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-帰還-11.タタラ [アスカケ第1部 高千穂峰]

11.タタラ
 アラヒコとミユの二人の暮らしが始まった。アラヒコは宣言どおり、麻袋に入った様々な実の種を植えるために、村の中や山のあちこちに、穴を掘り、肥料になるものを埋め、種を植え始めた。ミユもできる限りともに居て、仕事を手伝った。
 カケルは、宴の時に聞いたアラヒコの土産話が忘れられなくて、アラヒコの仕事の手伝いをしながら、時あるごとに、アスカケでアラヒコが見たもの、聞いたもの、何でも質問した。
 アラヒコが戻ってきて半年ほど過ぎた頃、カケルは、今まで秘密にしてきた「タタラ」の事を相談する決心をした。
「アラヒコ様、ひとつお話したい事があるんです。」
いつもはこれほど丁寧な話し方をしないカケルが神妙な顔つきでアラヒコに切り出したので、アラヒコは少し戸惑ってから答えた。
「何だ?何か悩みでもあるのか?」
「僕と一緒に館に来て欲しいんです。」
そう言ってカケルはアラヒコを館に案内した。館には、巫女セイが祈りの最中であった。二人が入ってきたのに気づき、祈りを止めた。
「カケル、どうしたのじゃ。」
「巫女様、巻物を見せてください。アラヒコ様に相談したいんです。」
セイは少し考えてから、
「そうじゃな・・アラヒコが戻ってきたのも何かの知らせやもしれぬ。・・タタラの事を話すのじゃな。」
「はい。」
カケルは巻物を広げ、そこに書かれている「ハガネ」と「タタラ」の事を説明し、実際に、ケラも取り出し、タタラの跡を見つけたことも話した。
「そうか、ハガネというのか。俺の持ってる小刀も、ヒムカの国でもイヨの国でも珍しがられたんだ。どんなものより良く切れるし強いからな。だが、そう簡単に作れるものではないだろう。」
「でも、古人はこれを作ったんです。」
「で、もしできたらどう使うのだ?」
「セイ様も、災いを呼ぶかも知れぬと言われたので・・今日まで秘密にしてきたんです。・・でも、アラヒコ様が戻られ、外の暮らしの話を聞くうちに、僕も、このハガネを上手く作って、もっと強い剣や刀を作ってみたいと思ったんです。・・石包丁よりもよく切れるものが出来れば、村の人も畑仕事も料理も、木を切るのももっともっと楽になるんじゃないかって。」
アラヒコは、腕を組み、眼を閉じたまま、カケルの言葉を聞いた。巫女セイもカケルの考えを聞き、押し黙ったままであった。しばらくして、アラヒコが目を開き、カケルをじっと見つめてこう言った。
「良いか、カケル。これはきっと村の暮らしを大きく変えるだろう。俺たちが持っている小刀でさえ、木も獣も簡単に切り裂く事ができる。命を奪う力を持っている。使い方を誤れば、人さえも危める事ができる。仮に、上手くハガネができたとしても、どんなものを作るかが大事だ。・・ヒムカの国王のように、戦に備え、武器を作るような事になれば、この村に必ず災いが起こる。一族みな死ぬことにもなるだろう。それを見定める事ができないなら、やめた方が良い。」
アラヒコの言葉は厳しかった。巫女セイも深く頷いていた。カケルは答える言葉が浮かんでこなかった。自分が考えている以上に、ハガネを作り出す事は重い事なのだと言われ、今の自分にはやってはならない事のように感じていた。
その様子を察したのか、アラヒコはこう言った。
「・・・そう言っても、いずれ、他国でハガネは作られるだろう。俺の行ったイヨの国にも、時折、渡来人が訪れていた。その度に、香だとか黄金だとか、見たこともない物を持ち込んでおった。きっと、ヒムカの国も、戦支度にハガネを使う時が来るだろう。・・・幸い、この村は、周りは深い森に囲まれている。静かに暮らしていれば、戦に巻き込まれることもないだろう。お前の言うように、畑や山の仕事に役に立つ道具を作れれば、ここの暮らしも良くなるだろう。・・まずは、お前が見つけたタタラの跡と、石を取ったという場所に案内してくれ。俺の目でしかと見定め、ミコト達とも相談し、どうするか決めようではないか。」
そう言って、カケルの頭を撫でた。そして、巫女セイのほうに向き、
「それで良いでしょう。セイ様。このアラヒコがしっかりカケルを見守りましょう。」
セイは、アラヒコの目を見て、頷いた。

すぐに、アラヒコとカケルは、タタラの跡へ向かった。
「こんな藪の中で、お前、よく見つけたな。」
タタラの跡についたアラヒコは、少し息を切らしながらそう言った。こんもりとした土塁のようなものがあり、カケルは、その構造を説明した。そして、辺りに落ちている黒い塊を拾い上げ、「これがハガネです」と説明した。
「砂を燃やしてこれを取り出すのです。・・砂が真っ赤になって流れ出る・・砂の命を冷やし固め、また熱くして、叩き伸ばし、形を作ると、剣や刀になるんです。」
「だが、その砂はどこから持ってくる?」
そう聞いてカケルは、例の洞窟を案内した。
「きっとこの中にあるはずです。古人が掘った穴です。きっとこの中にあるはずです。」
「よし、判った。お前がここまで見つけ、ハガネの作り方も頭に入っているのなら、後は、みなの考えを聞くことだ。とても一人ではできるものではない。村の皆が力を合わせないと無理だ。今夜にでも皆で相談しよう。」

鉄鉱石2.jpg

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