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3-2-17 対峙 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

17. サンウとの対峙
夏の終わり、夕立が通り過ぎた夕刻、それは突然訪れた。
峠を越え、物々しい様相の男達が、列を成してやってきたのだ。
先頭には、紺色の服を纏った屈強な男たち、その後ろに黄服の男が、背中に大量の荷物を背負って従っている。次に、緑、紺の服の男が続く。列の中ほどには、黄服の男が輿を運んでいる。脇には、朱の服に身を包んだサンウが歩いている。そして、青服、そして最後尾にはまた黄服の男が荷物を運んだ。誰一人もの言わず、前だけを見て歩いている。時折、サンウの罵声が飛ぶ。総勢200名ほどの軍隊だった。
峠を越えたところで、カケル達が暮す家の前に着いた。
「誰か、居らぬか!」
紺服の男がぶっきらぼうに声を掛けた。
「はい・・ただいま・・・」
家の中から出てきたのはカケルだった。カケルは、古びた毛皮を着て、髪も髭も伸ばし放題、顔には炭を塗っていた。背を丸め、足を引きずるように歩いた。
紺服の男は、偉そうな口ぶりで訊いた。
「おい!お前!阿蘇の王はどこに居るかわかるか?」
「はあ・・」
「どこだ?さっさと答えよ。さもないと、命を落とすぞ!」
紺服の男は、剣を抜いて、顔の前に突きつけた。
「は・・はい・・・あそこです。あの塔のあるところです。」
カケルは、震える素振りを見せて、沼里の方角を指差した。
「あそこか・・・よし、案内せよ!我らは邪馬台国の兵である。王に遭いたい。」
「・・私は足が悪いので・・あそこには行けませぬ・・娘に案内させましょう。おい、出ておいで。」
中から、黒髪を引き結び、カケルと同じような格好をして、アスカが出て来た。
「娘は、言葉が話せませんゆえ、皆様の前を行きまする。・・後について行かれるが良いでしょう。・・そう、里の周りは沼になっております。狭い丸太橋しかありませんゆえ、ゆっくりと行かれるように・・。」
「ふむ・・まあ良い。さあ、娘、行け!・・皆の者も続くのだ!」
アスカは、カケルを見てこくりと頷いた。そして、沼里まで作った道を進んでいった。
兵たちはカケルの前を通過する。カケルは、土下座をして兵たちが行き過ぎるのを待った。順番に、列が続く。目の前に、輿が通過した時、カケルは少し頭を上げ、輿を確認した。担いでいる男の中には、エンは居なかった。隣には、朱の服の男が厳しい表情で歩いていった。
兵が行き過ぎた後、カケルはそっと家の中に入り、着替えると、裏口から出て、山道を駆けた。兵たちには見つからぬように、丘陵の低いところを背の高い草に隠れながら、風のように駆け抜けた。兵たちは、アスカの後ろをゆっくりと歩いていた。里沼に到着するまでかなり時間が掛かる。
カケルは、沼里に着くと、すぐに、里に居る者たちに、兵の到着を知らせた。
大主タツルも、高楼の上から、兵たちの列を確認していた。
「来たか・・・よし、いよいよだな。」
里の主たちは、沼里の北の森の中に潜んでいた。カケルは、沼里に知らせた後、主たちの潜む森へ向かった。
「到着しました。・・朱の服を着た男が輿の横についております。」
それを聞いて、タンが答えた。
「そいつが、大将サンウです。輿には姫様を乗せているのでしょう。」
「しかし、エンの姿が無かった。エンは、伊津姫の傍を離れる事など無いはずだ。もしかしたら、輿の中は伊津姫ではなく、替え玉かも知れぬ。」
「どうする?」
シュウがカケルに尋ねた。
「予定通りに進めましょう。ここに来た兵をそのままにしておくわけにはいきません。」
皆、顔を見合わせ、計画を確認しあった。
サンウの軍が、沼里に到着した頃には、もう日暮れになっていた。
里沼の真ん中にある広場に、輿とサンウ、そしてそれを取り巻くように、紺服の男たちが立ち並んだ。緑や黄色の服を着た者たちは、沼里の中には入れてもらえず、柵の外の土手に思い思いに座り込んでいた。
サンウが、沼里に響き渡る声で言った。
「われらは、邪馬台国を興すための軍である。俺は、サンウ。大将である!阿蘇の王は居られぬか?!!」
その声を聞いて、大主タツルがゆっくりと高楼から降りてきた。
「この里の主、タツルである。・・なんと物々しいご様子。いかがされました。」
「そなたが、この国の王か?」
「王ではありませぬ。里の主でございます。王を名乗るほどの大きな国ではございません。」
「ふん、こちらにおわすのが邪馬台国の姫様である。我らは、九重の地に、再び、邪馬台国を興すために姫様をお守りしておるのだ。阿蘇一族も、われらに合力せよ。」
「なんと、・・まことなれば、恐れ多い事。お話は、館の中でさあ・・」
敵対心むき出しのサンウは、大主の態度に肩透かしを食らった感じになり、言われるまま、高楼に入る事にした。
「姫様もお入り下さい。」
大主タツルがそう言うと、サンウが返した。
「姫様は、滅多な事では我らに顔は見せられぬ。輿から降りるには、人払いが必要じゃ。」
サンウが言うと、タツルも周囲に言って、皆を遠ざけた。ゆっくりと姫が輿から出て来た。姫は、紅色の服を纏い、頭からすっぽりと白い布を被り、顔は見えなかった。紺服の男が数人、周りを囲み、階段を登っていった。
「さあ、兵の皆様も、館の中へ。」
南の里の主、レンが皆を促し、高楼の中へ入れた。
「お前たちは入らずとも良い!その辺りで休んでおれ。」
紺服の男が、緑と黄服の男たちにはき捨てるように指図した。柵の中から、里に入る事は赦されたものの、広場に座って休むことになった。
広場の周りには、あちこちに火が焚かれ、里を明るくした。
サンウと姫は、高楼の2階の広間に入った。質素な作りで、毛皮の敷物が二つ三つある程度であった。
「今、食事を運ばせます。・・まあ、ごゆるりとなされませ。」
大主タツルはできるだけ和やかに振舞った。
サンウは、表情を崩さず、睨みつけるような視線で、タツルを見た。
「・・食事など後でよい。さあ、先ほどの返事聞かせてもらおう。我らに降伏し従うか!」
タツルの表情が変わった。
「はて、何ゆえ、降伏せねばなりません。まだ、戦もしておりません。先ほどは、合力せよと言われたはずだが・・」

阿蘇7.jpg
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