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3-3-9 島原 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

9.島原
「カケル様、沖に大船が現れました。」
荒尾の漁師が、急いで知らせに来た。カケルとアスカ、アマリはエンが舟で出てから、どうすべきか考えて数日を荒尾の浜で過ごしていたのだった。
三人が急いで浜へ出てみると。沖に確かに大船の姿が見えた。そして、徐々に荒尾の浜へ近づいている。
「ラシャ王の舟でしょうか?」
アマリが訊く。
「いや、一隻だけというのは変だ。」
「どうします?」
アスカが訊いた。
「アスカとアマリは、浜の皆に隠れるように伝えてくれ。私は小舟で近くまで行ってみる。」
浜の漁師が船を出してくれ、近くまで行く事にした。
船縁に人影が見えるところまで近づくと、大船から声がした。
「カケル!俺だ、エンだ!無事だ!」
エンは、バンに支えられて船縁に立ち、手を振っている。

ほどなくして、大船は荒尾の浜近くに停泊した。大船から、エンとバンが小舟に乗り換え浜に上がった。
「エン、無事だったか。」
「ああ、漂流していたところを、あの船に助けられた。・・こちらが、バン様です。」
「バン様、よくエンをお救い下さった。ありがとうございました。」
カケルが深々と礼をしようとした時、バンは、砂浜に這いつくばった。
「止めてください。私は、カケル様に、頭を下げていただくような男ではありません。貴方様に殺されても文句の言えない身なのです。」
カケルは、バンの態度に驚いて、エンを見た。エンは、バンの事情を一通り説明し、「今は悔い改め、姫を救うためにともに戦う仲間である」と言った。
カケルは、じっと天を仰いだ。カケルの右手は強く握られ、少し震えている。何かをじっと耐えているように見えた。アスカがそっと傍に立ち、カケルの背を撫でた。カケルは大きく深呼吸をして、じっとバンを見つめて言った。
「貴方が、過去に犯した罪は容易く消える事はないでしょう。しかし、こうして生き長らえたのは、きっと、まだ貴方には為すべき事があるということでしょう。それを全うする事が貴方の償いになるはずです。その事を肝に銘じて、我らとともに生きましょう。伊津姫様も、きっとそう願っているはずです。」
カケルとアスカ、アマリも、バンの大船に乗り込み、ラシャ王を探す事にした。

「カケル様、この広い海で、ラシャ王の行方の追うのはかなり難儀な事です。」
大船の甲板で、バンは海原を眺めながら言った。
「しかし、ラシャ王は必ずこの海のどこかに居るのです。あの島原の地はどんなところなのでしょう。」
「ここから見える島原の地は、煙を吹く山が全てです。時折、恐ろしく火を噴き出し、熱い砂が降り注ぎ、水も乏しく、荒地ばかり。住む人もわずかと聞いています。海沿いに小さな漁村がところどころにありますが・・・。」
「あの山の向こう側は?」
「いえ、私もあの向こうには行った事もありません。ですが・・。」
「行ってみましょう。・・島原の沖に大船が居たのは間違いありません。ここより南は、バン様やムサシ様がラシャ王の手から奪い返したのであれば、ラシャ王はここより北に潜んでいるはずです。勢力を盛り返す前に、何とか手を打たないと・・。」
「判りました。」

バンの船は、島原半島の東岸沿いに、海岸線を見張りながら北上して行った。
バンの言うとおり、島原半島の海岸沿いには、小さな漁村が点在する程度で、入り江も小さく、大船が隠れるような場所はなさそうだった。
「おかしい・・何か変だ。」
海岸線をじっと見つめていたカケルが呟いた。カケルと同じように、海岸線を見つめていたエンがカケルのほうを振り返ってから、
「ああ、おかしい。静か過ぎる。」
アスカも言う。
「ええ・・いくら小さな村ばかりといっても、人影がまったくないなんて・・」
「煙ひとつ上がっていない。何かある。・・バン様、陸へ上がりましょう。どこか舟をつけられる場所を!」
カケルにそう言われ、バンは小さな入り江に船を向けた。砂が船底に触るほど近くまで船を寄せると、カケルとエンは海に飛び込んで陸へ向かった。入り江の上には、数軒の家も見えていた。砂浜を一目散に駆け上がり、松原の中を通り過ぎようとしたときだった。
「カケル!これは・・」
エンが急に立ち止まって、松の根元を指差した。そこには、黒く変色していたが、明らかに地溜りだとわかった。そして、草の影に、無残に切り捨てられた亡骸が横たわっていた。
「村へ行ってみよう。」
エンとカケルは、家のある辺りまで走った。茅葺の家が数軒あった。
「誰か!誰か居ないか!」
声を張り上げて呼んでみたが返答は無い。家を覗くと、中には、やはり先ほどと同じように切り捨てられた亡骸が横たわっていた。
「惨いことを・・」
カケルはそう呟くと、エンとともに、砂を掘り、亡骸を全て運んで、丁重に葬った。
「抵抗したために殺されたのだろう。それにしても数が少ないようだが・・」
掘った穴に砂を戻しながらエンが言う。
「奴隷にするために、ラシャ王に連れ去られたのだろう。」
カケルが答えた。エンは、砂を叩き、吐き出すように言った。
「くそ!なんて奴だ。どこまで非道なんだ!」
二人は、船に戻り村の様子を離した。アスカとアマリは、惨い様子を想像し泣いた。
バンが話を聞いて言う。
「おそらくここらは皆同じような仕打ちをされているのでしょう。・・村人をたくさん集めているのだとすれば、きっとこの近くのどこかで、砦を作ろうとしているにちがいありません。もう少し北へ向かってみましょう。」
バンの大船は、島原半島の海岸沿いを、さらに北へと向かって行った。

島原半島.jpg
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ひときわ

小説がお好きなようですね。
なかなか良い文章だと思います。
ブログだとどうしても一部しか読めません(戻って読むのって難しいでしょう)
こんなサイトがありますよ。
完結した作品をお持ちならば投稿してみるのも良いかも。
感想もいただけるし。
<TC>
http://www.totalcreators.jp/
<作家でごはん>
http://sakka.org/training/
by ひときわ (2011-10-03 14:51) 

苦楽賢人

ひときわ様、アドバイスありがとうございました。
考えてみます。
ただ、稚拙すぎて相手にもされないのもどうかと・・

よろしければ、引き続きお楽しみ下さい。
by 苦楽賢人 (2011-10-04 08:46) 

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