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3-3-3 玉座の前で [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

3.玉座の前で
サンウたちは、瀬田に到着すると、シオンが出迎え、まっすぐに館へ案内された。
館の前の広場に、すべての兵は入れられた。館を取り囲む塀には、幾つも篝火が焚かれ、煌々とした明かりの中で、何か、怪しい雰囲気を感じていた。
カケルとアスカは、竹籠から出され、シオンがやってきて、縄で縛った。
「緩やかに結んでおきます。」
耳元で、シオンが囁いた。
「シオン様、塀の外側には、王の兵たちが控えているようです。どうやら、我らの謀は王に知られたようです。」
「どうしますか?」
「サンウ様が館の中へ入ったら、一人でも多くの兵を外へ出すようにしてください。」
「わかりました。」

「サンウ、よく戻った。さあ、中へ入るが良い。」
館の中から、ラシャ王の声が響いた。サンウは、カケルを連れて、館の中へ入った。
ラシャ王は、玉座に座っていた。脇の椅子には、伊津姫が座っている。背後の暗闇に、人の気配がしている。伊津姫は、何か薬を飲まされているのか、視点が定まらぬ様子で、カケルの顔を見ても、表情が変わらなかった。

サンウは、玉座の前に跪いた。後ろには、縄に縛られたカケルが座らされた。
「王様、無事、阿蘇を落とし手中にいたしました。これで、恐れるものはありません。」
サンウはゆっくりと言葉を確かめるように言った。
「ふむ、よくやった。お前にしては上出来だ。」
「それから・・こやつが、ヒムカの国の勇者、カケルです。・・阿蘇より連れて参りました。」
「ほう・・勇者と聞いたが、まだ若造ではないか。・・とても勇者とは言えぬようだが・・」
「しかし、阿蘇の主は、この者に従い、我らに戦いを挑んで参りました。・・阿蘇一族を動かすほどの力を持っております。」
「そうか・・だが、サンウよ。その強き国をどう攻めたのだ?」
サンウは、そこまでの答えを用意していなかった。苦し紛れに、
「火を用いました。家々に火を掛け、襲い、女子どもと言わず、殺しました。」
「そうか・・火を用いたか・・さぞかし、熱かったことだろうな・・。」
王の言葉は少し意味深だった。そして、玉座から立ち上がり、脇に置いてあった剣に手を掛けた。そして、
「サンウよ、このたびの手柄には、褒美をやらねばならぬな。」
「いえ。私は、王様のために、王様の命令に従い、攻めたまでの事。褒美など要りません。」「まあ、そんなに遠慮することも無い。・・此度の働きは、我が王家の復活に大きな一歩をなったのだ。・・そうだ、この剣をやろう。我が王家の宝として伝わるものだ。さあ、前へ。」
ラシャ王はそう言って、剣を手にした。右手を柄に掛け、左手で鞘を握った。
一部始終を見ていたカケルは、ラシャ王が何をするのか直観した。
「サンウ様!いけない!」
その声が届くと同時に、ラシャ王が剣を抜き、目の前に傅くサンウめがけ、剣を振り下ろした。
サンウは、カケルの声に反応するように体を引いた。
剣は、サンウの右肩をわずかに触れたように見えた。
その瞬間、サンウの肩から真っ赤な血が噴き出し、サンウは床に転がった。
「サンウよ、このラシャ王を裏切るとはな。」
ラシャ王は、そう言って再び剣を振りかぶり、床に転がるサンウをめがけて振り下ろされる。
カケルは、立ち上がり、王に体当たりをした。剣を握ったまま、王が床に転がる。
「サンウ様、さあ、今のうちに、外へ!」
サンウは、肩から血を滴らせたまま、這うようにして、館から逃げた。
起き上がったラシャ王は、剣を握ったまま、じっとカケルを見た。
「・・やはり、お前は只者ではないようだな。・・だが、縛られたままでわしと戦えると思っているのか?」
ラシャ王をそういうとカケルににじり寄ってきて、カケルの顔に剣を当てた。
「・・サンウの始末は、あとでじっくりとな。その前に、お前はここで死ぬのだ。」
ラシャ王はそう言ってほくそ笑むと、剣を振りかぶった。カケルは、するすると縄を外し、後ろへ飛び跳ねた。
「何?縄を解くとは・・。まあ良い、素手でどこまで戦えるかな。おい、出て来い。」
その言葉に、玉座の背後に隠れていた人陰が、出て来た。紺服を身に纏った男たちが、剣を構えた。そして、じりじりとカケルを取り囲み始めた。
サンウが血を流し、館の中から出てきたのと同時に、外でも騒ぎが始まった。
広場に控えていた者たちは、篝火を塀の外に蹴り出した。外では火が広がり、隠れていた兵たちが騒ぎ始めたのだ。
カケルは、紺服の男たちを睨みつけたまま、ゆっくりと後ずさりし、館の外へ出ようとした。
「逃がさぬぞ!」
紺服の男ひとりが、背後に回ろうと前に出た。そこへ矢が飛んできた。矢は、男の体をつらぬき、男は倒れた。
「カケル!今だ!」
その声は、エンだった。エンが、塀の上に登り、弓を構えていた。
カケルはその声に反応して、館の前の広場に転がり出た。広場は、カケルとともにやって来た男たちが何人か残っていた。館に入る前に、シオンに告げたように、静かに大方の男たちは兵の外へ抜け出していた。残っているのは、紺服の男とアスカだった。
アスカは、カケルの姿を見つけ、叫んだ。
「カケル様、剣です。」
竹籠の中に隠していた、カケルの剣を掲げた。
カケルはアスカの傍へ駆けた。
「アスカ、何故、外へ出なかった。」
「私は、カケル様とともに居ります。」
塀の外では、ラシャ王の兵と男たちとの間で、戦いが始まっていた。
「サンウ様は?」
「はい、外に出られました。・・外には、タツル様たちも居られます。」
「アスカ、私から離れるなよ。良いな。」
館の中から、先ほどの紺服の男たちが飛び出してきた。エンは、男たちを狙って、次々に矢を放った。二人ほどが矢に倒れた。しかし、外からも兵がなだれ込んできた。館の前の広場も、剣のぶつかり合う音や、呻き声が響き、騒然となってしまった。

玉座.jpg
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