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3-2-18 沼の里 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

18. 沼里
「おお、これは言葉を誤った。我らに合力いただけるのであろうな、タツル殿。」
「いや・・それは・・姫様が本当に邪馬台国の王の地を継ぐものという証を見るまでは・・」
「何!偽者だと言うか!」
サンウはいきりたった。
「まあまあ、姫様がお持ちの邪馬台国の証をお見せ願えれば納得いたします。さあ。」
サンウは困った。姫の証と言われても何がそうなのか見当もつかない。
「さあ、いかがですかな?もしや、証をお持ちではないのでしょうな・・我らも見たことはございませんが・・確か・・か」
タツルがそこまで言うと、サンウが気付いたように、
「おお、そうだ。輿にあるはずだ。・・おい、あれを持って来い!」
見た事が無いという言葉を聞いてほっとしたような表情でサンウは紺服の男に命じて、小さな包みを持ってこさせた。
「さあ、これが、王の証の鏡である。さあ、ご覧あれ。」
サンウは得意そうだった。瀬田を出る時、ラシャ王から持たされていた宝物を出したのだった。
「これは?」
タツルが少し意味ありげに訊いた。
「これが・・これこそが・・邪馬台国の王家に伝わる鏡ではないか!これが証拠だ。」
大主タツルは、内心可笑しくて堪らなかった。王の証と言えば、双子勾玉である事は、九重の主であれば語り継がれている周知の事なのだ。それを知らぬとすれば、九重のものではない事は明白だった。
タツルは、大事そうに「鏡」を持ち上げ、恭しく拝み、じっくりと見てサンウの手に返した。
「承知しました。・・邪馬台国復興のために、我らも尽力いたしましょう。」
「そ・・そうか・・」
サンウは、何とか窮場を凌ぎ安堵した。
「さあ、夕餉をお持ちしろ!」
タツルの言葉に、階下から夕餉が運ばれてきた。
「夕餉にございます。」
里の娘が、食事を運んできた。
「さあ、どうぞ。お召し上がりください。山の中ゆえ、たいしたものはございませんが、腹の足しにはなるでしょう。・・さあ、姫様も・・そんな布をお取りになってください。」
サンウが慌てた。
「いや・・姫様は、人前では食はされぬ。このままで良いのだ。」
「では・・奥の部屋を用意いたしましょう。おい!」
タツルがそう言うと、娘がやって来た。綺麗な服に着替えたアスカだった。
サンウは躊躇したが、高楼の上では逃げ出す事もなかろうと考え、奥の部屋に入る事を許した。
アスカは、静かに奥の部屋に姫を案内した。

奥の部屋には、カケルが待っていた。
姫が部屋に入ると、アスカが姫の口を塞ぎ、静かにするように言った。
カケルは、そっと姫の傍に行き、耳元で話した。
「私はカケル。そなたは何者だ?」
姫の替え玉は、全て理解したようにこくりと頷いた。アスカが手を離すと、小さな声で言った。
「わたしは・・アマリ・・伊津姫様のお世話役でした。・・ここへ向かうのに、姫の身代わりにされました。」
アマリの事は、イノヒコから聞いていた。
「そうか・・アマリか、聞いている。姫はご無事か?」
「はい。姫様はラシャ王に囚われたままです。エン様もお傍に居られます。阿蘇の者は、伊津姫様の顔など知らぬ、誰でも良いのだと言い、身代わりにさせられたのです。」
「そうか・・やはり、そう簡単にはいかぬものだ。・・」
「そなたはここから逃がす。アスカと服を取り替えるのだ。・・アスカ、頼んだぞ!」
アスカはこくりと頷いた。カケルは、小窓から外に出て、アマリを待った。
着替えた二人は入れ替わり、アマリは部屋を出て、高楼から外に出た。

広間では、サンウが出された食事を平らげていた。
「阿蘇一族は、怖れるほどではないな。・・こんな粗末な高楼とは・・ラシャ王が懸念されるほどもない。これなら放っておいても良かっただろう。さて、これからどうしたものか。・・明日にも、瀬田へ戻り・・・」
満腹感と疲れからか、サンウは、独り言を呟きながら、うとうととし始めた。高楼の一階で食事をした紺服の男たちも同様だった。食事の中には、山で取れる眠気を誘うキノコが混ざっていたのだった。
外の広場で、集まって食事をしていた緑と黄服の兵たちには、普通の食事が出されていた。食事の最中、頬被りをして顔を隠していたタンが、顔見知りの兵たちのところへそっと近づいては、小声で話した。
「お前たち、俺がわかるか?」
「お・・お前・・タンじゃないか・・生きていたのか?」
「ああ。カケル様にお助けいただいた。なあ、お前たち、里へ戻りたいだろう?」
「ああ、当たり前だ。」
「なら、今からいう事をよおく聞け。もうすぐ、焚き火が消える。真っ暗になったら、目を閉じ、眠った振りをしているんだ。俺が合図するまで動くな。そして、俺が合図したら、皆、柵の上に登るんだ。良いな。」
「判った。・・他の連中は?皆、あちこちの村から連れてこられた奴らばかりだ。皆、里へ戻りたいはずだ。」
「それなら、お前が信じられる奴にだけ話せ。良いな。裏切る奴は許さない!」
「ああ・・判った。」
それからしばらくして、里が静かになった。焚き火が消され、真っ暗になった。
里の北の森に潜んでいた主たちが、火が消えたのを合図に、堤を壊し始めた。
沼に注ぐ泉を堰きとめた水は、沼里の上に広がる小月沼に今にも溢れるほど溜まっていて、堤が壊れると同時に、一気に、沼里へ向かって流れ込んだ。
タンは、小さく口笛を吹いて、仲間に知らせた。
黄色の服を着た男たちは一斉に起き上がり、必死に、里を取り囲む柵の上に登った。緑の服の男も数人、上に上がった。
見る見るうちに、沼里は水が溜まっていく。くるぶしから膝、ついに腰辺りまで水が溜まった。
眠り込んでいた男たちは、突然の水に慌てふためいた。逃げようにも暗闇の中、どこも様子がわからない。高楼の一階部分にも水が押し寄せる。気づいた紺服の男たちは慌てて、高楼から飛び出した。しかし、外はもう腰を超える深さまで水が押し寄せ、満足に動けない状態だった。

鏡.jpg
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