SSブログ

-九重の懐-13.モロの村 [アスカケ第2部九重連山]

13. モロの村
皆を招きいれようとする家は、小さな茅葺の屋根で、入り口も巨体のモリには窮屈そうだった。
「おい、みんな、入れんのか?」
その様子を見て、エンが小声で言った。
狭い入り口を入って、皆びっくりした。
外観とは裏腹に、中は広く、屋根のある部分は出入口のためのもので、中は、地面を深く掘り下げて、いくつもの小さな洞窟のような部屋があった。そして、その穴は深く伸びて、隣の家と繋がっているようだった。
「ここは・・・」
「どうだい、驚いたろ。ここらは、穴が掘りやすいんだ。夏の暑さも、冬の寒さも過ごしやすいんだ。いいだろ?」
カケルはそれを聞いて、尋ねた。
「それだけではないようですね。・・これなら、敵から身を守るには都合が良い。」
「ほう・・よく判ったねえ。」
「はい・・サイトノハラの村でも、同じように地面を掘った部屋がありました。そこに食料を蓄えたり、煮炊きする場所もあって・・サイトノハラの方も、そこで生き延びておいででした。」
「やっぱりねえ・・それはきっと大王様が作らせたのだろう。」
「ここも大王様とつながりが?」
「まあ、お座んなさい。最初から、話してあげよう。」
そう言って、この村と大王の関係を話し始めた。

「ヒムカの大王は、この村の生まれなのさ。15になった時、旅に出られたんだよ。」
「どこに行かれたのですか?」
「さあ、詳しくは知らないが、3年ほどで村に戻られたようだ。」
「その後どうされたのですか?」
「国造りをするのだと言われて、ミコトを数人連れて、南へ旅に出られたそうだ。」
「南?」
「ああ、川を舟で下り、ミミの浜まで出て行かれたそうだ。少しずつ、国づくりは進んで、サイトノハラに、国の都を作る事になったそうだ。」
「あの・・大王様はどんなお方だったんでしょう。」
カケルが尋ねた。
「・・私は、お会いした事はないが・・・婆様の話では、旅から戻られた時、強く豊かな国を作りたいとそればかり話しておられたそうだ。」
「強く豊かな国造り?」
「村を出て、猩猩の森を抜け、もっともっと北へ行かれたそうだ。」
「北とは、邪馬台国の事ですか?」
モリは、ちょっと首をかしげた。そして、こう言った。
「カケル、邪馬台国とはどんなところなのか、聞いたことはあるのかい?」
「はい・・昔、卑弥呼という女王が治めていた豊かで強い国だったと。そして、それは、ここより北にあったと・・・」
「ふむ・・やはり、そうかい。・・イツキ様が、邪馬台国の王の血を引く者だと言っていたから、もう少し、詳しい事を知っているのかと思っていたんだけどね・・・」
「違うのですか?」
モリは少し躊躇うように言った。
「いいかい、よくお聞き。・・もともと、邪馬台国という国なんて無いんだ。・・いや、あったんだが、ヒムカの国のような国じゃない。・・ヒムカの国の北には、トヨの国。西にはヒの国。海を越えたところにイヨの国がある。」
「はい、知っています。アラヒコ様やゲン爺にも聞きました。トヨの国は山深く、厳しい暮らしをしていると。トヨの国は、豊かで木の実がたくさん取れ穏やかな国だと・・」
「そうさ・・しかし、その国も小さな村がたくさんつながって出来ている。ヒムカの国も、それぞれに村があり、助け合って成り立っている。その村同士のつながりが国なんだよ。」
「村のつながりが国・・・」
カケルは考え込んだ。イツキは、興味深く聞いていた。
「カケル、お前は、多くの村を廻ってここに来たのだろう。・・村々を見てどう思った?」
モリがカケルに尋ねた。
「はい・・どこも厳しい暮らしでした。特に、サイトノハラは戦の後、みな潜むように暮らしていました。・・それでも・・モシオの村のように,、食べ物もあり人々も集い、くらしやすい村もありました。しかし、ヒムカの兵に怯えて暮らす日々。何とかしないとこの国は・・・」
「ここにも何度かヒムカの兵が来た。しかし、すぐに引き上げて行ったんだがね。・・今、ヒムカの国は、村々はつながっていないだろ?・・兵に怯え、人の行き来さえ無くなっている。これじゃあ、ひとつの国とは言えないだろ。」
「はい・・」
「いいかい、みんな。・・・邪馬台国は、国と国がつながって生まれたものなんだ。この九重の地だけじゃない、海の向こうのイヨの国や・・そう、アナトの国、ホウの国、アキの国・・それらがみなひとつにつながって出来た国だったのさ。」
モリの話は、どんどん大きな世界に広がっていった。カケルはふとナレの村で読んだ書物を思い出していた。確か、その中に、海を越えた地には、邪馬台国よりももっと大きな国があり、ナレの一族はそこから海を越えて、この地へやって来たのだと書いてあった。
「では、トヨの国の向うに、邪馬台国があるわけではないのですか?」
カケルがモリに訊いた。
「ああ、昔、卑弥呼様は、ツクシの国の海に浮かぶ小さな島に、館を作り、暮らしておられたらしい。遠く、海を越えた、魏という国とつながるためにね。だが、卑弥呼様が亡くなると、それぞれの国が、争いを起こし始め、バラバラになった。その時に、邪馬台国は無くなってしまったのさ。」
カケルは、ウスキにイツキを無事送り届けた後、トヨの国を越えて、邪馬台国へ行きたいと願っていたのだが、モリの話を聞いて目標を無くしたように感じていた。
イツキは、モリの話を聞き、自分が考えてきた「定め」は、途轍もなく大きい事を知り、今までに無い不安を感じていた。その様子に、モリは気づいていた。
「邪馬台国は、いつでも生まれ、いつでも消える幻のような国。多くの国々が豊かになり、ひとつにつながれば、邪馬台国の王の現われを待つ事になる。邪馬台国の王とはそういうものなんだよ。」
モリは、イツキに教えるように言った。
「・・だから・・ヒムカの大王様は、この国を豊かで強い国にしようと思われた。そして、争いをやめ、再び、邪馬台国が生まれる事を願われたんですね。」
「ああ、そうさ。ヒムカの大王が、息子をノベの村に遣わしたのも、ヒムカの北を豊かにし、トヨの国やイヨの国とつながる事を目指しておられたんだ。・・それを、あの・・タロヒコのせいで・・。」
モリは悔しそうに言った。そして、
「まあ、少しここに居て、他の者からも話を聞くといい。きっと、この先、役に立つ事を学べるだろう。・・腹が減ったろ、すぐに夕餉にしよう。」

家の中.jpg
nice!(9)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 9

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0