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-帰還‐15.火照ばしる [アスカケ第1部 高千穂峰]

15.火照ばしる
タタラの周囲を探すと、平らな大きな石が転がっていた。ナギが、タタラの前まで運び据えた。
長老が鉄バサミを使って、やや赤色が収まったハガネの塊を掴み、石の上の置く。
「さあ、カケル、どうする?」
「その槌を使って、ハガネを打つのです。」
「よし!」
アラヒコが槌を振り上げハガネに振り下ろす。カンという甲高い音がして、辺りに真っ赤な火の粉が飛び散り、腕や足に当たった。
「熱い!」
長老も、アラヒコも、ナギも、カケルも驚いて飛び退いた。
「こりゃいかん。皆、ハガネの火の粉で焼かれてしまうぞ。・・何か・・・おお、そうだ。その麻袋を足と腕に捲きつけよう。少しは違うだろう。」
ようやく支度が整い、今一度、打ち始める。火の粉を散らしながら、徐々に、ハガネは板状になっていく。徐々に冷えて硬くなる。タタラに起こした火に差込み、焼いて、また叩く。伸ばしたハガネを折り曲げ、また叩く。アラヒコの腕はパンパンに膨れていた。
「よし、変わろう。」
ナギがそう言って、槌を受け取り、カケルも長老から鉄鋏を受け取り交代した。そうやって何度も何度も叩いた。そのうちに、ハガネを叩く音が変わってきた。最初のうちは、カンとかゴンとか少し濁った音だったが、徐々に高くなり、終いには、キンという音に変わった。色も最初は混ざり物が多かったのか、ところどころで色が違っていたのだが、ほとんど、銀色から白銀色に変わってきていた。どのくらい叩き伸ばすべきなのか、その加減がわからないまま、交代しながら叩き伸ばし、焼き、折りたたみを繰り返した。何度か、交代し、カケルが槌を振り下ろした時だった。これまでより更に高い、キーンと澄んだ音が辺りにこだました。そして、台にしていた大石が真っ二つに割れてしまった。
見ると、ハガネは、細い棒状になっていて、ちょうど、カケルの腕の長さほどになっていた。
「もういいだろう。きっと今の音が最後の仕上げの音に違いない。」
長老がゆっくりと鉄バサミでハガネを持ち上げた。
「うむ、良い長さじゃ。」
「すぐに冷やしましょう。・・・身を締めるために水に入れるとあります。」
「おお、そうか。」
近くに汲み置いていた水がめに、そのまま差し込むと、白い蒸気を発して冷えていった。
取り出すと、まだ少し温かさが残ったハガネは、銀色に輝いていた。
「これで、剣を作るのじゃ。」
長老の言葉に、カケルが抵抗した。
「いえ。剣ではなく、畑で使える包丁を・・」
「なあ、カケルよ。先ほど、お前が眠っている間に、ナギやアラヒコとも相談したのだが、最初に出来たハガネだ。山の神、地の神、火の神、水の神、全ての神の力を戴き出来上がったものなのだ。だからこそ、最初は、剣を作るのだ。今、祭壇に祭られている大剣も、おそらく古の人が神にささげるものとして最初に作ったに違いない。我らも、長い年月を経て、ようやく作れたハガネは、まず神に奉げるべきではないか。そして、我が村を守る神の力を今以上に強くするものとしたいのだ。」
「ですが・・・」
カケルは少し思惑が違って戸惑っていた。その様子を見たナギが言った。
「カケルよ。お前の力で、ハガネの作り方はよくわかったのだ。これから、ミコトの力を合わせれば、また、ハガネは作れる。初めてのハガネはやはり神に奉げるべきではないか?」
アラヒコも同意し、カケルの肩を掴んだ。そして、
「カケル。このハガネにはまだ、剣としては出来上がっていない。これから、時間を掛けて、磨き、刃をつけなければならない。・・・祭壇の大剣をしっかり見て、お前が磨き、仕上げるんだ。」
長老や、父ナギ、アラヒコに言われ、カケルは承諾した。
「さあ、カケル。それをもって館にいくのじゃ。そして、巫女の御祓いを受けるのだ。山の神、地の神、火の神、水の神、八百万の神の許しを得て、お前の手で剣に仕上げよ!」
長老に言われるまま、カケルはハガネの棒を抱えて、館に走った。

カケルが去ったのを見て、長老が言った。
「ハガネ作りはそう何度も出来ぬぞ。」
アラヒコが驚いて長老の顔を見た。
「見よ、この辺りを。タタラの周りの木々は、炎で焼かれおかしくなっておる。炭を作るにもたくさんの木を切り払った。・・砂を取るためにも、水足の御川にたくさんの土を流したであろう。・・こうした事を続ければ、この村の森や川を傷つけ、いずれは我らの村は滅びるに違いない。よいか、アラヒコよ。ハガネ作りは、特別な時にのみ行うのじゃ。」
長老の言う事は正しかった。村を上げ、三日三晩、火を起こした。その間、みな、日ごろの仕事が何も出来ずにいた。ハガネ作りは、村の皆も疲弊させることになったのだった。

火花.jpg

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