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-帰還-14.カケルの秘密 [アスカケ第1部 高千穂峰]

14.カケルの秘密
「カケル、少し休みなさい。」
巫女セイが声を掛けた。
「ああ、ここまで出来たんだ。こいつが冷えるまではどうしようもない。しばらく休むほうがいい。これからが大変なんだろ?」
アラヒコにも言われ、カケルは休む事にした。すぐに、娘たちが、周りの草を刈り始め、山のように積み上げ、その上で麻袋をかけて、カケルが横になれる場所を作った。カケルは、そこに横たわると、ようやく安堵したのかすぐに寝息を立て始めた。
その様子を見ながら、長老が言った。
「随分疲れたのだろう。ゆっくり休ませてやったほうが良い。さあ、皆は村に戻るのじゃ。」
長老の言葉に、村の者は、カケルの寝顔を覗きながら、徐々に村に戻っていった。
長老は、アラヒコのほうに向き直ると、
「さて・・この先どうしたものか。・・このハガネを使い、何を作るか。」
とアラヒコに問う。アラヒコは、
「それを今、思案していました。村の役に立つものをとカケルは言っていましたが・・・。」
「・・カケルはいずれアスカケに出るであろう。お前もそうであったが、アスカケには命を脅かす事も少なくない。・・お前の話では、隣のヒムカの国では戦への備えもしておると言う。・・カケルの身を守る道具を作るのもひとつじゃな。」
父ナギも長老の話を聞き、
「ええ・・カケルの持つ小刀では心許ないとは思っていました。・・・カケルの持つ小刀は、畑仕事みたいな場には役立つでしょう。・・ただ、カケルはそういうものを持つかどうか・・・。」
アラヒコが言う。
「ならば、こうしたらどうだろう。祭壇にある大剣が我らの守り神であるように、このたびのハガネも同じように剣を作ろう。カケルがアスカケに出る日まで、大剣とともに祭壇に置き、カケルが旅立つ日に持たせてやってはどうか。」
それを聞いて、父ナギが答えた。
「・・ええ、それが良いでしょう。カケルがアスカケに出るにはまだ三年あります。それまで、皆の守り神として置きましょう。」
そう言って、カケルの寝顔を見ながら笑った。
長老は、真顔になって続けた。
「それにしても、カケルは我らの思う以上の力を持っておる。八つの頃、サチを引かせたら干し肉を射抜くほどの力があった。・・その力を見たとき、しばらく封印せねばと思ったほどじゃ。・・それに、あの、鷹さえ手懐け、指笛ひとつで思うままに操る。古い書物も読み解き、温泉や薬草を見つけ、さらに、ハガネ作りもやってのけた。」
「頼もしいミコトに育ちますね。」
アラヒコが言う。それに長老が、
「・・ああ・・だが、わしはカケルが我が村に留まるとは思えんのじゃ。こやつのアスカケは、この小さな村ではなく、もっともっと広い世にあるのではないかと思うのじゃ・・・。」
「確かに、ヒムカの国で聞いた話でも、海を越えたくさんの渡来人が、ヤマの国や、アナトの国にもたくさんやってきているようです。・・あちこちで戦になる日も遠くないでしょう。おそらく、カケルがアスカケに出る頃には、戦の最中を旅する事になるでしょう。カケルの力を求める国も多いかもしれません。」
父ナギが思い切ったように言った。
「・・長老、アラヒコ、お二人には話しておかねばならないことがございます。」
「なんじゃ?」
「長老様はご存知でしょうが・・わが妻ナミは、ウスキの村の生まれです。」
「ああ・・承知しておるが・・」
「実は、ナミをこの村に連れて来たのは訳がありました。・・・ウスキの村は、ここと同じ隠れ里です。ヒムカの国にありながらも、外界とは隔絶しています。・・実は、あの村は遠く邪馬台国の王の一族が、混乱を逃れ隠れ住んだところなのです。一族は、いつの日にか邪馬台国を再興したいと考えておりました。ナミもその願いを幼き頃から教え込まれております。」
「邪馬台国の王の一族とは・・・。」
「はい。ですから、ナミはカケルが幼き頃より、文字を教えてまいりました。いずれ、カケルがアスカケに出る日に、ナミはカケルに邪馬台国の話をするつもりでしょう。」
「そうであったか・・・。確かにカケルの恐ろしき程の力が、乱れた世を治める事もできるやもしれぬな。・・邪馬台国も今一度豊かな国になるかも知れぬ。」
「・・まだ、カケルに教えるには時が早すぎます。どうか、この話、長老様とアラヒコの胸のうちにしまって置いていただきたいのです。」
「判った。」「承知した。」
三人がそういう会話をしているうちに、カケルが目を覚ました。
カケルは、ふっと起き上がると、真っ先にハガネの様子を見た。そして、ナギやアラヒコ、長老を見て言った。
「鉄バサミと槌を持ってきてください。そして、火を起こしてください。・・・冷え切る前に、このハガネをもう一度焼き、叩き、伸ばし、自在に形を変えるものにせねばなりません。」
カケルは、眠りに落ちていながらも、次にすべき事を考えていたようだった。
「よし・・やるか!」
邪馬台国.jpg
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コメント 7

月夜のうずのしゅげ

いつも思うのですが物語のよさもさることながら、名前にも独特の雰囲気がありますね。
by 月夜のうずのしゅげ (2011-03-11 10:21) 

苦楽賢人

月夜のうずのしゅげ様、コメントありがとうございます。

空白の世紀は、やはり想像できない事ばかり。現代とは違う時間の流れや生きる事の本質を考えるには面白い時代なのではないかと思います。
歴史学者ではありませんので、設定上、おかしなことも多いとは思いますが、そこは素人の書き物ですのでご容赦下さい。
引き続き、ご愛読いただければ幸いです。
本当にありがとうございます。引き続き、書いていきたいと思います。
by 苦楽賢人 (2011-03-11 13:13) 

rtfk

小生の拙いブログにお越しいただきありがとうございます。
by rtfk (2011-03-11 13:55) 

姥桜のかぐや姫

苦楽賢人さま
ご無事ですか?
by 姥桜のかぐや姫 (2011-03-12 12:09) 

苦楽賢人

rtfkさま、コメントありがとうございます。

姥桜のかぐや姫さま、ご心配いただきありがとうございます。
かなりの揺れはありましたが、愛知県内では大きな被害は出ていないようです。
全国的な被害になりそうで、日本中で多くの方が、厳しい暮らしをする事になりそうです。
一刻も早く、平静な暮らしに戻れるよう、私も何かお手伝いしたいと考えております。
by 苦楽賢人 (2011-03-12 23:54) 

erucat

ご無事とのこと何よりでした
by erucat (2011-03-13 22:38) 

苦楽賢人

erucatさん、ご心配ありがとうございました。

未曾有の震災被害、関東・東北・北海道の皆様はとても厳しい暮らしを余儀なくされ、心よりお見舞い申し上げます。

できるだけ、早く復旧・復興を果たすべく、全国の共助が求められていると思います。一人ひとり、何が出来るのか考えていきたいものです。
・・このブログでも、何か、出来る事をと考えています。・・
by 苦楽賢人 (2011-03-13 23:13) 

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