SSブログ

-旅立ち‐11.頂上へ [アスカケ第1部 高千穂峰]

11.頂上へ
三人はその光景に絶句した。御山が、生き物が立ち入る事を拒んでいるかのように、荒涼とした風景が広がり、その遥か先に、高千穂の峰の頂が見えた。目に映る景色に圧倒された三人は、しばらく動けなかった。荒涼とした風景はこれまで見たことのない未知の世界に思われたのだった。
上空を見ると、ハヤテが風に乗って旋回していた。カケルはハヤテを見つけると、ハヤテが行かないのかと尋ねている様な気がした。
「よし、行こう。頂上まではそんなに遠くない。」
三人は、また歩き始めた。赤茶けた溶岩の塊の中を、できるだけ歩きやすいところを縫うようにして歩き続けた。森の中を歩いていた時は、周囲の木々や音に注意し、迷わないようまっすぐ歩いていたのだが、この溶岩原では、進んでも進んでも変わらぬ風景が続いていて、どれだけ進んだのかもわからず、時折、溶岩の上に見える高千穂の峰の頂上だけが頼りだった。
しばらく進むと、徐々に、溶岩は小さくなり、ごろ石程度に変わる。すると今度は、青い空が広がり、ぐるっと遠くの山々が連なっている景色に変わった。
麓では晴れ渡り、暖かな春の日財だったが、溶岩原を抜けた頃には、灰色の雲が広がり、ぐっと気温が下がってきた。三人は、アラヒコに貰った鹿皮を広げ身に纏った。風を防ぐだけでなく、寒さからも身を守れる優れものだった。
道なき道も、徐々に急な上り坂になったり、左右が切り立った細い尾根を歩いたり、吹き上げてくる風に煽られて姿勢を崩すと、奈落の底へ落ちそうな場所もあった。歩き続けて、ようやく、頂上と思しきところまで到達した。
「あそこがきっと頂上だ、あと少しだ。」
溶岩原からずっと無言のまま歩いていたカケルが、指差した。
イツキもエンもずっと足元を見ながら歩き続けていたが、その声に顔を上げた。
高千穂の峰の頂が、雲の中になんとか眺められる状態だった。
カケルは、突然走り出した。あの幻と思っていた風景の中にいる。あの頂上に、剣が刺さっているなら、きっと、あれは幻ではなかったと確信できる。そう考えると、疲れなど吹き飛び、駆け出したくなったのだった。走り出したカケルを追って、イツキもエンも同じように走り出した。
「ない・・なあ・・。」
カケルは頂上辺りの地面を見つめ、何かを探しているようだった。
「何を探してるの?」
イツキがカケルに訊いた。
「いや・・高千穂の峰には、昔、ニギ様が刺した剣があると聞いたんだけど・・・」
イツキも辺りを探してみた。頂上辺りにはこれと思えるものは無かった。諦めかけた時、エンが指差した。
「なあ・・あそこに・・何かあるぞ。」
そこには大きな岩があって、その下辺りに褐色の布のようなものがあった。三人は近づいてじっくり見た。それは、古い布だった。触ってみるとカケルたちが着ている衣服と同じ布のようだった。一部が岩に挟まっていて、岩をどけて何とか引っ張り出した。広げてみる。茶褐色になっているところは、血に染まったところのようだった。
「ねえ、これって・・」
「ああ、きっとナギ様の服だ。・・・」
「おい!カケル!これを・・」
エンが指差した先には、茶に錆びた大剣があった。
「・・ニギ様は・・・・言い伝えの通り、・・ここで山の神を宥める為、剣を刺し、命をささげられたんだ・・・。」
三人はその場に座り、剣と衣服を岩の上に置き、平伏して崇めた。その後に、カケルは、剣と衣服を頂上に持って行った。
「どうするの?」
「言い伝えどおり、ニギ様の剣を頂に刺すのさ。」
そう言って、カケルは頂上に立つと、天を仰いだ。
剣作りの際に現れた大男は、きっとニギ様に違いない。そして、自分は魂だけでこの高千穂の峰に昇ったのだと確信した。
カケルが、ニギの剣を天にかざすと、雲に覆われていた空の真ん中が割れて、一筋の光が差し込んできた。あたかも、頂上のカケルを天に導くかのように、光はカケルを照らした。
カケルは力を込めて剣を振り下ろし、頂上に着きたてた。その瞬間、空気が震え、雲が見る間に消えていく。
「何・・これ・・凄い!」
イツキが声を漏らした。
ぐるっと一回り、すべて、緑の山が広がっている。南のほうには山々が低くなり、遠くにきらめく光があった。東も西も低い山が続いている。北には、高千穂より高い山々が連なっていた。
カケルがじっと遠くを見つめて言った。
「ここから始まるんだよ。俺たちのアスカケ。・・・目指すのは、あの高い山々が連なる先だ。」
九重連山は高く、どこまでもどこまでも続いている。
一陣の風が、そっと三人を取り巻くように吹き、天に昇って行った。
「母様・・行ってきます。」
カケルが小さく呟いた。
「良し、行こうか。」
「ええ、行きましょう。」
ーーーー第2部へ続くーーーー
高千穂頂上.jpg
nice!(12)  コメント(1)  トラックバック(0) 

nice! 12

コメント 1

苦楽賢人

第1部の終了です。高千穂峰の懐で、育った三人がいよいよ外界に出て行きます。
今なら、ちょうど地元の中学校を卒業して、少し離れた高校へ電車で通うような、そんな年になっている三人。少年から青年へ、思春期を向え、見知らぬ土地でどんな経験をするでしょう。

引き続き、カケルたちを温かく見守ってやってください。
by 苦楽賢人 (2011-04-02 22:36) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0