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-ウスキの村‐4.巫女の啓示 [アスカケ第2部九重連山]

4. 巫女の啓示
カケルは、自分の為す事が思いもよらぬ結果を招くたびに、己の力に恐怖していた。
ナレの村を出て、幾つかの村でやってきたことが果たして良かったのか、迷うようになっていた。アスカケの最中では、それも当然なのだが、この先、どうすれば良いのかまったくわからなかった。
部屋の外から声がした。
「カケル様、巫女様が話があると申されております。広間へおいで下さい。」
ハツが呼びに来たのだった。
カケルが広間に入ると、エンもそこにいた。カケルがエンの隣に座ると、奥の御簾の掛かった部屋の扉が開いて、巫女が入ってきた。
昨日は、朱の衣を纏い、顔がほとんど隠れていたため、巫女がどんな人物か判らなかったが、出てきた巫女はまだうら若き女性だった。
「貴女が巫女様ですか?」
エンが、思わず訊いてしまった。
「そうです。・・何か変ですか?」
「いえ、巫女様はどこの村でも、みな、婆様・・いや、お年を召した方ばかりだったので・・。」
「先代の巫女様は、一昨年亡くなりました。・・長老様のあとを追うように逝かれました。」
巫女は、まったくの無表情でそう言うと、そっと扉のほうを向いて頭を垂れた。
錦の衣を纏い、頭には冠を着けたイツキが静かに入ってきた。
久しぶりに見るイツキは、ともに旅していたころとは随分と雰囲気が変わっていた。イツキは、御簾の部屋の椅子に座った。巫女が御簾の部屋から出てきて、二人の前に座った。
「お二人には、改めて礼を言わせていただきましょう。ここまで、姫様を守り、無事にお連れいただけ、まことにありがとうございました。」
巫女は、二人に頭を下げた。それを見て、カケルは言った。
「いえ、それが我らに与えられた役目なのです。ここから、我らのアスカケが始まるのです。」
それを聞いて、巫女は二人をじっと見て言った。
「アスカケとは己を知る事、生きる意味を見つける事ですね。・・・ナギ様もそう言ってこの村で修行をされていた。・・お二人は、この先どうされるおつもりでしょう。」
二人は顔を見合わせた。そして、カケルが言った。
「これから冬が来ます。冬の間はこの村に居させてください。春には、それぞれ自らの道を進むつもりです。」
「はい、それは・・いつまでもここにおいでいただいても良いのですが・・で、それぞれどこへ?」
エンが口を開いた。
「私は、・・ノベの村へ行こうと思います。・・弓の腕を磨くために、ヒムカの兵の村へ行こうと思っています。」
「で、カケル様は?」
「まだ、決めかねております。ナレの村を出る時には、ウスキを抜け、邪馬台国へと考えておりましたが・・モロの村で邪馬台国は、この先にあるものでないことを聞きました。・・行き先が今はありません。」
「そうですか・・・まあ、春までゆっくり考えられると良いでしょう。」
エンが、御簾の様子を見ながら訊いた。
「ところで、巫女様。・・あの、イツキ・・いや、伊津姫様はこれからどうされるのでしょう。」
巫女は、そっと御簾のほうへ目を遣ってから言った。
「・・それは・・姫様がお決めになる事。・・まだ、こちらに戻られたばかりです。今はまず姫様として知るべきことをお教えしております。邪馬台国が生まれるまでに、姫様はたくさんの事を身につけねばなりませんから・・」
わずかに御簾の間から見えるイツキは、身動きもせず、その言葉を聞いていた。
「邪馬台国が生まれる時とは何時なのでしょう?」
カケルが訊いた。巫女は少し考えてから応えた。
「それは判りませぬ。モロの村で何を聞かれたかは判りませんが、邪馬台国は、ヒムカの国や火の国とは違います。九重の国々の人々が心ひとつに願う時、生まれるのが邪馬台国なのです。今は、まだまだ遠い事でしょう。・・ですが、こうやって、姫様がここへ戻られた事がひとつの始まりです。」
「我らにも・・その・・何かの役割があるのでしょうか?」
その言葉に巫女は、立ち上がり、祭壇に向かって祈りの言葉を上げ始めた。
その様子に戸惑っていると、脇からハツが小さく耳打ちした。
「巫女様は、今、時を上っておられます。巫女様には未来が見えるのです。」
「そんな・・」
「いえ、確かです。ここへ姫様がお戻りになられる事も言い当てられました。ですから、猩猩の森にいるウル様にその事をお告げになりました。」

巫女は突然唸るような声を上げ始め、静かに突っ伏してしまった。
しばらくすると、すっと立ち上がり、二人のほうを向いた。
「・・良いでしょう。・・お話しましょう。・・姫様もお聞き下さい。」
御簾の中に居たイツキも、広間へ姿を現し、二人の横に座った。イツキからは、芳しい香りがしていた。エンは、まるで別人のように美しい姫になったイツキに見とれてしまった。
「姫様には、昨夜も王の定めはお話いたしましたが、時は少しずつ近づいております。しかし、邪馬台国がまた生まれるには、姫様だけの力では無理なのです。あの、卑弥呼様にも強き勇者が傍に仕えておりました。」
そう言うと、巫女は、エンをじっと見つめた。
「エン様、貴方が・・姫様をお守りする勇者様なのです。」
「えっ?!俺が勇者?・・ちょっとそれは何かの間違いだろ・・。カケルの間違いだろ?」
「いえ・・貴方こそ、生涯、姫様のお傍にいて、姫様をお守りになる勇者様です。ただ・・今すぐではありません。いくつかの長い道のりの後です。・・そういう定めなのです。」
巫女は、目を閉じ少し考えてから、ゆっくりと続けた。
「カケル様。貴方には、恐るべき力を感じます。貴方は姫様のお傍に居られるお方ではありません。おそらく、貴方は、その力に悩み始めておいででしょう。しかし、その力は正しき心を持つ事が無ければ身を滅ぼす事になりましょう。今はまだ、小さき力ですが、おそらく、九重を・・いやこの倭国を変えるほどのお力になるでしょう。ですから、姫様のお傍に居てはならぬ定めなのです。」
巫女の言葉に、イツキやエンは驚いた。しかし、カケルは驚かなかった。自らの中に蠢く怖ろしい力をこれまで何度か感じてきていた。そしてそれは日に日に強くなっているように思っていたからだった。
そう言うと、巫女は、祭壇の棚の上から一つの書物を取り出してきた。そして、恭しくそれを持ち上げ、祈りを奉げた後、カケル達の前に差し出した。
「これは、邪馬台国より伝わる書物です。」
その書物は、ナレの村に隠されていた書物とよく似ていた。
「読めますか?」
巫女の問いに、カケルとイツキは頷いた。

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