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-帰還‐18.伝説の勇者 [アスカケ第1部 高千穂峰]

18.伝説の勇者
カケルは、剣を抜き高々を掲げた後、意識を失い倒れてしまった。アラヒコとナギが駆け寄り起こそうとしたが、ピクリとも動かない。剣はカケルの右手に握られたまま離れなかった。アラヒコとナギが、カケルの体を抱え、村まで運んだ。
一旦、館に運び込み、巫女セイが祈りはじめた。ようやく、カケルの手から剣は離れた。
<剣>は、館の祭壇に納められた。<大剣>と並べられた<剣>は、暗い館の祭壇にあっても、鈍い光を放っているように見え、剣自体が生きているようにも感じられた。
「まことに、怖ろしき剣となったものじゃ。山の神、地の神、水の神のみならず、雷の神、火の神までもがこの剣を畏れておる。」
巫女セイは、吐き出すように言った。
「いや・・剣ではなく、カケルのほうが怖ろしき力を持っておるはずじゃ。わしは、雷に焼かれた剣を引き抜き天に翳す姿を見たとき、我が一族の祖、ニギ様の事を思い出しておった。」
長老が、カケルの脇でしみじみと言った。

ニギ様とは、ナレの村の一族の祖であり、殷義というのが本当の名前である。
大陸の内乱の時代に、迫害を恐れた殷一族は、海を渡り倭国へ逃れた。
当時、権勢を誇っていた邪馬台国の王を頼ったが、まもなく王が倒れ、邪馬台国も乱れた。
殷義は、九重連山を超え、高千穂峰の麓に隠れ里を作り、一族は静かに暮らすようになった。
しかし、この頃、高千穂峰は度々噴火し、灰が降り積もり、農作物も狩猟の獲物も不足する年があった。

殷義は、山の神を静めるため、一人、道なき道を進み、高千穂の峰に登った。
そして、その山頂に辿り付いた時、腰に差していた大剣を抜き、神に祈りを奉げ、その大剣を山頂につき立てたのであった。その時、雷鳴が響き渡り、雷が殷義の体を焼いた。そして、そのまま、火を噴く火口に落ちていった。
殷義は、自らの命を奉げることで、山の神を鎮めたのであった。

一族には、この殷義の行いが巫女により口伝され、アスカケに出る若者を送り出す際に、語られるのであった。
剣を天に翳すカケルの姿が、伝説となった殷義・・ニギに重なったのである。

皆の心配を他所に、カケルは3日間も眠り続けた。
巫女セイは、朝な夕なに祈りを奉げていた。
4日目の朝、カケルは目を覚ました。
「セイ様・・・」
カケルの声を聞き、セイは祈りを止めた。
「おお、カケル。気がついたか・・・どうじゃ、具合は?」
「・・もう・・大丈夫です。」
そう言ってカケルは起き上がろうとした時、右手に痛みを感じた。
「お前の右手は、焼ける剣の熱でやけどをしておるのじゃ。お前は覚えておらぬか?」
カケルは記憶を辿ってみた。ハガネを持ち、みたりの御川の傍で、砥石を見つけた辺りまでは覚えていたが、その後の記憶が曖昧だった。ただ、大男と空を飛んだ事だけは鮮明に覚えていた。
「見よ、お前が仕上げた剣じゃ。」
祭壇に祀られた剣をセイは指差した。
「怖ろしき力を持つ剣じゃ。大剣以上の力であろう。今しばらく、ここに置き、我が一族の守り神とすることにした。」
カケルは立ち上がり、剣の傍に行って、そっと右手を伸ばした。暗闇の中で、カケルの右手の指先が、青白い光に包まれ、それが伸びて、剣に向かっている。カケルの体に、びりびりとした衝撃が走り、髪が逆立った。カケルは、剣の柄を握った。体の中に熱いものが噴き出してくる感覚に包まれる。見ると、大剣も同じように光を纏っている。
尋常ではない様子に気づいたセイが大きな声でカケルを制止した。
「止めるのじゃ!カケル!」
はっと我に返ったカケルが剣を手放した。
カケルはじっと手のひらを見た。火傷の痛みを感じていたはずの右手が、すっかり治っている。
「怖ろしき剣じゃ・・・カケルよ、この剣を持つにはまだ早いようじゃな。さあ、動けるのなら、家に戻れ。ナギもナミも、イツキもしんぱいしておるじゃろうから。」

剣に触れたことで、手の傷だけでなく、体全体に力が漲っているようだった。
館の扉を開け、表に出た。まばゆい陽の光を浴びながら、カケルは家へ向かって走った。

あの日以来、カケルの中には、確実に何かが宿ったようだった。
高千穂の峰をじっと見つめながら、その先にあるまだ見ぬ世界を想像し、いつかそこへ旅立つのだという確信のようなものが生まれていた。

住居.jpg
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月夜のうずのしゅげ

別空間の物語が心に沁みます。
by 月夜のうずのしゅげ (2011-03-18 11:40) 

苦楽賢人

月夜のうずのしゅげ様 コメントありがとうございます。
ややこしい歴史考証を抜いて、気楽に楽しんでいただければ幸いです。書くほうも、コメントをいただき励みになります。ありがとうございます。
by 苦楽賢人 (2011-03-18 18:05) 

はな

こんばんは^^

今回はなんだか冒険心をくすぐられるちゃいますね^^
はるか昔の見たこともない風景をイメージして、ドキドキします♪
カケルが炎の中から剣を引き抜き高く掲げたという件では
アーサー王伝説が頭をよぎり、興奮してしまいました(汗)
子供の頃すっごくハマッてたんですw

これからのカケルの成長が楽しみです

by はな (2012-02-07 18:50) 

苦楽賢人

はな様へ
丁寧にお読みいただき、とても嬉しいです。
アーサー王の伝説をイメージしたわけではなかったんですが、頭の中を、カケルが元気良く動き回ってくれるので・・・ただ、幼いカケルも成長すればやはりいろいろと思い悩む事も出てくるでしょう。恋もするはずです。
引き続き、お楽しみ下さい。

ありがとうございます。
by 苦楽賢人 (2012-02-08 08:50) 

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