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-旅立ち-5.親の役割 [アスカケ第1部 高千穂峰]

5.親の役割
イツキは、しばらく畑の仕事をして、夕方近くに、夕餉の支度のために家に戻った。
母ナミの願いの真意がわからず、また、どう切り出してよいものかもわからず、黙って、竃の前で食事の支度を始めた。ナミは、そんなイツキの様子から、カケルがアスカケの話をしたのを察した。夕餉の前には、必ず、ナミは、カケルとイツキが見つけてきた霊芝のせんじ薬を飲む事にしていた。
「イツキ、薬をちょうだい。」
そう言われて、イツキは、作り置きしてある薬を器に移して、お湯でゆるめてナミのところへ持っていった。ナミは自分では起き上がれないほど衰弱していたため、イツキがそっと背中を抱え起き上がらせてから、薬を渡した。ナミがゆっくりと、薬を飲む様子をイツキは見つめていた。
薬を飲み終わると、ナミはイツキに言った。
「カケルから、アスカケの事、聞いたわね。」
イツキはこくりと頷いた。その様子から、イツキが随分混乱している事もわかった。
「イツキ、今から言う事をしっかり聞いてね。」

ナミは、イツキをカケルのアスカケに同行させたい理由をゆっくり順を追って教えた。
しばらく、イツキは身じろぎもせずじっと考えていた。
「それが、私の定めなんですね。」
その言葉に、ナミは微笑んで答えた。
「・・・定めなどというものではないのよ。・・・これは、私の願い。・・カケルとともに行くかどうかは、貴方が決める事。貴方にも貴方のアスカケがあるはずだから。・・・ただ、わたしのアスカケは、貴方にこのことを伝える事だから。・・・私もそう長くは生きられないでしょう。その前に私のやるべきことをやっておきたくてね。・・ごめんなさいね。」
イツキは首を横に振りながら答えた。
「いいえ、私、カケルと一緒にアスカケに出たい。その先はどうなるかは判らないけれど、母様の願いは、私の願いです。村の人が反対しても、私は行きます。」
「そう・・大丈夫、きっと村の人たちも判って下さるわ。・・試しの儀式が開かれれば、すぐに出発よ。カケルとあなたの送りの支度をしなくちゃね。」
「はい・・・母様、何をすべきか教えてください。」
二人は、旅支度を始めた。そこに、カケルも戻ってきて、ともに支度を始めた。
父ナギは、タカヒコたちと一緒に、カケルとエンのための支度をし、夜遅くに家に戻ってきた。

カケルとイツキはすでに寝付いていた。
ナギは、ナミの横で荒縄を作っていた。
「それは何に使うのですか?」
目が覚めたナミがナギに訊いた。
「ああ、起こしたか。・・・巫女様が言われるには、あの剣をカケルに持たせてやるそうだ。・・もともと、カケルが作ったものだ。それにあの剣を使いこなせるのはカケルしか居らぬ。・・それで、剣の持ち手に、荒縄を捲いて使いやすくしてやりたいのだ。」
「・・それなら、その荒縄に私の髪を編みこんでもらえませんか?」
「黒髪を編みこむのか?」
「ええ・・私もカケルとともにアスカケに行けるような気がして・・・」
「いいだろう。・・よし、少し髪を切るぞ。」
ナギはそう言うと、ナミの長い黒髪を小刀で切った。
「俺の髪も編みこもう。」
二人の黒髪を荒縄に編み込み始めた。
「ナギ様、猪の皮はありませんか?その剣の鞘を作りたいのです。」
「鞘か・・・確かに、あの剣は懐にしのばせることは無理だ。・・確か、どこかにあったはずだ。」
寝床の横には、狩に使う道具と一緒に、獣の皮が置かれていて、そこをナギは探した。
「おお、あったぞ。・・こいつは丈夫だ。これならいいものが出来るだろう。」
そう言いながら、ナミを起き上がらせて、皮を手渡した。ナミは皮を受け取ると、細工を始めた。

「イツキのことだけど・・・」
「ああ、カケルとともに行かせたいのだろう・・。」
「私の命もそう長くないでしょう。でも・・・カケルもイツキも旅立ってしまったら、貴方一人になってしまいます。それが、私には辛くて・・・。」
「何だ、そんな事を気にしていたのか。・・お前の命が果てる事など考えてはならぬ。カケルやイツキが探し出した薬でどれだけよくなったと思うのだ。それに、あの温泉に入っていれば・・・まだまだ大丈夫さ。」
「でも・・」
「・・カケルとイツキが居なくなっても、俺がちゃんと面倒を見てやる。・・もともと、この地に連れて来たのは俺だ。・・ウスキの村でお前と出会い、お前の定めもちゃんと受け止めたのだ。そうやって、今日まで暮らしてきたではないか。今、大事な事は、カケルとイツキが、自らのアスカケを見つけられるよう、しっかり支度をしてやることだ。」
「ナギ様・・ごめんなさい。」
ナミは涙を流していた。ナギはナミに背を向け、荒縄を作りながら、涙を流していた。

夫婦.jpg
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シラネアオイ

こんにちは!近くにもっと沢山の観処が点在しています。自然ばっかりの所ですが、お好きな方は充分楽しむことが出来ると思います。是非又おいで下さい!!
by シラネアオイ (2011-03-24 14:13) 

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