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-帰還‐16。剣を削る [アスカケ第1部 高千穂峰]

16.剣を削る
カケルは、出来上がったハガネを大事に抱え、館に着いた。
「巫女様!・・セイ様!・・ハガネが出来上がりました。」
館の祭壇の前で祈りを奉げていた巫女セイがゆっくりと立ち上がり、カケルのほうを向いた。カケルは、ハガネをセイの前に差し出した。セイは、一瞬怯えるような表情を見せ、
「カケルよ、それは祭壇に供えるのじゃ。」
ゆっくりと祭壇の大剣の前にハガネを置いた。セイはその前に座り、一心に祝詞をあげた。そして、カケルのほうに向き直り、こう言った。
「このハガネには、山の神・地の神・火の神・水の神・・八百万の神の力が宿っておる。大剣に負けぬほどの力じゃ。・・まだ、生まれたばかりでその力は芯の奥に眠っておるはずじゃが・・ワシにはとても強く感じる。・・・お前の力で、このハガネを研ぎ、剣にするのじゃ。村を守る大きな力を持つ神器となるはずじゃ。」
カケルは、次の日から、剣(つるぎ)の仕上げに入った。館にある書物を読み漁り、ハガネを研ぐ技を探しあてた。砥石を用いてハガネを磨き、削るのだとわかったものの、肝心の砥石がどんなものかわからなかった。麻袋に入れたハガネを抱え、村の中や外にある様々な石にハガネを当ててみたが、硬く強いハガネに傷すらつかなかった。西の川で魚を取ることも、イツキとともに畑に向かうこともなくなり、ただひたすら剣を研ぐための石を探し続けていた。

もう冬も終わり、春真っ盛りの季節になっていた。
ある日、カケルは、みたりの御川の水穴の傍に座り込んで途方に暮れていた。みたりの御川の水穴(噴き出し口)には、まだ、水は流れていない。よく見ると、その穴の一番手前に、ひとつだけ真っ白な石があった。そして、その石は、上の部分が何かに削られたように平らになっていた。カケルは駆け寄り、その石をさらに丁寧に見た。ちょうど、ハガネを両手に持ち、その石に当てるような按配で立てる形になっていた。まさかと思いつつも、カケルは麻袋からハガネの棒を取り出すと、その石に当てて、ゆっくりと押してみた。しゃりしゃりという音とともに、白い石の上が黒くなった。ハガネを持ち上げてみると、石に当てた部分がわずかに削られ、光っている。二度三度と同じように当ててみた。確実に、ハガネが削られていくのが判った。
「これが、砥石だ。・・・おそらく、いにしえ人もここで剣を磨いたんだ。」
そう確信すると、カケルは一心にハガネを研ぎ始めた。

日が暮れ、辺りが夜になっても、カケルが家に戻ってこないのを心配して、ナギはカケルを探しに出た。村のものも心配して、松明を持って村の外も探し始め、みたりの御川の水穴の前で、一心不乱に砥石に向かってハガネの磨くカケルの姿を見つけた。カケルは、月の光を頼りに磨き続けていた。その姿は、なにか魔物が取り付いたように、薄暗い中でぼーっと青白い光を発しているようにも見え、声が掛けられない。
ナギたちは、水穴の周りに松明を立て、明かりを増やしてやった。そして、カケルが研ぐのを止めるまで傍で見守ることにした。

夜が明け、朝になり、また夜を迎えた。カケルはただ黙々と削りつつけていた。
イツキは、昨夜カケルの様子を人伝に聞き、日が昇ると同時に起き、カケルのために、朝飯を用意してやってきた。必死にハガネを削る姿を見つつ、何度か村と水穴を行き来した。二日目の夜が明けた時、イツキが祠の前に来ると、ナギやアラヒコたちは、祠の前でうとうととしていた。水穴の前にカケルの姿はなく、白い岩の上には研ぎ澄まされ、銀色に鈍い光を放つ「剣」だけが置かれていた。イツキは、カケルの姿を探した。一晩中、研ぎ続け、体力も限界になっているはずだった。
「カケル!カケル!」
イツキの声に、ナギやアラヒコが起きた。
「どうした?カケルは居ないのか?」
みたりの御川には水は流れていないので、流されたわけではない。どこに行ったのか、ナギやアラヒコも辺りを探した。だが、カケルの姿は見つからない。
一旦、水穴のところに戻ってきて、砥石の上に置かれた<剣>を改めて見た。両刃で先端に向けて細身に削られている。祭壇にある<大剣>の半分ほどの大きさだが、比べ物にならないほど鋭さと妖しさを見せている。ナギもアラヒコも、その<剣>に触れることが出来なかった。神々しいほどの力を感じ、近寄る事さえも憚られるようであった。
「あ!あそこに!」
水穴の傍でイツキが叫ぶ。指し示すほうは水穴の中だった。ナギとアラヒコが覗き込むと、カケルが水穴の底にわずかに溜まった水に浮いていた。手を伸ばしても届く距離ではない。
「生きてるだろうな。」
アラヒコが口走る。イツキが慌てて、カケルを呼ぶ。だが、カケルは反応しない。疲れきっているのか、眠っているのか、半身を水にいれたまま動かない。
「あそこから引き揚げるのは無理だな。」ナギが言う。「どうする?」アラヒコが問う。
「カケルが目を覚ますのを待つしかあるまい。自力でこの穴を登ってくるまで仕方ない。」
「しかし・・この剣・・どうだ?・・俺は初めてこんな剣を見た。何か魔物のような恐ろしさを感じるが・・・」アラヒコが言うと、ナギも、
「いや・・俺もそうだ。・・何とか、館へ持って行き、御祓いをしてもらったほうが良さそうだ。」

朝焼け.jpg
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