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3-2-14 沼 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

14. 沼
アスカの傷が癒えるまで、カケルは社(やしろ)で過ごす事になった。
その間、大主タツルは、カケルを連れ、阿蘇の里のあちこちを見て回った。阿蘇はもう秋も深まり始めていた。
大草原も深い緑の草原は徐々に枯れ草に変わり、背の高い草に隠れて見えなかったものも見えてきた。なだらかな丘に見えていたところも、実は、阿蘇の噴火で吐き出された岩石があちこちにあり、険しい火の山の様相を見せ始めていたのだった。
大主タツルとカケルは、馬にまたがり、立野へ行った。居を構えた場所は遠く、白川の流れる先まで見渡せる。
「まだ、ここから見えるところには着いていないようですね。」
「ああ、そのようだ。・・しかし、この山を越えてくるとなると、どう守れば良い?ここから大里まではすぐのところだ。ここから兵が一気に来れば、防ぎようが無い。」
大主タツルは、大里の方角に視線をやった。
「幸い、ここから大里は見えません。深い森が里を隠してくれています。すぐに見つけられはしないでしょう。」
「しかし・・いずれは見つかる。」
カケルは、大里から御山の方角に目をやると、御山の西、黒川と白川が合流し、西の谷の湖へ流れ込む辺りを見た。
「ここまで来た兵が、違う場所へ向かうようにできないでしょうか?・・そう、あの辺りへ。」
指さす先をタツルは見た。
「それは良いが・・どうやってそちらへ向かわせる?」
「とりあえず、あの辺りまで行ってみましょう。」

馬を走らせ、先ほどの当たりへ足を運んだ。日ごろは、毒気が蔓延しているからと近づかない場所だが、カケルたちやイノヒコが御成山を越えてきたことで、毒気が弱まっている事はわかった。
西の滝にある湖には、大里のほうから流れ込む黒川と、南の里のほうから流れ込む白川があった。黒川は、川幅も広くゆったりとした流れだが、白川は、深い谷を作る川であった。
「この辺りでしょうか?」
馬を降り、カケルは立野のほうを見返した。
「ああ・・この辺りだ。で、どうする?」
カケルは少し高台に上ってみた。すると、合流地点を少し山のほうへ上がった辺りに、いくつかの沼があるのを見つけた。
「あれは?」
「ああ、あれは、大月沼、小月沼という。・・不思議な沼なのだ。秋も深まって、今は随分小さくなっているが、冬になると全く水が無くなる。そして、春と共に水を湛えるのだ。大きくなったり小さくなったりするので、お月様のような沼という事だ。」
カケルは、ナレの村を思い出した。ナレにも、一年のうち、夏にだけ水を吐き出す泉があった。雪が解けるころになると水を噴出し、秋になると水が止まる不思議な泉だ。
「その沼の上辺りには、泉がありますか?」
「ああ、少し山に入った辺りにな。」
「行ってみましょう。」
カケルは、草原を横切り、大月沼に向かった。もう、底が見えるほどに水が減っていた。
「水が流れ込む場所は?」
「ああ、あの辺りだ。」
カケルの頭の中に、何か良い策が浮かび始めていた。
カケルは、水の流れ込む辺りをじっと見てから、目線を上げ周囲を観察した。そして、しばらく目を閉じ、何か考えているようだった。
「タツル様・・良い方法を思いつきました。・・この沼を使いましょう。・・ここなら、立野辺りからも良く見える。うむ、ここなら良い。・・」
「どういう事だ?」
カケルは、その場に座り込んだ。大主タツルも脇に座った。
カケルは、タツルの目をじっと見て、ようやく考えがまとまったように話し始めた。
「ここに、村を作りましょう。冬になれば、水が引く。それを待って、地面を均し、いくつか家を作りましょう。・・・そうだ、あの南の捨てられた里から、運んで来れば良い。・・見せ掛けの里ですが、新しいのはあやしまれる。あそこから出来るだけ、いろんなものを運び込んで、里を作りましょう。・・それから、立野からも見えるような大きな楼閣も・・・立派な作りでなくてもいいんです。高い高い物見櫓程度で良いのです。・・飾り付けだけは派手にして・・とにかく・・王が居ると見えるようにしましょう。」
「それは良いが・・春には水に浸かってしまうぞ。」
「ええ、ですから、水の流れ込む場所も作り変えるのです。堤を築きましょう。泉からの水を一旦、小さい沼のほうへ引き込みます。正し、すぐに切れるような工夫が必要です。時が来てすぐに水をこの沼に引き込めるようにするのです。」
「よく判らぬが・・それでどうしようというのだ?」
「敵をここへ誘い込むのです。・・兵をすべてこの中に引き入れたあと、水を一気に流し込む。・・溺れるほどでなくても良いのです、足を掬われる程度で・・兵の動きを止めれば、我らに勝機も生まれます。」
「そうか・・では、舟を増やそう。泉のあたりに隠し、水と共に一気に雪崩れ込めば勝てる。」
「ええ、それに・・・兵の多くは、嫌々、従っている八代の民です。命を奪う必要は無い。戦う気力を奪うのです。そして、ラシャ王を取り囲み、押さえつければよいのです。」
「しかし、それならわざわざ高い楼閣を作らなくとも良いのではないか?」
「いえ・・王が謁見すると言い、ラシャ王と伊津姫を上に招くのです。混乱した中では、何が起こるかわからない。楼閣の上なら、少人数の対決になる。姫を守る事もできるでしょう。」
「そうか。よし、明日からにも、南の主に言って村づくりと、堤作りを始めよう。」
そう言って立ち上がったタツルが、ふと呟いた。
「だが・・ここまで兵を引き入れる事が出来るだろうか?」
「・・ええ、それは・・立野からここまで、まっすぐに道を作らねばなりません。・・草を刈り、馬で何度か走り抜ければ、それらしく見えるでしょう。しかし、その後が厄介です。誰かが、立野辺りで里を案内する役にならねばなりません。余り、強そうではそこで戦になるかも知れません。しかし、余り頼りないと信じてもらえぬかも知れません。・・それと、楼閣で待つ王の役も大変です。いざとなれば、ラシャ王と渡り合わねばなりませんから・・・。」
「仕掛けを作っても、どうやって活かすか・・・まあ、それはゆっくり考えよう。まずは、兵を騙す仕掛け作りだ。明日から忙しくなるぞ。急がねば、雪に閉ざされてしまうからな。」

三日月湖.JPG
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