SSブログ

-ウスキの村‐16.コゼとズク [アスカケ第2部九重連山]

16.コゼとズク
カケルたちは、コゼの家に招かれ、囲炉裏を囲んだ。
「貴方には、二度も命を救われました。本当にありがとうございます。」
コゼは、囲炉裏の火を起こし、湯を沸かしながらそう言った。カケルは、供に来たキハチの弟たちにも、ミミの浜での出来事を話した。
「私は、しばらくここに留まり、お手伝いをいたします。壊れた家や舟の修理もできますから」
キハチのすぐ下の弟、キイリが言った。するとその下の双子の弟の、キムリとキトリは、
「私たちは、舟を引いてウスキへ戻ります。きっとエン様は、ここの様子を心配しておられるでしょう。すぐに、お教えいたします。」
「それに、きっとこの辺りのほかの村も困っているでしょう。村の米をほかへも運びましょう。」
「ああ、それがいいだろう。」
聞いていたコゼは、驚いて言った。
「ウスキの村の人たちは、みな、このように優しいお方ばかりなのですか。良い村なのでしょうな。」
それを聞いたキイリが答える。
「いえ・・我らも、カケル様やエン様、そして伊津姫様に救われたのです。山深い地で、わずかな田畑で細々と暮らしておりましたが・・カケル様たちがいらして、村は元気になりました。ですから、同じように困っている村があれば、お助けしたい、それだけの事です。」
「この村のものにも、話し伝えましょう。村々がそうやって助け合えばよいのだと・。」
「ええ、・・ヒムカの大王も、そうした国が作りたかったそうです。」
「カケル様は、これからどうされるのですか?」
「タロヒコの兵を追って行きます。」
それを聞いて、コゼは少し躊躇いがちに言った。
「タロヒコは・・魔物に取り付かれています。・・いや、もはや魔物です。」
「どういうことですか?」
「タロヒコは、妙な術を使って、死んだはずのユラを生き返らせました。どうやったかは知りませんが、確かに、あれは死んだはずのユラでした。・・次は、モシオの近くで死んだというクジを蘇らせるはずです。・タロヒコは死人に命を与え兵にしています。・・弓や剣では勝てない相手です。」
「・・しかし、このままでは・・・とにかく、私は、タロヒコの兵を追います。」
カケルの覚悟が確かな事がわかったコゼは、深くため息をついてから、
「おい!誰か、ズクを呼んで来てくれ!」
まもなくして、背の低いずんぐりとした格好で、ぎょろっとした目つきの男が現れた。周囲のミコト達と比べて、どこか様子が落ち着かない。すぐにでも、その場から帰りたい様子で、入り口に立っている。
「ズク、来たか。・・お前に頼みがある。お前にしか出来ないことだ。」
ズクは、周りを見回した後、慌てて頷いた。
「これから、カケル様を船でモシオまで送ってもらいたいのだ。これくらいの月明かりがあれば、お前には充分だろう?」
その言葉に周囲に居た男たちは驚いた。
「コゼ様、いくら夜目が利くといっても、舟は無理だ。」
「大体、ズクに家に閉じこもっていて、舟など操れないんですよ。」
「大事なお方をそんな無茶だ・・止めたほうが良い。」
皆、口々にコゼの考えに反対した。
コゼは、改めて、ズクに訊いた。
「どうだ?無理か?」
「いえ・・大丈夫です。これだけの月明かりがあれば、大丈夫です。」
ズクの意外な答えに、反対した男たちは驚いた。
「大丈夫って?お前、舟を操れるのか?」
それを聞いて、コゼが言った。
「ズクの母様から、聞いたんだが、毎晩、ズクは、皆が寝静まってから、何処かに出かけ、いくつかの魚を抱えてもどってくるんだそうだ。」
「そうなのか、ズク?」
傍にいたミコトが、今一度、確認するように聞いた。
「おれも気になって、一度、夜中に出て行くズクの後を追ったんだ。こいつは、船着場に向かって、だれも使わない、古い舟を曳き出して、沖へ出て行ったんだ。・・その時は、大きな鯛を抱えて戻ってきたよな?」
小さく、ズクは頷いた。
「まさか・・ズク、お前、あの・・帰らずの島まで行ったのか?」
「あそこは、潮の流れも速く、昼間でも潮が読みきれないところだ・・本当か?」
ズクは、また、頷いた。それを見て、コザはにやりとして、皆に言った。
「どうだ、こいつなら、大丈夫だろ?」
居合わせたミコトたちは、皆、納得した様子だった。

「カケル様、こいつは、ズク。こいつが案内しますよ。すぐに、出発できます。」
カケルも一連の話を聞いていて、すべて承知した。
「ズク、お前が使っている舟は、小さくて遅い。俺の舟を使ってくれ。」
コゼがそう言うと、ズクは驚いた。
コゼの使っている舟は、村でも一番立派で長く、早く走る舟で、浜の漁師たちは、コゼの舟は憧れだったからだ。
「もう、俺はこの体だ・・舟にも満足には乗れない。お前が使ってくれるなら嬉しいんだが。」
ミコトたちは、羨ましがった。
「こんな、役立たずの俺が、使って良いんですか?」
ズクの返事に、コゼはため息をついてから言った。
「なあ・・お前は、ちっとも役立たずなんかじゃない。確かに、昼間は動けないかもしれないが・・夜は誰よりも動ける。これからは、夜の暗闇でもお前が居てくれれば心強い。だから、お前は役立たずなんかじゃないんだ。・・それと、舟はお前にやる。お前のものすれば良い。・・だが、いいか、カケル様を一刻も早く、モシオの村にお連れするんだ。」

現れたときにはおじおじとしていたズクも、皆に認められたようで、もうすっかり表情も自信に満ちていた。そして、力強く言った。
「さあ、カケル様、行きましょう。・・今日は、月も出ていて、波も穏やかです。きっと夜明け前にはモシオに着きます。」
そう言って、ズクは家を出て、船着場で支度を始めた。
「カケル様は、その筵を被ってください。夜風は冷えます。着くまで、眠っていてください。」
ミミの浜の漁師たちは、カケルとズクの乗った舟を見送った。
夜空には、半月が浮かび、わずかに海面に反射していた。風も無く穏やかな海、静かに舟は進んだ。
月明かりの海.jpg
nice!(11)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 11

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0