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3-3-2 サンウの謀 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

2. サンウの謀
「阿蘇との戦で、ほぼ手中にしたが、まだ、残党がいるので、すべて始末して数日・・・そう、支度が整う・・十日ほどで瀬田へ戻ると使いを出しましょう。」
サンウは、そう言って皆の顔を見た。
「それで?」
とタツルが訊いた。
「来た時の様に、隊列を組み瀬田へ戻ります。そして、報告に王と謁見し・・そして・・」
「そこで王を殺すというのか?」
「はい。」
「そう、うまくいくだろうか?」
シュウが言った。
「私が人質になろう。阿蘇の主を捕えて戻れば、王も信用し、油断もする。」
大主タツルが言うと、皆が反対した。
「阿蘇の掟がございます。我らはこの地から外へ出ぬと・・それを大主様自らが破るとなれば、きっと御山が災いを起こすやもしれませぬ。」
「では、どうする。ただ勝ちましたと戻っても信用されぬかもしれんぞ。」
「私が人質になりましょう。」
カケルがゆっくりと身を起こして言った。
「十日もあれば、傷も癒えるでしょう。それに、囚われの身であれば、動けないよう縛られていてもおかしくない。・・ラシャ王が私のことを知っているなら、好都合です。」
「しかし・・それは余りに危険では・・。」
サンウはカケルを気遣った。
「いえ、伊津姫をお救いするのは私の願い。・・姫はラシャ王の傍に居られるはず。サンウ様が私をラシャ王の前に差し出すことで、私にも姫をお救いする機会が生まれるはずです。」
カケルの覚悟は皆にもわかった。だが、痛々しい姿を目の前に、すんなり賛成することなどできなかった。
「カケル様の体を癒すことが先決だ。・・まずは、瀬田に使者を送ろう。十日ほど時を稼げれば、また、何か策が出るだろう。」
瀬田への使者は、二の身の男からシオンという者が選ばれた。シオンは、サンウと同じ里の生まれで、最も信用できる男だった。
シオンは、すぐに瀬田へ向かった。

カケルは、社から別棟の小さな館へ移り、養生することにした。
サンウたちは、大里の者の力を借りて、ラシャ王との戦いに向けて、戦支度を始めた。
大主タツルは、大事な話があるからと言って、阿蘇の主たちを社(やしろ)に残した。
「私は、阿蘇を出てカケルとともに伊津姫をお救いしようと決めた。」
主たちも、タツルの考えはおおよそ見当がついていた。しかし、掟を破れば御山の怒りを買い、ここに災いがあるかも知れないと不安に思っていた。
「そこで、私は、大主を辞める。それならばきっと御山もそれほどお怒りにはならぬだろう。」
「では、この里、阿蘇の里を守るのはどうすればよいのですか?」
シュウがいっそう不安になり、訊いた。
「それがいかんのだ。カケル様は年若くして,故郷を離れ、外の世界を見てきた。自らを律し、自らを捨てても、大事なものを守る事を学んできた。我らは、掟を守り、長くこの地から出ずに生きてきた。・・豊かで穏やかで、皆、静かに生きてこれたのは事実だ。しかし、此度のような事があれば、皆、うろたえ、道を見失ったではないか。・・掟は確かに大事だが、これから、阿蘇の御山をお守りするには、外の世界を見ることも重要ではないか。」
シュウは、それを聞いて頷いた。
「それは・・私も考えました。ですが、大主様みずからで無くとも・・」
「ならば、里の若い者を、誰も知らない地へ放り出せというのか?・・・私にはできぬ。まず、私自身が、外に出て確かなものを見てきたいのだ。・・いずれまた、この地へ戻り、外の世界で見てきたこと、知り得たことを里の者に伝えたいのだ。」
「では、大主の役はどうするのです。」
「それは、主たちが考えよ!・・良いか、大主とて何時死ぬかも知れない。突然、居なくなる事もあるのだ。主たちが知恵を出し、どうすべきか考えるのだ。」
大主タツルの決心の固さに主たちも、主たちは同意した。しかし、タツル一人を行かせるわけにはいかないと言い、主たちの子どもも数人同行することになった。
カケルの体は、アスカの必死の看病で、日増しに回復した。足の腫れも引き、どうにか一人で動けるようになった。

使者として、瀬田へ向かったシオンは、わずか1日でラシャ王の待つ館へ到着した。
「王様!王様!サンウ様からの知らせです。」
シオンは、館で待つラシャ王に謁見した。
「王様、サンウ様は見事、阿蘇一族との戦に勝利されました。」
「ほう、サンウにしては上出来だ。」
「ただ・・残党が阿蘇のあちこちに潜み抵抗をしております。サンウ様は、すべて片付けてから帰還すると言われております。」
「そうか・・で、どれくらいかかると?」
「はい、十日ほどでしょう。」
シオンは、サンウと決めた通り、王に伝えた。
「わかった。・・サンウが戻ったら、褒美をやらねばならぬな。よし、下がって休め。」
シオンが、館から下がると、ラシャ王は、憮然とした表情で呟いた。
「・・ふん、サンウらしい浅はかな謀だ。・・わしを謀ろうなど無駄な事を・・・ここまで大事にしてやった事も忘れ、あっさり裏切ろうとは・・なあ、カゲよ。」
王が座る玉座の後ろには、黒服の男が控えていた。
「カケルもともにここへ来るでしょう。」
「そうか、それは好都合だ。やはり、お前たちしか信用できぬな・・・お前たちが調べてくれた通り、サンウは動いておるようだ。・・戻ってきたら、目に物を見せてやるとしよう。」

いよいよ出発の日が来た。
サンウは、隊列を整え、峠を越え、瀬田を目指した。カケルは、まだ長い道中を歩くことはできず、輿に乗せられた。捕虜に見えるよう、輿は竹籠で作られ、男たちが抱えた。アスカも捕虜として同様に竹籠の輿に乗せられた。
大主タツルの一行は、サンウ達より少し遅れて里を出た。峠に差し掛かり、阿蘇の地を踏み出す時、タツルも、従う者もやはり躊躇した。そして、振り返り、阿蘇の御山を見つめた。
「御山の神よ。どうか、我らと里の者たちをお守り下さい。」
タツルは祈った。
早朝に出発して、日暮れには瀬田に到着した。

原野2.jpg
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minK

私小説、こんな発表の仕方もあったのですね!
あらためて、じっくり読みに来ます。
私も、同人誌長く書いていたのですが今は細々
データに入れて書き続けている程度だったのですが
私もこっそりBlogで書こうかな~。
by minK (2011-09-23 09:38) 

苦楽賢人

minK様、コメントありがとうございます。

blogの使い方、間違っているかもしれませんが、始めてみたら癖になっちゃって、ついつい長話になってしまいました。

仕事の最中も、時々、ストーリーが浮かんで、こっそり書いたりして・・・拙い文章で、妻には馬鹿にされていますが、今回、カケルとエン、イツキ、アスカが勝手に動き回ってくれて、自分でも予想が付かない方向に話が進んでしまっています。

是非、是非、お読みいただけると幸いです。
by 苦楽賢人 (2011-09-25 21:23) 

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