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file6-9 鳥山の作戦 [同調(シンクロ)]

鳥山課長と森田、松山は、由紀ビューティクリニックへ向かっていた。
「課長、これからどうするんです?強制家宅捜査でもするんですか?」
森田が尋ねると、鳥山は、
「・・いや・・家宅捜索となればそうとう抵抗もあるだろう。仮に何も見つからなければ厄介な事になる。」
「じゃあ、どうするんです?」
今度は松山が尋ねる。
「俺が、一度、クリニックへ行ってから、不審車両の目撃情報があったと偽の情報を伝える。クリニックに車両が本当に入っていたなら、何らかの動きをするはずだ。君達は、近くで張り込みをして、不審な動きがないか血チェックするんだ。何でも良い。由紀自身の動きがあれば尾行しろ。他にも患者も含め出入するものをすべて写真に収めろ。」
「まずは、マークして何らかの手掛かりを掴むという事ですか。」
「ああ、今、署長が権田会長のところへ行って揺さぶりを掛けてる。そっちからも動きがあるだろう。」
「わかりました。」

車を近くに停め、鳥山はクリニックへ向かった。森田と松山は、二手に分かれ、玄関側と裏口側で張り込むことにした。

鳥山がクリニックの玄関に立った。一樹たちが訪れた時のように、インターホン越しで身分を問われた。
「橋川署の鳥山です。先日の襲撃事件の犯人が乗っていた不審車両をこの近くで目撃したという情報がありまして、当日の状況を伺っております。」

すぐに、由紀が、いつもの着飾った服装で出てきて、不機嫌な様子で、玄関脇の庭へ鳥山を案内した。
「お忙しいのに申し訳ありません。」
鳥山はそう言うと、椅子に座った。
「それにしても、見事な庭園ですなあ。手入れは先生がされてるんですか?・・あそこの花なんか、いいですね。これなら患者さんも気持ちよく診察も受けれるんでしょうね。・・おや、池まであるんですか・・」
用件とは関係ない話をのんびりとし始めた。その様子に、由紀は一層不機嫌になって言った。
「すみませんが、私も忙しいんです。御用件をさっさとお話下さい。」
「ああ、これは失礼しました。・・いや、先日、スナックで客と従業員が襲撃される事件がありましてね。・・殺人未遂事件として今捜査しているんですが・・その犯人たちが乗っていたらしい車を、この近くで目撃したって情報を、うちの・・佐伯という刑事が聞いてきましてね。それで、まあ、このあたりの聞き込みに回ってるんですわ。」
由紀は佐伯という名前に少し反応したが、平静な顔で、
「・・昼間は、ここに居ますが、夜なら不在ですし、不審な車と言われても・・」
「まあ、そうでしょうな。・・ええと、・・」
鳥山は手帳を取り出してメモを見るふりをして続けた。
「・・そうそう・・黒いバンで、ガラスも黒く塗りつぶしているらしいんですが・・・」
「ですから、深夜はここにはおりませんから・・」
「おや、私、深夜に目撃されたと言いましたっけ?・・目撃されたのは・・事件の前なんですがね。」
少し由紀は戸惑った表情をしながらも、
「いえ・・事件の後かと思ったんですよ。」
「ほう・・事件が夜だったとも言っていないはずですがね。」
「とにかく、知りません。失礼ね!忙しいんです、用が済んだのならお引取り下さい。」
由紀は口調を荒げて立ち上がった。
「・・・すみませんね・・・もうひとつ。その犯人が、どうやら若い女性を拉致している事件の犯人と同一犯らしいんです。今、署を挙げて捜索しています。近いうち、全てが明るみにでるはずです。」
「・・私には関係ないことでしょう!どうぞお帰り下さい。」
そう言って由紀は先に病院に戻っていった。

鳥山は、その様子を見ながらにやりとした。
事件には確実に由紀が絡んでいる。あのうろたえ方から、すぐに何か動きがあると確信した。鳥山は、庭を一回りしてから、ゆっくりと出て行った。
そして、病院の前で張り込み体制に入った松山に目で合図した。松山は、病院の玄関が見える位置にある民家の庭でカメラを構えていた。その後、鳥山は病院の外を一回りして裏口へ回った。病院の裏手には、朝倉川という小さい川が流れていて、川沿いに車両がようやく1台ほど通れる道が付いていた。こちら側から見ると病院は一段高い位置に立っているのがわかった。裏手で森田が張り込みの場所を探していた。

「森田、どうだ?」
「課長、裏口はなさそうですね。高い塀があるだけです。」
言われるとおり、川沿いの道からは病院内へ入る通路は見当たらなかった。
「ただ、気になる事があって・・」
森田は、視線を隣りに向けた。視線の先には、古い倉庫が建っていた。外見からはすでに使用されていない様子に見えた。
「あそこの倉庫なんですが・・使っていないと思うんですが・・入り口には真新しい鍵が掛かっていまして。」
そう言いながら、森田は課長を伴って倉庫の前に行った。
鳥山も倉庫の入り口の鉄扉に掛かった鍵を見て、
「これは最近になって付けられたようだな。」
「ええ・・それと、倉庫とクリニックに段差があって、ちょうど、あの庭辺りがおかしい感じがするんです。」
「ひょっとすると、あそこへの出入り口があるかもって事か?」
「ええ・・」
「よし、この周辺の聞き込みをしてみよう。ここ数日、この門が開いていたことはなかったか、出入はないか、それと不動産屋にも行ってみるか。君は、この辺りで張り込んでくれ。ひょっとして、出て来るかもしれんからな。」
鳥山は、すぐに周辺の聞き込みを始めた。

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