SSブログ

3-3-11 シマノヒコ [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

11. シマノヒコ
ラシャ王の大船は、有明の海を北上して行った。そして、筑後川を上り、筑紫野に入り込んだのだった。
筑後川の畔には、筑紫野の国の都、葦野(よしの)があった。
ラシャ王は、葦野の手前で船を停め、一旦、陸へ上がった。すでに影が待機していた。
「王様、手はず通り、供になるものを集めておきました。それから、衣服もこれにお着替え下さい。」
ラシャ王は、王衣を脱ぎ、影の誂えた布服に着替えた。
「おい、姫を連れてまいれ。」
船底の牢から、伊津姫は抱え出された。そして、影の用意した輿に乗せられた。
「よし、では出発しよう。」
「私が先導いたします。葦野は、すぐそこです。」
総勢20人ほどのラシャ王の一行は、川沿いの道から、葦野の都を目指した。

筑紫野の国の都 葦野は、かつて、邪馬台国の王が九重を治める拠点となる場所であった。卑弥呼が亡くなった後、戦乱が起きた際も、王の最後の砦として使われた場所だった。王の一族は、長く続く戦乱の中、隣国アナトの兵が攻め込み、やむなく、この地を去ったのだった。
今、筑紫野を治める王は、カブラヒコと言い、アナトから来た将の子孫であり、筑紫野を纏めた一族として、王族を名乗っていた。

ラシャ王の一行は、葦野の都の大門に着いた。
「待て!何者だ!」
大門の守りをしていた男たちが、一行を止めた。
「私は、タクマの長シマノヒコと申します。・・筑紫野の王とお会いしたくて参上しました。」
「何用だ!」
阿蘇一族が責めてくるという噂が広がっているからだろう、門番の男たちは警戒していた。
「・・里を・・阿蘇一族に奪われ、筑紫野の王を頼って参ったのです。」
「何?・そうか・・・判った、ここで待っておれ!」
門番の一人が、慌てて、都の中へ入って行った。
しばらくして、先の男が戻ってくると、
「判った。王もお会いくださるようだ。中に入れ!」
こうして、ラシャ王一行は、葦野の都に入り、王のいる館に案内された。

しばらく、大広間で待たされた後、太鼓と笛の音とともに、筑紫野の王カブラヒコが現れた。
ラシャ王に負けぬ、狡猾な面構えであった。
「タクマの長、シマノヒコと申すか?」
ラシャ王は深々と頭を下げて、力強く「はい」と返事をした。
「タクマとは初耳だ。火の国の里なのか?」
「はい、白川沿いの丘に、開いた里にございます。里ができた矢先、阿蘇一族が大挙して攻めてまいり、あっという間に奪われてしまいました。」
「ほう・・。それで、どうしたいのだ?」
ラシャ王、いやシマノヒコは、わざとおずおずとした態度で、言った。
「わが里を阿蘇の手から奪い返したいのです。・・そのために、お力をお貸し下さるようお願いに参ったのです。」
「なぜ、わしが手を貸さねばならぬ。」
「九重の中でも、筑紫野の王は、秀でて立派なお方と聞き及んでおります。きっとお助けくださるはずと信じてまいりました。」
そう言われ、カブラヒコはほくそ笑んだ。
「だが、手を貸したとしても我らには何の利もないではないか!」
カブラヒコは、わざと撥ね付けるような言い方をした。
「いえ・・わが里が戻れば、私は、貴方様の臣下になりましょう。タクマの地も、カブラヒコ様に治めていただければ安泰です。」
「ほう、吾が臣下となるか。悪くないな。」
「はい・・そうなれば、阿蘇やヒムカ、サツマさえも、靡くでしょう。」
「いずれ、九重の王となるか。・・うむ、悪くない。だが、その話、どこまで信じられる。」
カブラヒコは挑戦的な目で、シマノヒコ(ラシャ王)を睨んだ。
「その証は、この姫でございます。」
「ほう、その弱弱しい娘が証か。人質というなら要らぬぞ。」
「いえ、そうではありません。この娘は、邪馬台国の王の血を継ぐ、伊津姫にございます。」
カブラヒコの表情が強張った。邪馬台国の王は、自らの先祖がこの地から追い出したことを語り継がれ、その為に、筑紫野の民の中には、カブラヒコの一族を王とは認めず、あちこちで反乱を起こしているからだった。
「邪馬台国の姫?・・まさか、・・王の一族は、阿蘇の地を越え、死に絶えたはずだ。」
「いえ、確かです。阿蘇一族が、この姫を奉じて攻めてきたのですから・・」
シマノヒコ(ラシャ王)は、平然と偽りを語った。
「随分と、弱っておるようだが・・・。」
「はい、阿蘇一族から奪い、一度は命を奪ってしまおうと思いましたが、何か役に立つのではと生かしておきました。・・姫をお渡しいたします。吾が手にあるより、カブラヒコ様なら、九重を治めるためにも、伊津姫をお使いいただくのが良いかと・・。」
「面白い。わかった。姫はいただこう。」
そう言ってカブラヒコは玉座から立ち上がり、伊津姫の近くに寄った。
長い黒髪、透き通るほどの白い肌、痩せ細った手足をじっと見つめた。薬で、正気を失っている伊津姫は、ぼんやりとした目つきで、カブラヒコを見て、そっと微笑んだように見えた。
伊津姫は、薬で幻影を見ていた。近づく人影を、カケルだと思ったのだった。
その笑顔に、カブラヒコは、一瞬ときめいた。
「・・邪馬台国の姫か・・さすがに美しい、神々しさを持っているようだ。」
そう呟いた。そして、玉座に座りなおすと、
「・・まあ、今日は疲れておるだろう。これからのことは、明日また話すとしよう。・・さあ、姫は、こちらへ。・・おい、誰か、姫を奥の部屋へお連れせよ。お疲れのようだから、お休みいただくのだ。・・ほら、丁重にご案内せよ。」
カブラヒコはそう言うと、歩くのもままならぬ姫を従者に案内させて、館の奥の部屋へ連れて行った。シマノヒコ(ラシャ王)達にも、部屋は用意され、従者が案内した。

吉野ヶ里5.jpg
nice!(9)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 9

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0