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file6-7 魁トレーディング会長室 [同調(シンクロ)]

File6-7 魁トレーディング1階
一樹たちとともに署を出た、紀藤署長は、まっすぐに魁トレーディングの新社屋に向かった。
一階受付には、可愛い顔をした受付嬢が二人暇そうに座っていた。パーティの時にも居た娘だった。
紀藤は、警察バッジを見せてから、
「会長とお話がしたいんだが・・」
「あのお約束でしょうか?」
「警察バッジを見せただろ?警察が約束して事情聴取にくると思うのかい?」
受付嬢は、慌てて会長室に電話をした。
「すぐに会長が参ります。」
そう応えると同じくらいに、権田会長が受付に現れた。
「事情聴取とはどういう事でしょう。」
怪訝な表情をしながら権田は現れた。紀藤署長は、表情を崩してこう言った。
「いやあ・・最近の若い子は冗談も通じませんなあ・・いや、先日、竣工パーティにお招きいただいたんですが、ゆっくりお話も出来なかったので、近くに来たついでに少しご挨拶でも思いまして・・」
紀藤の目は決して笑っていなかった。
「何だ・・人が悪い・・・先日の誘拐事件のスピード解決、本当に感謝しとります。さあ、こちらへ。」
権田会長は1階の部屋に紀藤を案内した。
「ここが私の仕事場ですから・・」
入り口には、金色の『会長室』のプレートがついていた。
「ほう、これだけ大きなビルなら、普通は会長室なんてのは最上階じゃないんですか?」
「ああ、皆さん、そう言われますなあ。ですが、・・ほら、天下を取った大名が、天守閣から天下を見下ろすような、どうも偉そうで・・性に合わんのです。・・それに、1階のほうが便利なんですよ。こうやってお客様を迎えるのもお待たせする事も少ないですからね。」
権田会長はそう言うと、紀藤に広いソファを勧めた。ソファに座ると、大きな窓越しに、庭園が見える。
「何かお飲みになりますか?・・そうだ、先日、スリランカから持って帰った黄金の紅茶がある。どうですか?」
「ほう、ご馳走になりますか。」
権田会長は、内線電話で紅茶を持ってくるように指示したようだった。

「で?ご挨拶というのは嘘でしょう。何かお調べですかな?」
紀藤の表情を見抜いていた権田が切り出した。
「いや、調べているという事でも無いんですが・・・実は、先日の誘拐犯、加藤と武田ですが、どうやら二人で結託して、良からぬことをやっていたようなんです。・・武田の工場、武田フーズの地下室から遺体が発見されましてね。・・実は私の部下の刑事もそこで命を落としているんです。権田さん、何かご存じないでしょうか?」
「武田フーズ?」
そういうと権田会長は、幅2メートルもある大きな仕事机の脇にあるパソコンに向かった。そして、会社のデータベースにでもアクセスしているのか、キーボードを叩いて画面を見ていた。
「ああ・・武田フーズ。・・確かこの会社は、加藤が輸入部長の時に、強引に持ち込んできた下請け会社の一つですな。・・いや、実のところ、社内でも悪い噂が絶えなかったんですよ。」
「ほう・・どんな噂でしょう?」
「もともと私どもの会社は、輸入品の仲介業を本業にしております。輸入部は言わば中枢の部門なんです。・・加藤は引き抜きで、部長に抜擢したんです。ここに、来る前には丸菱という商社に居たんで、それなりに海外との繋がりも持っていましたからね。実績を上げるのは凄かった。」
「相当やり手だったと・・」
「まあ、そういう奴には、必ず怪しい噂も付いてきますから。」
「具体的にはどんな?」
「まあ、取引先とのリベートの取り方とかいろいろねえ。まあ噂の類は何でもありますよ。」
「武田との関係は?」
「さあ、ただ、一度わが社の荷物を横流ししてると告発がありましてね。その事を加藤に問い詰めた事があります。・・横流しというよりも加藤の指示で他の取引先へより高価に売りさばいていたらしいんですが・・まあ、それで加藤を部長から降格させたり、武田との関係を切ったりしましたが・・・それが誘拐事件の動機じゃないかと思いますが・・」
「ああ、そうらしいですね。」
そこまで話したところで、ドアがノックされ、先ほどの紅茶が運ばれてきた。
「・・これは、スリランカに行った時、現地で手に入れたものなんです。高地のごく僅かなところでしか栽培されない品種のお茶を2年かけて発酵させた貴重な紅茶なんです。黄金の紅茶と言ってますがね。」
「ほう、確かに黄金色のお茶ですね。」
そう言って紀藤は口をつけた。権田はその紀藤の言葉を聞いて笑った。
「・・まあ、そういう風に受け取るのもいいですな。・・いや、黄金の紅茶と言うのは訳がありまして。実は、金のこの紅茶は同じ重さで取引されるんですよ。だから黄金の紅茶。」
「へえ、それは面白いですね。・・ということはこれ1杯でいくらくらいでしょう?」
「ふーん、多分、1杯で1万円はくだらないと思いますが・・」
そう聞いて思わず紀藤はお茶を零しそうになった。

「・・ところで、権田会長はこの会社を作る前はどんな事をされてました?」
「は?今度は私の取調べですか?」
「いえ、これだけの会社を極めて短期間で作られた成功談は、市長をはじめ、いろんな人から聞かされてます。どういう経歴をお持ちなのか・・個人的に興味がありまして。」
「・・この会社の前には、しばらくは会社勤めもしておりました。」
「確か、医学部のご出身だとか・・医師免許はお持ちじゃないようだが・・」
その言葉に権田は少し顔を歪めた。
「紀藤さん、何だか、随分、私の事をお調べのようだが・・」
「まあ、仕事柄、いろんな情報は入ってきますから・・医学部に入られたのに医者にならなかったというのはちょっと興味がありますな。」
「・・・はあ・・・医学部には入ったんですがね、自分に合わないと・・医師の道はあきらめました。」
「その後は、しばらく日本にはいらっしゃらなかったんでしょう?」
紀藤は林が残したメモのコピーを持っていて、中身の確認をしていたのだった。
「・・そこまで。・・はいはい、そのあとはアメリカの研究機関でしばらく仕事をしていました。・・それから、日本に戻って少し会社勤めはしましたがね。もういいでしょう。私が話さなくても紀藤さんは自身の情報網でいくらでも私の経歴を調べる事ができるんじゃないですか?」
「まあ・・・最後に一つだけ。会社ではいろんなものを取り扱っていらっしゃるようだが・・違法なものはありませんよね。」
「勘弁してくださいよ。これだけの会社です。ちゃんとコンプライアンスは徹底しています。社員もたくさん居るんですよ。会長としてちゃんと目配りしています。違法なものなどありませんよ。・・いや、もうこんな時間だ。申し訳ありません。次の約束があるので・・」
権田は少し苛立った反応を示した。
「これは、申し訳ありません、突然伺って。・・・それともう一つ。ああ、これは質問じゃありません。・・今、署を上げて、市内で発生している行方不明事件を追っています。あと少しで黒幕に行き着くでしょう。まあ、近々、またお会いする事になるでしょう。それでは失礼します。」
紀藤はそう言って、テーブルの上の「黄金の紅茶」を飲み干すと、悠々と部屋を出て行った。

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