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-帰還-10.約束 [アスカケ第1部 高千穂峰]

10.約束
「これは、俺はアスカケに出る日、ミユが俺にくれた。」
ミユの名が出て、皆、驚いた。そして、ミユを探した。
ミユは、タゾヒコとタンの娘で、年はアラヒコより一つ下だった。ミユはタゾヒコの影に隠れるように座っていたが、アラヒコの口から自分の名が出て、驚き、真っ赤になったまま俯いていた。
その様子に村人たちは凡そ理解した。

アスカケに出る青年に恋心を抱く娘。村に戻る青年にその事を伝えてはならないのが、村の女たちの掟になっていたはずだった。だが、その掟に背いてまで、ミユはアラヒコに強い想いを抱いていたという事になる。

「ミユが、アスカケの旅の供にとくれたのだ。毎晩、寝る前に握ってナレの村を思い出していた。そしていつか必ず戻ると誓っていたんだ。」
「そいつが戻る時を教えてくれたとは?」
「ああ、桃の作り方を覚えた頃の夜のことだ。いつものように、こいつを取り出した。」
そういって包みを開くと、中には小さな石があった。
「最初は、真っ黒な、ただの石ころだと思っていた。ナレの村でミユが拾った石を村を忘れぬようにというだけで持たせてくれたのだと思っていた。・・最初は、軽い気持ちで眺めては、時々磨いたりしているうちに、何だか心が落ち着くようになった。それで、俺は、毎晩、握り締めて眠るようになったんだ。」
みな、じっとアラヒコの話を聞いている。
「だが、その日は様子がおかしかった。寝る前にいつものように取り出すと、どこかおかしい。軽く握るとぱくっと割れたんだ。中を見ると・・光っていた。不思議な色の光が広がって、目の前に、ミユの顔が浮かんだ。俺は、会いたくて堪らなくなった。だからすぐに戻る事にしたのだ。」

そう聞いて、村人は皆、アラヒコとミユの心を理解した。
アラヒコは立ち上がり、ミユの傍に行った。
「ミユ、俺はちゃんとアスカケを見つけ戻ってきたぞ。お前のくれた石が俺を守ってくれたおかげだ。ありがとう。約束どおり、俺の妻になってくれるな?」
呆気に取られた村人はしばらく静かになっていた。
タンがミユの背を押した。ミユも立ち上がり、
「ずっとずっと待っていました。よく戻ってきてくださいました。」
そこまでいうと涙をぽろぽろと零し始め、アラヒコはそっと抱きしめたのだ。
村人はみな拍手喝采し喜んだ。

アラヒコの石は、巫女セイに手渡された。
「おお、これは紫水晶という宝じゃな。・・・悪いものを吸い取り良いものを吐き出す・・争いをおさめ、調和を作り出す不思議な石なのじゃ。・・これをミユがアラヒコに・・・いや、これはきっとミユの分身じゃろう。アラヒコにはミユが守り神なのじゃ。」
巫女セイの言葉は、さらに二人の未来を祝福するものとなった。

アラヒコは、ミユとともに、タゾヒコとタンの前に跪いた。そして、
「タゾヒコ様、タン様、我らが夫婦になる事をお許しください。」
そう言って手を着き頭を下げた。
タゾヒコとタンは顔を見合わせ、大きく頷いた。そして、タゾヒコが低く柔らかな声で、
「アラヒコよ。この村を支えるミコトとして、力を尽くしてくれ。そして、この村を豊かな里にしてくれ。ミユはもう何年もお前の事を待っておった。朝な夕なに、大門からお前の姿を探し、帰りを待ちわびておったのだ。幸せにしてやってくれ。」
そう言いながら、アラヒコの手を取り、ミユの手と重ねた。
タンが、加えた。
「もう、二人の暮らす家はあるのよ。・・昔、アラヒコが住んでいた家・・お前がアスカケに出てからも、ミユは毎日のように掃除をしていたから、すぐにも住めるはず。大丈夫、お前たち二人ならしっかりやっていけるはず。」
そう言って、目頭を押さえていた。

アラヒコのアスカケからに帰還を祝う宴は、そのまま、二人の結婚の宴となった。
「ねえ、笛を吹いてよ!」
村の娘たちは、ミコト達に言って、薄絹の衣に着替えて、祝いのための舞を踊った。
カケルもイツキも、エンもケンも、子どもたちも皆、その舞の輪に混ざって踊り楽しんだ。
ナレの村に幸せの輪が広がっていた。

紫水晶.jpg
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