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-九重の懐‐16.猩猩の森 [アスカケ第2部九重連山]

16. 猩猩の森
翌朝、目が覚めたのは随分陽が昇ってからだった。いつもなら、陽が登る前に目覚めるはずなのだが、今日は体が重く、なかなか動けないでいた。ぼんやりとした意識の中で辺りを伺った。
エンも目覚めたようで、同じように頭を動かしながら、動けない様子だった。
しばらくして、何とか身を起こしたエンが、隣にいたはずのイツキの姿がなくなっているのに気付いた。
「お・・おい・・カケル、イツキがいないぞ。」
エンは、洞窟から飛び出して、イツキの名を呼んで辺りを探した。
「イツキー!イツキー!」
しかし、イツキの姿は見当たらない。斜面を転がるように走り降りて、イツキの名を呼びながらあたりを走り回った。
どうやら、眠っている間に、イツキは誰かに連れ去られたようだった。
カケルは、洞窟の様子をじっと探ってみた。持ってきた荷物も剣も弓もそのままだった。だが、洞窟の中に、何人かの足跡がついているのが判った。
カケルが外に出ると、エンが、慌てた様子でカケルの元に戻ってきた。
「ここらには、イツキが居ない。誰かがさらって行ったんだ。」
「どうやらそうみたいだな。」
カケルは辺りの気配を探りながら言った。
「一体、誰が?・・・まさか・・昨日の・・あの・・野人か?」
「・・野人かどうかわからないが・・・・」
「どうする、カケル?」
カケルは洞窟の前で地面をじっと見て、何かを探しているようだった。
「何してるんだ?」
「夕べ、雨が降ったろ。・・きっと、地面に足跡が残ってるはずだ。それを見つけて後を付けていけば、何かわかるかもしれないだろう。」
エンも慌てて、足元辺りを探った。
「・・ほら・・ここに・・」
カケルとエンは、足跡を探りながら、歩いた。
洞窟から、山の斜面を登るように、数人の足跡がついていた。あたりに注意しながら、その足跡を辿って、歩いた。
「なあ、カケル、イツキは無事だろうか?もし、野人なら、殺して食べたりしないのか?」
「・・いや、あれは、野人では無い。・・俺たちが眠ってしまったのは、あの洞窟の中にあった枯れ木と枯葉のせいだ。枯葉の中に、香りの強い見慣れぬ草が混ざっていた。その草を燃やしたせいで眠くなったんだ。きっと、わざとあそこにおいていたんだろう。」
「だが・・それは偶然かも・・」
「いや、俺たちは怪しい人影を追ってあの場所に着いた。日暮れも近かったし、雨も降りそうだったから、あそこで休むしかない。いや、あの人影に誘われるように、あの洞窟に辿り着いたんだ。そこで、休むと見込んで、あそこに枯れ木を用意したんだろう。」
「何のために?」
「さあ・・それは判らないが・・」
「俺たちを殺して食べるためじゃないのか?」
「いや、もし、命を奪うつもりなら、寝入ったところで一思いにやれるはずさ。なのに、生かしている。それに、剣や弓も盗らずにおいてあった。イツキだけを連れ去ったのは、何か別の訳があるはずだ。」
「だが、ここは、猩猩がいる山なんだぞ。・・ここに、人が住んでいるというのか?」
「おそらく、猩猩がいるというのも、ここに潜む人がわざと広めたのだろう。」
「何のために?」
「さあ・・それは・・だが、モロの村では、怪しい噂で広がっていたろ。だが、誰も見たものは居ない。モリ様も、半ば信じていはいなかった。だが、何か訳を知っているようだった。」
「そうか、だが、イツキを連れ去ったんだ。・・野人でなくても、俺たちを警戒しているはずだな。」
「ああ・・」
カケルは、人が歩いた後が小さな道になっているのに気付いた。
「さあ、急ごう。ここに小さな道が出来ている。ここを何度か行き来している。」
そう言いながら、二人は先を急いだ。
深い森の中で、確かに、僅かについている道を慎重に進んで行った。

しばらくすると、ぶなの森を抜け、少し開け、遠くが見通せるところに出た。
遠くに小さな煙が上っているのが見えて、二人は足を速めた。その先には、背丈のある草原が続いていて、その草を分けるように細く通路のように道が付いていた。その中をしばらく進むと、大きな岩があった。
大きな岩影から、そっと様子を探ると、草叢に隠れるように、小さな小屋のようなものが見えた。そして、獣の服を身につけた男が二人、小屋の前に座り込んでいるのが見えた。
「あそこに人がいる。昨日見たあの野人と同じ格好をしているぞ。一人じゃなかったんだ。やはり、この山で何かをしているのだな。」
カケルは、小屋の様子を見ながら、辺りに人の気配が近づいているのを感じていた。
「きっと、あの小屋にイツキは居るんだ。」
エンが小さな声でカケルに伝えた。カケルは、周囲に注意を向けていた。
先ほどから、数人の男が徐々に近づいてきているのを察していた。
カケルは、静かに剣の柄に手をかけた。しかし、心臓の高鳴りも無く、手も震えない。危険が近づいているのとは違うように感じ、剣の柄から手を離した。
「よし、ここから射抜いてやろう。」
エンが弓を構えて立ち上がった。
「やめろ、エン。」
そういうよりも早く、数人の男がカケルとエンを取り囲んでいた。
「何だ、お前たち!」
エンが、弓を向けながら言うと、男たちは、一斉に、銅剣を目の前に突き出した。
「やめろ、エン!やめるんだ!」
カケルは、エンの腕を掴んで止めた。
「何するんだ、カケル!こいつらが、イツキをさらったんだろ!・・イツキはどこだ!」
エンは、カケルの腕を振り払い、矢先を向けた。
「ダメだ、エン!弓を下ろせ!」
そう言うと同時に、一人の男が、エンの後頭部を殴りつけた。カケルも同じように殴られた。
二人とも気を失い、その場に倒れこんだ。
「血の気の多い奴だな。」「ああ・・まったくだ。」
男たちは、倒れたエンとカケルを軽々と担ぎ上げて、小屋のほうへ向って歩いていった。

洞窟2.jpg
タグ:猩猩 足跡
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