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-旅立ち‐10.つむじ風 [アスカケ第1部 高千穂峰]

10.つむじ風
西の谷を川沿いをしばらく歩き、以前、薬草探しの際に、二人で身を寄せて夜を明かした滝つぼにたどり着いた。そこで一休みし、カケルは近くの藪から青竹を切り出し、三つほど、水筒を作り滝の清水を入れた。
そこから、山手に向かって、深い森を進んだ。深い森を見ると、エンは、弟が穴に落ちた事件を思い出し、兄として情けない思いにかられる。三人は、子どもの頃の思い出話をしながら、深い森を進んだ。
「おい!大丈夫なのか?」
「ああ、とにかく、登り続けるんだ。・・この森を抜けると御山の頂上が見えるはずだから。」
鬱蒼とした森が、まだまだ続いていた。

三人が村を出た時、小さな呻き声を出したナミは、大門が閉まると同時に、その場に倒れこんでしまった。カケルやイツキに、少しでも元気な笑顔を見せたいという思いで、ナミは、残る体力を振り絞って、大門の前に立っていたのだった。三人の姿が遠ざかるに連れ、ナミの意識が薄れていったのだった。ナギが慌てて抱き抱えて、急ぎ、家に戻った。
「ナミ、ナミ、しっかりしろ。」
ナギは何度も呼びかけた。だが、ナミの意識は戻らない。心配して、皆、家の入り口で入れ替わりで様子をみている。巫女セイは、館に戻り、祭壇の前で祈りを奉げていた。

ナミは混沌とした世界にいた。
手足を縛られ身動きできず、時折全身を襲う痛みと息も出来ないほどの圧迫感を感じているかと思うと、急に、開放され、この上ない穏やかな中に置かれる。
その繰り返しの中に置かれているうちに、徐々に、全てが溶けて、小さくなっていく感覚。・・おそらくもうすぐ死が来るのだと感じていた。
遠くに、ナギの呼ぶ声が聞こえる。応えようとするのだが、声が出ない。
ふと気づくと、足元にナギの姿があった。ナミ自身の体をナギは抱きかかえ、声を上げて泣いていた。・・体から魂が離れたのだとナミに判った。だが、なす術はなかった。

「ナミ、ナミ・・返事をしてくれ・・ナミ!」
家の外にいた長老が、ナギの叫び声を聞き、慌てて家の中に飛び込んだ。そして、ナギの横からナミの顔を見て、口元に手を当てた。
「・・ナギよ、ナミは・・・黄泉の国へ旅立ったようだ・・・もう苦しむ事もなかろう。休ませておやり・・・」

徐々に、ナミの魂は上昇する。屋根をすり抜けて、村の上にいた。高楼や館が小さく見える。自分の意思ではどうにもならなかった。村の人たちが、自分の家に集まってきているのが見えた。
しばらくすると、ものすごい勢いで、空高く登っていき、高千穂の峰へと向かった。深い森の上辺りに来た時、ふいに、カケルとイツキの存在を感じた。すると、急にナミの魂は森の中へ飛び込んでいく。カケルたちの通った後を追うように森の中を突き進んでいた。

三人は深い森の中で、出口を探して必死に歩いた。だが、先へ進むほどに、木々は厚く茂り、森は暗闇の中のようになっていく。みな、随分と疲れていた。カケルとエンは、イツキを気遣い、休みながら進む事にした。イツキが、泥濘に足を取られて転んだ。
「カケル、少し休もう。」
「ああ・・・」
水筒を取り出し、水を飲む。西の谷から森へ入ったばかりの頃は、鳥の鳴き声も聞こえ、日差しも入っていて、少しも不安を感じていなかったが、今は、どの方向を見ても暗い森が続くばかりで、鳥のさえずりさえも聞こえてこない。
「なあ、カケル、このまま進んで大丈夫なのか?」
「・・ああ・・とにかくずっと登り道で来ているんだ。御山に近づいているはずさ。・・それより・・イツキ、大丈夫か?歩けるか?」
そう問われて、イツキはしっかりカケルを見て、
「大丈夫。これくらい何ともないわ。」
そう言って、笑顔で答えた。
その時だった。急に、木の葉がざわざわし、木々の枝が揺れた。そして、強い風がカケルたちの来た麓のほうから一気に吹き込んできた。そして、カケルたちの周りでつむじを捲いたかと思うと、まっすぐ立ち上るように吹き上がった。
カケルたちは、突然の風に驚き、風の行方を目で追った。すると、風が抜けたところが、すっぽりと開いて、青空が見えた。
「あ・・、あそこ!。」
イツキが叫んで、指差した。カケルもエンもその方向を見ると、木々の枝の開いた隙間から、青空と供に、御山の姿が見えた。
「間違いない、御山だ。・・この先、すぐに森を抜けられるはずだ。行こう!」
少し足早に森の道を進んでいく。大きなぶなの木を過ぎると、一気に木々の背が低くなり、終に、背の高い草だけの野原を過ぎると、大きな岩だらけの赤茶けた場所に出た。

樹海2.jpg
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