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-ウスキの村‐13.差し込む光 [アスカケ第2部九重連山]

13.差し込む光
カケルとイツキは、一旦、入ったところまで戻り、今度は登り道になるほうを進んだ。
穴には、あちこちに更に小さな穴が開いていて、風が吹き込んでくる。カケルはイツキの手を強く握り、一歩ずつ慎重に前へ前へ進んでいく。どれくらい歩いたのだろう。暗い穴の中では時間も距離もわからなくなる。
「少し休もうか。」
カケルは、少し広い場所を見つけて、休む事にした。
「ねえ、カケル。こうやって歩いていると・・薬草取りに森に入った時の事思い出すわね。」
イツキは、少し笑顔になってそう言った。母様の病を治そうと、二人で深い森に入り、戻り道を失って、滝の傍で一晩過ごしたあの時の事を思い出していた。
「私、あの時、少しも不安じゃなかった。カケルは道に迷ったみたいだったけど・・きっとカケルなら、私を守ってくれるって信じてたから。」

二人が閉じ込められてから、随分時間が経っていた。大きな洞窟の中で村人たちは祈祷を続けていたが、外はすっかり夜の闇に包まれていた。一心不乱に祈祷を続ける巫女も疲れきっていた。
「巫女様、お疲れではありませんか」
村人が心配して声を掛けても、巫女は休むことなく、祈祷を続けた。
「おい、火を絶やすな!」
洞窟の壁には、火が作り出す人影がゆらゆらと蠢いていた。

「さあ、もう少し行ってみよう。」
少し休んだ後、カケルはそう言って立ち上がった。微かな風しかなかった空洞に、一瞬強い風が吹き抜けた。風は、二人の周りにまとわりつくような旋風になり、すぐに、先のほうへ抜けて行った。
「カケル!・・今のは・・」
「ああ、きっと、母様の風だ。・・・きっとこの先に出口がある。」
高千穂の峰に登った時、感じた懐かしく優しい風だった。
二人は、しっかりした足取りで、穴の中を風邪が抜けた方向へ歩いていく。イツキはの着ている、錦の衣は裾が長く、歩きづらかった。それでも、カケルに遅れまいと必死に歩いた。しばらく歩くと、穴は地中深く落ち込んでいた。カケルが穴を覗き込んで、
「何とか、行けそうだ。」
そう言って振り返ると、イツキの衣服が気になった。足元が見えづらいと足を踏み外して落下するかもしれない。カケルの不安をイツキはすぐに感じ取った。そして、
「これは、ここでは邪魔ね。」
そう言うと、錦の衣服を脱ぎ去った。下には薄い衣一枚しか着けていなかった。カケルは、慌てて、自分の服を脱ぐとイツキに着せた。カケルは、上半身、裸になった。もう17歳になり、カケルも立派な男の体格になっていた。
「さあ、ここを降りるよ。ゆっくりで良い。足を踏み外したら大怪我をする。」
カケルが先に下りた。イツキもゆっくりとついていく。底に着くとまた横に伸びる穴が続いている。ところどころ、天井から水が滴り落ちてくる。しばらく進むと、今度は垂直に登る穴になった。
カケルは、イツキが着ていた錦の衣から帯だけを取って、持っていた。イツキの体に帯を結び、反対の端を自分の体に結んだ。
「先に上るから、ついておいで。大丈夫、俺が引っ張りあげるから。」
そういうと、壁の窪みに手をかけて上り始めた。イツキも必死で登る。ようやく、また広い空間が広がっていた。二人とも疲れきってしまい、座り込んだしまった。その時、壁伝いに何か音が聞こえたように感じた。
「何か聞こえた。」
イツキがカケルの背を突いた。二人は耳を壁につけてみた。微かに何か人の声のような音が聞こえる。カケルは石を拾って、壁を叩いてみた。
「巫女様、巫女様!何か、音がします。」
その声に巫女は祈祷を止めた。コツコツコツと響く音が確かに聞こえた。それに答えるように、村人も石を拾って壁を叩いた。
穴の中の二人もその音を確認した。
「この近くに皆がいるようだ。」
カケルは、もう一度、今度は更にはっきりとわかるように、コツコツ、コッ、コツコツと拍子を打って叩いた。村人もその音に反応した。間違いなかった。ただ、岩壁を伝って聞こえる音では、一体どの方向に村人たちがいるのか判らなかった。村人たちも、洞窟の中に響く音には、どのあたりにカケルたちがいるのか判らない。村人は、焚き火の周りに集まり思案した。
「きっとどこかに、通じる穴があるはずだ、手分けして探そう!」
「いや、どこか、脆いところを探して掘ってみたらどうだ!」
皆、いろいろと意見を出すが、これと言って有効なものに行き着かない。巫女が言った。
「暗闇では、カケル様にも、出口が見つからないでしょう。火を大きくして洞窟の中を明るくしましょう。岩壁の隙間から、その明かりが見えれば・・きっと・・・。」
男たちが、薪を集めて、炎が天井に届くほどに焚き火を大きくした。
「私たちも、壁を丁寧に調べましょう。割れ目があれば、洞に通じているかもしれないから・・」
女たちは、焚き火の明かりを頼りに、洞窟の岩壁を探り始めた。マナも女たちと一緒に壁を探った。
大きな洞窟の一番奥に、周囲の壁とは違う色をした場所があった。
「ねえ、ここ、きっとここよ。」
マナが、皆に叫んだ。村人は、松明を掲げて洞窟の奥に集まった。確かに、壁とは違い、まるで扉のような岩があった。

洞穴の中のカケルとイツキは、壁から聞こえた音を頼りに、壁を探りながらゆっくりと進んだ。ついに洞穴は行き止まりになった。
「ここより先にはいけそうに無いな。」
カケルは、先ほどのように石で壁を叩いた。その向うから同じように音が響いた。
「ここが出口だ!」
カケルは、その壁を力の限りに押した。少しだけ動いたようだった。隙間から、細い光が差し込むと同時に、「姫様!」と叫ぶ声も届いた。イツキも一緒に壁を押す。また少しだけ動いた。確かに外に村人が待っている。
カケルの腰の剣が妖しげな光を放った。すると、カケルの体に変化が起きた。心臓が強く打ち、肩から腕がぶるぶると震えると、倍くらいに大きくなり、背中から湯気が上がるほどに熱くなった。
「カケル?大丈夫?」
カケルの変貌にイツキは戸惑った。眼光は鋭く、髪は逆立ち、上気した表情。まるで獣のような形相をしていたのだった。
カケルは、さっと剣を抜くと、大きく振りかぶり、扉の岩、めがけて一気に振り下ろした。ドーンという音とともに、岩は崩れ去り、目の前がぱっと開いた。
「姫様!カケル様!」
松明の明かりに照らされた二人の姿が見えると、村人は歓声を上げ、抱き合い喜んだ。

洞窟.jpg
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