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3-3-5 謀略 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

5. ラシャ王の謀略
「ラシャ王はきっとタクマまで戻ったに違いありません。」
翌朝、出発を前に、タンがカケルに言った。
「ここへは、サンウ様が兵を率いてやってきましたが、ラシャ王の本隊はタクマの地に残っています。おそらく、そこで勢力を立て直すつもりです。」
瀬田の地には、サンウをはじめ半数ほどの男たちは留まることになった。もともと、瀬田の周辺から集められた者はそれぞれの里に戻った。そして、ラシャ王の僕として働いてきた紺服の男たちもサンウに誓いを立て、この地に留まり、里の守りを強くする役を担うことになった。カケルたちに従ったのは、宇土や不知火から囚われてここへ連れてこられた者たちだった。
タンは、残されていた小舟を使い、一足先にタクマの様子を探るために出発した。
そして、カケル、エン、アスカ、タツルたちは、陸路でタクマを目指すことになった。

夜の闇を白川を下り、タクマを目指したラシャ王には、三十人ほどの紺服と黒服の男が従った。小舟は、翌日の昼ごろには、タクマへ入った。タクマには、ラシャ王の兵たちが新たな里を開いていた。有明海へ流れ込む緑川がタクマまで水路となり、大船が入れるようになっていた。湿地を掘り越し、大きな湖と呼べるほどの船着場も整備した。このあたりの村人は、すべて奴隷として使われていた。

ラシャ王は、大船に乗り込み、伊津姫は大船の船底近くにある牢へ閉じ込められてしまった。
「サンウの裏切りは予想外ではあったが、やはり、カケルという者、侮れぬな。」
ラシャ王は、船室の椅子に深々と腰掛けてため息をつくように言った。
「さあて、どうしてくれよう。わが手中に姫が居る限り、あ奴らも一気に攻めては来れぬだろうが・・・。何か策を打たねばならぬな。」
独り言のように呟く話を、壁際の暗闇で聞いていた者が居た。黒服に身を包み影の中に紛れていた。
「私に策がございます。」
「聞かせよ。」
「これより北に、筑紫野の国がございます。この国の力を拝借するのです。」
「援軍にするか?」
「いえ、我らは傍観者。筑紫野の国と火の国との戦を起こすのです。筑紫野が阿蘇一族やカケルを一掃すれば、火の国はラシャ王様のものとなりましょう。」
「そう容易くいくかな?」
「本来、阿蘇一族は彼の地より出ぬもの。それが出てきたということは、他国を侵すのだと考えても不思議はありません。」
「なるほど・・・阿蘇一族が火の国だけでなく、九重を我が物にしようとしていると・・噂を広げると言う事か。」
「ええ、さすれば、筑紫野の一族とて黙っておらぬはず。我らが誘導すればよいだけです。」
「筑紫野一族が負ければどうなる?」
「負けぬよう、力添えするのです。万一の場合は、海の向こう、アナトの国もあります。」
「よし・・さっそく取り掛かるのだ。・・何にしても、あのカケルと言う者は目障りだ。」

カケルたちは、タクマの手前まで到達した。供をして居る者たちの里もあちこちにあり、ラシャ王の残党を退治し、里を解放しながらの進軍となった。期せずして、カケルたちの率いる軍は、見たことも無いほど大きくなっていた。
「ラシャ王様・・カケルたちの軍が参りました。予想以上に大きくなっております。」
「烏合の衆であろう。・・兵を集め、支度をせよ。蹴散らすのだ!」
王の命令は、里にいた兵達にすぐに伝えられた。
紺服の男たちが、黄服や緑服の男たちに、戦支度をするように命令した。
ほとんどの者たちは、この周辺から囚われて来た者だばかりだった。戦支度といっても、弓や剣を持たされるわけではない。畑仕事に使う鋤や鍬、棍棒等を持つ程度で、それぞれに隊列を組まされるだけだった。
先行して、里に忍び込んでいたタンが、カケルたちが来る事を予め話しておいた為、みな、戦支度をする素振りだけで、のろのろと動いた。紺服の男が、いくら声を荒げても、のんびりと里の中を動き、集まる気配もなかった。

カケルたちは、徐々にタクマの里を包囲し始めた。
「皆さん、中に居る兵たちも、あなた達と同様、囚われてきた者ばかりです。決して、殺めてはなりません。・・殺しあうなど無駄な事です。」
カケルの言葉は、次々に、大勢の男たちに伝えられた。皆、頷き、手にした剣や弓を納め、中の様子を伺った。

里の中では、依然として、ゆっくり支度をしている黄服の者たちに業を煮やした紺服の男が罵声を浴びせる。
「死にたくなかったら、早くするのだ!この鈍間な野郎ども!」
一人の紺服の男が、剣の鞘で黄服の男を小突いた。その拍子に、集まっていた数人の男がぶつかりあい、「わあ」と声を上げた。
「何すんだよ!この野郎!」
その声と同時に、黄服の男が、紺服の男に食って掛かった。それをきっかけに、黄服の男たちは、鋤や鍬、棍棒を構えて、紺服や緑服の男たちを取り囲みはじめた。
「逆らおうってのか!こいつ!こうしてやる!」
紺服の男が、黄服の男に剣で切りつける。一気に、騒ぎが起きた。騒ぎの音は堀の外にも聞こえてきた。騒ぎに乗じて、閉ざされていた大門を、タンが開き、外に居た者も一気に里の中へ雪崩れ込んでいった。
「タツル様、皆を頼みます。」
「判った!」
カケルは、そう言うと、エンとともに里の奥深くに入り、ラシャ王の居場所を探した。
騒ぎは、すぐに収まった。タツルが号令し、抗う紺服や緑服の男たちは、ほどなく皆捕らえられ、縄を掛けられた。

ラシャ王は、甲板に出て、里の様子を見ていた。
「やはり、寄せ集めの兵は、脆いな。まあ良い。こちらには姫が居るのだからな。」
そう言うと、舟の奥に姿を消した。すぐに、数隻いた大船がゆっくりと水路から海へ向けて出て行った。

逃げるラシャ王.jpg
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