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3-3-1 瀬田の地へ [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

1. 瀬田の地へ
皆、大里へ引き揚げる事にした。カケルは、板に乗せられ、皆で交替で担いで運んだ。里に着くと、カケルは社の広間に寝かされた。アスカはじっと手を握り、カケルの看病をした。
広場には、サンウをはじめ、兵たちを座らせ、周りを主たちが取り囲んだ。抗う気持ちを無くした兵たちは、荒縄で縛られる事なく、静かに座っている。
「さあ、お前たち、これからどうする?」
大主は、社の段に座り、皆を見下ろして言った。黄服を着た男たちが最初に口を開いた。
「村に・・村に戻りたい・・もう、戦はこりごりだ。・・生まれた村に戻りたい!」
タンもそれを聞いて、跪き、大主タツルに懇願した。
「もともと、我らは、サンウに囚われ、兵になっただけです。村へ戻り、村のために働きたいのです。どうか、お許し下さい。」
「そうか・・・それも良かろう。では、村に戻りたい奴は立て、許してやろう。」
黄服の男たちは皆立ち上がった。緑服の男たちも大方が立ち上がった。
「これだけか?」
紺服の男たちは、顔を見合わせている。
「お前達はどうなのだ?」
紺服の男たちに問う。その様子を見ていたサンウが答えた。
「この者たちは、里ははるか遠く、海の先。それに、戻りたくても戻れはしません。・・ラシャ王が、里を負われた者を集めたのです。・・私も同様。生まれた村は、すべて、隣国に侵され、もはや我らの地ではないのです。やむなく、ラシャ王のもとに身を寄せ、生きてきたのですから・・。」
「そうか・・なら、どうする?」
サンウは答えを失った。
サンウの話を聞いていたタンが、不安げな声で言った。
「そ・・そうだ・・我らの里もラシャ王に・・・戻りたくても今は戻れない。ラシャ王を倒さねば、我らも、戻る場所がありません。」
そうだそうだと、黄服の男たちも、口を揃えていった。
「どうやら、ここに居る者全てが同じ定めのようだな。・・ならば、兵を挙げ、ラシャ王とやらを倒すしかなさそうだな。・・・」
大主タツルは、皆の顔を睨むようにゆっくりと言った。サンウをはじめ、広場に居た男たちは顔を見合わせる。皆、沈黙してしまった。
そこへ、カケルがアスカの肩を借りて、現れた。
「カケル様!」
真っ先に気づいたのは、サンウだった。
「皆様に・・お願いがあります・・・」
カケルはそう言うと、ゆっくりと社の段に腰下ろした。まだ、右足は動かせず、赤く腫れて痛々しかった。
「どうか・・皆様の力を私にお貸し下さい。・・・何としても、伊津姫をお救いせねばなりません。・・ラシャ王はきっと恐ろしき力を持っているでしょう。私一人では到底敵いません。多くの力を集め、ラシャ王をこの九重から追い出さねばなりません。どうか・・お願いします。」
カケルは、満足に動ける体ではないにも関わらず、段から降り、地面に座り頭を下げた。
サンウは、思わず立ち上がり、カケルに駆け寄った。
「カケル様・・カケル様・・サンウです。貴方に命を救われたサンウです。・・・一度捨てた命です。貴方のために使います。何でも言ってください。」
サンウは、泣きながらそう言った。
タンも続いた。
「私は、峠で救われてからずっと、カケル様のために生きると決めております。」
皆、カケルに駆け寄り、口々に同じ事を言った。
皆の様子を見て、大主タツルが口を開いた。
「よし、どうやら決まったようだな。」

主だったものが、広間に集まった。カケルは、アスカに支えられて話に加わった。
サンウが切り出した。
「阿蘇攻めを命令されてから、まだ数日です。それほど早く攻め落とせるとはラシャ王も考えてはいないでしょう。」
「まだ、時間はあるか・・」
タツルが答える。
「ここへ来たのは、瀬田に居る兵の半分ほどです。・・数では互角でしょうが、瀬田には一の身やニノ身の者たちが残っております。」
「一の身とは?」
「我らは、王の傍に仕える一の身(いちのみ)、剣や弓に長けたものはニノ身(にのみ)、力自慢や何かの技を持つものは三の身(さんのみ)、そして襲った先々で捕らえたものを四の身(しのみ)と呼んでおります。福の色でもわかります。朱・紺・緑・黄の順になっております。」
「ここへ来たのは、黄服が多かったようだが・・」
「・・・そうです。我らが先駆けとなって道を開き、ラシャ王の本隊が後に動く手筈でした。」
「阿蘇も舐められたものだな。」
タツルの反応に、サンウは恐縮した。
「では、このまま攻めても勝ち目はないな。・・無駄死にを増やすだけになる。」
「それに・・ラシャ王は、千里眼の力を持っています。遠く離れた場所を見通す力です。・・ここに、カケル様がいる事も知っておりました。おそらく、我らが負け、囚われた事もすでに知られているのではないでしょうか?」
「何?千里眼・・ああ・・それなら、からくりはわかっておる。先々へ密使を送り、内情を調べて王に知らせる。それを聞いて、皆の前で話すという事だ。我が里にも、潜んでおった。」
「密使?」
「ああ、黒服に身を包み、暗闇を動き、忍び込む。」
「黒服?そんなものは居りませぬ。」
「昨夜も、カケルが、黒服を捕まえたが、その場で命を絶った。・・サンウ、お前も見張られていたのだぞ。自分の手下にさえ隠している。きっと将すら、信用していないのだろう。」
サンウは、ラシャ王の本性を知って、これまで王のために生きてきた事を一層悔いた。王を倒す、それこそがこれまで自分がしてきた多くの罪を償う事だと改めて確信した。
命を救ってくれたカケルや、阿蘇一族、そして、これまで酷い目にあわせてきた人々のためにも、どんな手を使っても、ラシャ王を倒したい、倒さねばならないと決め、必死に考えた。

「私に策があります。」
サンウは、何かを思いついたように言った。

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