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-帰還-13.ハガネ作り [アスカケ第1部 高千穂峰]

13.ハガネ作り
タタラ場には、村のミコト達や女たちも集まっていた。
ハガネを作る材料の砂鉄も、大量の炭も、タタラの脇に置かれている。カケルは巻物を広げ、鋼の作り方を今一度頭に入れようとしていたが、皆の視線を強く感じて緊張していた。
長老が皆の前に立ち、宣言する。
「これより、ハガネ作りを始める。いにしえより伝わりし術であるが、今や誰も知らぬ。カケルが館で巻物を見つけ、このタタラ場や砂鉄の在り処を見つけた。ミコトたちも合力して、いよいよ段取りは整った。良いか、皆のもの、このハガネ作りは、一族に災いを呼ぶやも知れぬ。じゃが、わしは決めたのだ。一族の未来を担う、アラヒコやカケルに希望を託し、ハガネ作りでこの村が今よりも豊かになることを信じようと。」
長老の言葉に、村の皆が歓声を上げた。そして、長老はカケルを促した。カケルは、皆の前で、ハガネ作りの段取りを説明した。
「これは、タタラという。ここに炭で火を起こし、少しずつ、砂鉄を降り注ぐ。砂鉄は炭の火で焼かれ、真っ赤になって熔ける。そして、その真っ赤になったものを冷やし固め、叩き、また焼き、何度も何度も繰り返すと、やがて、黒く硬いハガネになる。」
皆、カケルの言葉を熱心に聞き入った。その時、数人のミコト達が、麻布に包まれた長いかたまりを運びこんできた。その後を、巫女セイが入ってきた。ミコト達は荷物をタタラの前に下ろした。
「これは、祭壇の下にしまわれておったものじゃ。代々の巫女が語りついできた一族の秘密でな。剣とともに大事にしまわれておった。おそらく、ハガネ作りに必要な道具であろう。」
そう言って、麻袋を開くと、中には、鉄鋏や槌、タタラの中をかき回すための棒等であった。カケルは、その道具を一つ一つ見ながら使い方を考えた。
「この道具は、おそらくいにしえ人が大陸から大切に持ち込んだのではなかろうか。」
「ありがとうございます。きっと役に立つはずです。」
カケルは答えた。その様子を見ながら、アラヒコが掛け声をかけた。
「よおし!始めるぞ。」
タタラの口から炭が入れられ、火が灯された。だが、それは、篝火よりも小さく頼りないものであった。
「おい、カケル。こんな小さな火で大丈夫なのか?」
アラヒコが少し不安になり訊いた。カケルも、こんな小さな火では砂鉄を燃やす事などできないだろうと感じていた。だが、炭を増やしたところで変わりようはない。長老が言った。
「火を強くしたいなら、強い風が必要だ。炭焼きでも、最初は大きな火が必要だから、風を送るのだ。・・きっと同じ要領でやればいいのではないか。」
そう言って、長老がタタラの口の前に立ち、炭焼きの要領で、筒を火口に入れ強く吹いた。一瞬、火が強くなった。
「もっともっと強い風を送らなければだめだな。」
そういうと、ミコト達も、辺りの竹を切り、節を抜き、筒を作り火口に突っ込んで吹き始めた。徐々に、炎が大きくなってきた。皆で入れ替わり息を吹き込む。やがて轟々と音を立てる程に炎が立ち上った。
「よし、そろそろいいんじゃないか?」
アラヒコがそういうと、タタラの上の口から、カケルが少しずつ砂鉄を入れ始める。砂鉄を入れると炎が小さくなる。また、強く息を吹き入れる。また砂鉄を入れる。何度か繰り返した。
「カケルよ、火の番はどれくらい続けるのだ?」
「巻物によると三日三晩炊き続けるとあります。」
「三日三晩?・・・」
辺りにいたミコト達も仰天した。気を許すとまた炎が小さくなる。慌てて息を吹き込んだ。
「よし、腹を決めよう。・・ミコト達はこれから交代で火の番だ。女たちは、飯の支度をしてここへ運べ。子どもらは、村の仕事をやるのだ。・・とにかく三日三晩、ハガネができるまで皆で力を合わせるのだ。」
その声で、ミコト達は火の番の順番を決め、女たちは村に戻り、食事の支度を始めた。子どもたちも、村に戻り、それぞれできることを分担した。
やがて日が暮れ、月夜になった。タタラ場はある辺りは、タタラの火が燃え盛る事で獣は恐れて出てこないだろうが、村からタタラ場までの道は暗闇である。皆、惧れを抱きながら、村とタタラ場を行き来した。

火を入れて4日目の朝。ミコト達は皆疲れ切っていた。タタラのまわりで、横になる者、座り込んで眠っている者もいた。カケルはタタラに火を入れてから一睡もしていない。アラヒコはカケルの体を心配して休むように諭したが、とても眠れる精神状態ではなかった。
朝日がタタラ場に差し込んできた。炭も燃え尽き、時々、ぱちぱちという音はするが、小さくなっていて、静かになった。
皆が見守る中、カケルはタタラの下の口を差し棒を使って壊し始めた。タタラの下に溜まっているはずの真っ赤に焼けたハガネの元を取り出すのだ。ゴツゴツと何度か叩くと、タタラの一部が割れた。そして、そこから、真っ赤に焼けどろどろになったものがゆっくりと流れ出してきた。タタラの前に掘られた窪みに、徐々に溜まり始めた。みていた者全員がどよめいた。窪みにわずかにある水分と触れると、ジュッという音がする。まるで生き物のように、いや、真っ赤な大蛇がのた打ち回っているようにも見えた。

たたら2.jpg
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