。
男は、静かに近づくと、ソフィアの口に手を当て、黙らせるようにして、
「おい、ソフィア。良く聞くんだ。」
低い声で脅した。
「会長がお前を探してる。お前の裏切りは許されない。リュウやシュンがお前を探して居る。このままじゃ、お前の命が危ない。俺も狙われてるんだ。・・一緒に逃げよう。署内に居たってどうなるかわからない。」
男の話は信用できなかった。だが、確かに、こうしているうちにもいつ襲われるか知れない。ソフィアは考えた。
「俺なら、あいつらの裏を斯いて逃げる道を知ってる。どうする?時間が無いぞ。」

ソフィアは、承諾した。この男を信用したわけではなかった。今、捜査は暗礁に乗り上げている。自分が囮になって真相まで近づく事ができれば、きっと一樹の役に立てる。そう考えたのだった。

「わかったわ。でも藤原さんがすぐに戻ってくるから、次に居なくなったらそっと出て行くわ。」
「よし、じゃあ、署の裏手の公園を抜けて川沿いの土手で待ってるから、早く来るんだぞ。」
そう言って男は部屋を出て行った。

ほとんど入れ違いに藤原女史は戻ってきた。
「あら、目が覚めた。矢沢さんにくっついていて疲れたんでしょ。まだ横になってていいのよ。私、もう一仕事しなくちゃいけないの。一人で大丈夫よね。」
「ええ、もう少し横になってます。もう、体がだるくて・・」
「ええ、そうしなさい。じゃあ。」
そう言って、また部屋を出て行った。

ソフィアはその様子を見てから、部屋を出て行くことにした。
その前に、一樹の机に小さなメモ用紙を残した。

〈今まで騙していてごめんなさい。
私も組織の一員でした。でも怖くなって、一樹さんを頼りました。
私の知っている事はほんの僅か。組織に女の子を紹介しただけ。
でも、きっと命を奪われてしまっていると思います。・・
仲間の一人が一緒に逃げようと誘ってきました。でも、きっと罠です。
おそらく、私もアジトに連れて行かれるはずです。
私の思念波をレイさんに捉まえてもらって居場所を探してください。
本当にごめんなさい。     ソフィア〉

ソフィアは、資料室の窓を開けて、そっと部屋を抜けた。署の裏手にある公園には誰もいなかった。
静かに走り抜けていく間、ソフィアは涙が止まらなかった。きっともう一樹には会えないだろうと思えて、悲しくてたまらなかった。
川沿いの土手には、1台の車が止まっていて、先ほどの男が運転席に座っていた。
助手席に乗り込むと、男は、ソフィアの腕を掴んで、
「悪いねえ、俺は組織を裏切る気は無いんでね。」
そう言って、ソフィアの鳩尾辺りを殴りつけた。ソフィアはそのまま気を失ってしまった。


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