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file6-6 内部の敵 [同調(シンクロ)]

 藤原女史からの連絡を受けて、急ぎ署に戻った一樹が最初に目にしたのは、机の上の小さなメモだった。
「なんてことを!」
ソフィアの覚悟は痛いほどわかったが、事件の真相がいまだ掴めず、唯一、組織との関係のあるソフィアさえも消えてしま居、一樹は落胆した。

 一樹は鳥山課長と紀藤署長に、林の残した手帳を見せた。
「この一連の事件には、権田会長と加藤由紀が絡んでいるのは間違いないはずです。しかし、何も物証が・・」
一樹の言葉には悲壮感が漂っている。
「実は、これまでにもしないで発生している行方不明事件や殺人事件・・、直接的には何も無いんだが、そのたびに、魁トレーディングと関連が見えていたんだ。それで探ってはいたんだが・・・」
紀藤署長がこれまでの経緯を話した。
「レイさんがシンクロで見たユウキの居た光景からすると、どこかの地下室じゃないかと・・それとこの写真。どこかで見た事があるんですが思い出せなくて・・」
手帳をぱらぱらと見ていた鳥山が、
「おい、このマーク、見たことがあるぞ。・・・なんだっけな?」
鳥山は手帳に書かれた ψ 記号をじっと見入っていた。脇から、藤原女史がその記号を覗き込んで、
「ああ、この記号は・・確か、佐伯さんのわき腹についてた刺青みたいなものじゃないかしら?」
3人は藤原女史の顔を見た。
「・・おかしな想像をしないで下さい。・・以前、何かの捜査で打ち身をしたと言って、救護室でシップを貼っていたのを偶然見かけて・・変な刺青があるのを問いただしたんです。刑事が刺青なんてねえ。そしたら、刺青じゃないって隠したんです。」
「という事は、佐伯も組織の一員ということか。」
襲撃事件のあと、検問を逃れる事ができたのも、きっと佐伯の手引きによるものだったのだろうと想像できた。
「じゃあ、ソフィアを連れ出したのは佐伯という事になる。・・しまった。署内なら安全だと油断した。」
鳥山が悔いた。
「いずれにしても、ソフィアさんの発見と保護は急がねばならない。だが・・どこに。せめて、手紙に手がかりでもあればいいのだが・・」
署長は言った。
「ソフィアはどこかで酷い目に遭うか殺されるかでしょう。手紙にあるように、その思念波をレイさんにキャッチしてもらうしか居場所を特定できないんじゃないでしょうか。」
一樹は、ソフィアの覚悟を受け止め、何とかその前に救出するために、レイの力を借りる事を提案した。それを聞いた署長は否定的だった。
「いや、もっと他に方法が無いか考えるんだ。」
「どうしてです?」
「先日の発作の事を知ってるだろ。もし、ソフィアとシンクロ出来たとして、殺害時点だとどうなる?レイさんの命だって危うくなるかもしれないんだぞ。」
「ですが・・」
そのやり取りをしている時、署長の携帯電話が鳴った。神林病院でレイと一緒に居る亜美からだった。

「パパ?今、レイさんが・・ソフィアさんとシンクロしたみたいなの。ソフィアさんは今どこに居るの?」
「ああ、実は先ほど行方がわからなくなったんだ。どこかに拉致されたみたいなんだが・・」

病院にいる亜美は、特別室の外で電話をしていた。
「でね、ソフィアさんはどこかに監禁されているみたい。・・真っ暗な部屋の中で、何度か殴られて・・凄く痛い思いをしているって・・・レイさんも苦痛に耐え切れなくて・・シンクロをやめてしまったの。」
「大丈夫なのか?」
「ええ、今はベッドで横になっているわ。・・でね、その場所はどうやら海が近い場所らしいの。それと・・佐伯さんも一緒に居るみたいなの。一体どうなってるの?」
「・・どうやら、佐伯も組織の一員だったようだ。・・でその場所の特定は出来ないのか?」
「私が思ったのは、海と真っ暗な空間・・で、ひょっとして、埠頭にあるコンテナの中じゃないかって・・」
「そうか、コンテナか。だが・・たくさんあるな。」

その会話を横で聞いていた一樹が、
「コンテナって行っても、きっと魁トレーディングが所有しているものじゃないでしょうか?そこに絞り込めば、ある程度わかるはずです。それに一緒に佐伯も居るんだったら、近くに行ってから佐伯に電話をして呼び出す事も出来るでしょう。まだ、佐伯は自分の正体がばれたとは思っていないでしょうから。」
「そうか・・よし、すぐ一樹は埠頭へ行ってくれ。・・ああ藤原さん、埠頭のコンテナの配置、所有者は調べられるかい?」
藤原女史はその言葉を聞くまでもなく、すぐにパソコンに向かって、港湾管理組合のデータベースにアクセスし始めていた。そしてこう言った。
「すぐに向かって!着くまでには特定して連絡するから。」

署長は、
「よし、私は魁トレーディングに揺さぶりをかけてみよう。会長と面会してみれば、何か尻尾を出すはずだ。亜美、おまえはまだレイさんと一緒に居てくれ。・・厳しいとは思うが、レイさんのシンクロはまだ必要なんだ。頼んだぞ。」
と言って電話を切った。それに応えて、鳥山も
「じゃあ、私は、由紀ビューティクリニックですね。家宅捜索は無理でしょうが、いい方法を思いついたんで、やってみましょう。おい、松山!森田!一緒に来てくれ。」
それぞれ、事件解決に動き始めたのだった。

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