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-旅立ち-4.決心 [アスカケ第1部 高千穂峰]

4.決心
翌朝、エンが高潮した顔をして、カケルの家に来た。
「どうした?エン。」
「俺、夕べ、長様に言ったんだ。」
「何を?」
「アスカケに出たいと言ったんだよ。・・それで、試しの儀式を受けるんだ。」
「いつ?」
「まだ、判らない。今日か、明日か・・待ち遠しいなあ。」
試しの儀式とは、アスカケに出ようと決めた若者の覚悟と力を試すために、村のミコトたちが館に集う儀式だった。どんなものなのかは、決して話さないのが掟だった。ただ、この儀式を受けて旅立つのを取りやめた者は誰一人なく、儀式が開かれるというのは、事実上、アスカケに出るという事に他ならなかった。
エンの様子を見て、カケルは昨夜の母の話を思い出していた。
「タカヒコ様やハル様は?」
「ああ、喜んでおられた。これで一人前のミコトになれる。俺の腕がどこまでのものか試す事ができる。・・カケル、お前も早くアスカケに出ろよ!」
そう言って、嬉しそうに帰って行った。

カケルは、母の言葉で、アスカケに出る覚悟は出来ていた。しかし、母からの願い事が余りにも途方も無いものであったために、再び、どうすべきか悩んでいた。
「カケル?エンが来てたでしょ?」
イツキが出てきた。
「ああ、エンが試しの儀式を受けるんだ。」
「へえ・・じゃあ、アスカケの送りをしなくちゃね。・・カケルはどうするのかしら。」
イツキはわざと意地悪くそう言ってから、家の中へ戻ろうとした。その腕をカケルは掴んだ。
「何?」
「ちょっと話がある。・・・来いよ!」
カケルは、イツキの腕を掴んだまま、大門を出て、みたりの御川の畔まで連れて行った。
カケルの態度がいつになく真剣で思いつめた表情であったために、イツキも大人しく着いていった。二人は御川の畔に腰を下ろした。
「俺も、夕べ、母様と話してようやくアスカケの決心が出来た。」
「え・・そうなの・・・」
イツキは少し寂しそうな反応をした。
「だが・・母様に一つ願い事をされた。・・」
「願い事?・・叶えてあげればいいじゃない。」
「ああ・・そうしたいのだが・・」
「何を迷っているの?」
「実は、・・母様の願い事とは・・アスカケにお前を・・イツキを連れて行けというのだ。」
イツキは驚いた。母様の願い事の意味がわからなかった。確かにイツキは以前カケルに、アスカケに出る男の子を羨ましいと言ったことはあったが、女がアスカケに出るなど、出来る事ではない事も充分判っていたのだ。
「どういう事?・・そんなの無理に決まっているじゃない。」
「ああ・・だが、そんな事より、お前はどう思う?俺と一緒にアスカケに出るのはどうだ?」
「それは・・・確かに、私も、ナレの村とは違う外の世界を見てみたい。海とか、船とか、ヒムカの国とかイヨの国とか。・・でも、そんなの無理に決まってる。長様だけじゃなく、村の皆が反対するわ。・・どうしようもない事だってあるでしょ。」
「そうか・・・」
「大体、どうして母様はそんな事を願い事にしたのかしら・・・」
カケルは、夕べ、母が見せてくれた首飾りを思い出しながら、どうしたものかと考えた。そして、
「お前は、アスカケに行かねばならない宿命(さだめ)なのだと母様は言ったんだ。」
「母様は、私の事がお嫌いになったのかしら・・・」
「そんなわけ無いじゃないか。」
「毎日、食事やお薬の事・・お体のことを考えて一生懸命やってきたわ。なのに・・どうして?」
イツキは混乱して、悲しみか寂しさか、それとも怒りなのか、判らない感情で心の中が一杯になっていた。そして、わっと泣き伏せてしまった。
そこに、長老が現れた。
「おや、どうしたのだ、イツキ。何を泣いておる?」
「何でもありません。」
イツキは短くそう返事すると、村に戻って行った。
カケルはイツキの後姿を見送りながら、決心した。
「長様、私もアスカケに出る決心が出来ました。試しの儀式をお願いします。」
長老は、じっとカケルの目を見て、その意志を改めて確認したうえで、
「そうか・・判った。それなら、試しの儀式を開こう。このたびは、特別にエンと二人一緒に行う事にする。そうだな・・明後日の夜じゃ。それまでにアスカケの支度をしておくが良い。」
試しの儀式を開く事はすぐに村のミコトたちに伝えられた。

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月夜のうずのしゅげ

いよいよ3人でアスカケに出発でしょうか。
by 月夜のうずのしゅげ (2011-03-24 07:08) 

苦楽賢人

ようやく、旅立ちです。・・今で言えば、中学校を卒業した程度の年ですから、どうなることやら。
温かくカケル達の行く末を見守っていただければと思います。

どんなに厳しい暮らしの中でも、自分のできることを精一杯行って、みんなで力を合わせることで、必ず、未来は開けていくのだと信じていたいと思います。
アスカケの旅は第2部へと続きます。

月夜のうずのしゅげ様、コメントありがとうございました。
by 苦楽賢人 (2011-03-24 08:45) 

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