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3-3-10 ラシャ王の画策 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

10. ラシャ王の画策
ラシャ王は、タクマの地を船で逃れた後、島原へ渡っていた。
カケルたちが想像したとおり、手下を使って、小さな村を襲い、抵抗する者を見せしめに切り殺し、村人を黙らせ、島原の北、イサの地に、新たな砦を築き始めたのだった。
まじめに働かぬ者は、手足を切られ、海へ投げ入れたり、火焙りにしたり、穴を掘って生き埋めにする等、正気の沙汰とは思えなかった。
集められた者たちは、余りの恐ろしさに、抵抗する気力を奪われ、黙々と働いた。

イサの地は、雲仙の北、泉水と呼ばれる海の奥の平地だった。泉水は、名のごとく、山からの豊かな水が海に注ぎ、浅瀬が広がっていて、魚や貝が豊富に獲れた。太古の昔から、多くの人が暮らしていたが、山に囲まれていたために、隣の筑紫野の国や火の国には属さず、小さな村の集まりの、古代の国のままであった。戦も知らず、武器も持たない、おとなしい人々は、ラシャ王に抵抗する力などもっていなかった。

「王様!」
船着場においた大船の船べりに立ち、陸を見ながら満足気なラシャ王に、跪く黒服の男がいた。
「おお、影か。見よ、この眺めを。わしはここを都にするぞ。九重を従わせる強き都をここに築くのだ。・・それより、何だ?良い知らせか?」
「はい、筑紫野では、村々で戦の支度が始まりました。」
「ほう、噂が広がり、動き始めたか。それで、戦はいつ起きる?」
「それが・・筑紫野の長は、なかなか腰が重いようで・・未だ動こうとはしません。噂だけでは動かないようです。」
「・・待つしかないということか?・・あ奴らのほうはどうだ?」
「それが・・タクマの地に残る者と、八代へ向かう者とに別れたようです。このままでは、筑紫野へは動かないと・・・。」
「では、戦にならぬでは無いか!何とかせよ!」
「はい・・それと・・不知火辺りでは、隼人一族が我らの落とした村を取り返し始めております。天草辺りも、すでに奴らの手に・・。」
ラシャ王は、持っていた杯を影に向けて投げつけた。
「何をしておるのだ!たかが、漁師の集まりではないか!大船を使い、一ひねりにしてしまえばよいではないか!」
「それが・・隼人とは別に、大船を操る者がいるようです。天草や島原辺りにも現れたと聞きました。」
「いったい、何者なのだ!」
「判りませぬ。ただ、タクマの地からカケルの姿が消え、その後の足取りがわかりませぬ。もしや、カケルと何か関係が在るやも知れません。」
ラシャ王は、影の報告を聞きながら、次第に苛立ちを募らせていた。船の中をせかせかと右左と歩き回ったかと思うと、急に折立ち止まり、何かを考えているようだった。
「よし、わしが動くとしよう。」
ラシャ王は、そう言うと、影を足元に呼び、何か耳打ちした。影は、一瞬驚いた表情をしたが、こくりと頷き、船を降りて行った。

ラシャ王は、にやりとした表情のまま、船室へ入った。居室にしている部屋で、酒を杯に注ぎ、数杯あおってから、また、部屋を出て行った。そして、船底にある牢へと足を運んだ。
「伊津姫様、ご機嫌はいかがかな?」
蝋燭のわずかな明かりがあるだけの、薄暗い牢の中で、伊津姫は横たわっていた。ラシャ王の声は届いているはずだが、何の反応も示さなかった。ラシャ王は、見張りの男を下がらせて、燭台を手にして、牢の中に入った。
「眠っているのか?」
ラシャ王は燭台の明かりを、そっと伊津姫の顔辺りに近づけてみた。
「何だ、目覚めているようだな。」
ラシャ王はそう言うと、伊津姫の横に座った。
「ようやく、お前の使い道が見つかったぞ。」
ラシャ王はそう言うと、横たわる伊津姫の髪を撫で、頬をさすった。伊津姫は一瞬ビクッと動いたようだったが、抵抗する気配は無かった。
「ここの暮らしも辛かろう。もうすぐ、陽のあたる場所に出してやることにした。今まで、生かしておいた礼を言ってもらおうか。」
伊津姫は、長く牢に閉じ込められ、食べ物も充分に与えられず、体力を無くしていた。さらに、時折、ラシャ王が持ち込む怪しげな薬を飲まされていたのだった。
頬はこけ、体も痩せ細っていた。見開いた瞳が一層大きく浮きあがり、かろうじて生きている状態にあった。意識は朦朧としていて、視点は定まっていなかった。
「おお、そうだ。・・カケルとやらが、ワシらを追っているようだ。・・今のお前の姿を見たら、あいつ、どんな顔をするだろうな。まあ、生きて遭えるとは限らぬがな・・」
ラシャ王はそう言って立ち上がり、牢を出た。
「おい、姫様に食べ物を持って来い。少し、元気になってもらわねばならぬからな。それから、着替えだ。綺麗にしてやるのだ。・・だが、例の薬は飲ませるのだ。良いな!」
見張りの男を呼びつけると、そう言い残して、階段を上がって行った。
見張りの男は、「へい」と頭を下げ、王の命令どおり、食事を取りに行った。
混濁した意識の中にあった伊津姫だが、ラシャ王の口から「カケル」の名を聞いて、一瞬、意識が戻った。そして、見開いた瞳から、一筋の涙を流し、「ううっ」と嗚咽を漏らしたのだった。

甲板に出たラシャ王は、里作りに励む手下を船着場に呼び集めた。
「よいか、皆の者。わしはしばらくここを離れることにした。だが、都作りは続けるのだ。九重一の大きな都をここに作り上げるのだ。良いな。もうじき、春を迎える。春には、田畑を広げよ!大きな都には、多くの米、食い物が必要だ。都作りとともに進めよ。・・奴隷が足りなければ、山向こうからでも人を集めて来い!ここらの奴らは、戦う事などせぬ。逆らえば、切り捨てればよい。良いな、大きく強き都をここに作るのだ!」

翌朝には、ラシャ王の大船は船着場を離れ、有明の海へ出航して行った。

普賢岳4.jpg
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ひときわ

セリフで物語が動いていますね。
これは当たり前そうに思えることですが、素人には難しいことです。
短編をお持ちならば、読ませていただきたいところです。
by ひときわ (2011-10-04 12:44) 

苦楽賢人

お褒め戴いたようで、嬉しい限りです。
台詞ばかりで進む話が多くて、これではいけないと少しト書きのような話作りに苦労しているところです。

私自身、「峠ー第2部」が今のところ気に入っているお話です。自分でも読み返して、涙ぐむほどです(言いすぎかもしれませんが)

ひときわさんのアドバイスどおり、私小説のサイトも検討中です。少し自信が無くて・・・(妻に馬鹿にされているのです)

読みづらいでしょうが、宜しければ、カテゴリー整理していますので、そちらもお読みくださると嬉しいです。

今後とも、叱咤激励いただけると嬉しいです。
by 苦楽賢人 (2011-10-05 19:30) 

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