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3-3-12 二代の王 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

12.二代の王
広間にひとり残ったカブラヒコは、目を閉じ考えていた。
「信用できるでしょうか?」
独り言のように呟くと、玉座の後ろから、白衣に身を包んだ老人が、杖を突いて現れた。
「ただ者ではなさそうだな。素性を調べさせよ。・・後ろ盾になるかどうか、少し返答を延ばし、様子を見たほうが良い。」
「はい。」
この老人は、先の王イツナヒコであった。
一時、目を患い、満足に動けなくなったのを機に、息子に王の座を渡した。だが、病が治ると、再び、大王として君臨し、カブラヒコを操っているのだった。
「きっとあやつは、九重の者ではない。」
「九重のものではないとは?」
「九重の者ならば、邪馬台国の名を軽々しく口にはしない。ましてや、その姫を殺そうなどとは決して口にはせぬ。いや、これほどの扱いはできぬはずだ。」
「姫は偽者ということは?」
「いや・・邪馬台国の姫かどうかは定かではないが、大事な者には間違いあるまい。何か、裏があるはずだ。・・阿蘇一族は決して彼の地より出ぬ掟、他国に戦を仕掛けることなどない。ましてや、姫を奉じて戦などありえぬ。」
「では、あいつらは何者でしょう。」
「調べればすぐに判るだろう。はっきりするまで、館に留めておけば良い。」
そう言うと、イツナヒコは奥へ入って行った。

カブラヒコは、伊津姫が居る奥の部屋に足を運んだ。部屋の中では、数人の女性が伊津姫の看護をしていた。王が部屋に入ってきたのを見て、女性達は部屋の外へ出ようとした。
「いや、そのままで良い。姫の具合はどうだ?」
一人の年配の女性が口を開いた。
「お体が随分衰弱しておられるようです。あまり満足に食事をされていなかったのでしょう。」
「そうか・・」
カブラヒコはそう言うと、横たわる伊津姫の傍に行き、顔を見つめた。
「それと・・意識がはっきりされていないようです。」
「何かの病か?」
「よく判りませぬが・・病ではなく、毒のようなものを口にされたのかも・・」
それを聞いて、カブラヒコは、そっと姫の手を取った。か細い手首、白い肌、カブラヒコは、姫に一目ぼれをしたのだった。
「そうか・・そなた達、何としても姫をお救いするのだ。死なせてはならぬ。お元気にするのだ。良いな。」
女性達は、王の言葉に深く頭を下げた。

館の外れに部屋を用意された、シマノヒコ(ラシャ王)達は、食事も済ませていた。
「あの、カブラヒコは我らの策に乗るかな?」
供に化けていた影が、ラシャ王の問いに答えた。
「・・先ごろ、王座に着いたばかりのものです。先の王は目を患い、息子に王を引き継いだところです。それほど利口とは聞いておりません。おそらく、すぐに我らの策に乗ってくるでしょう。」
「そうか・・。」
「ですが・・姫を渡したのは・・そこまでしなくても良かったのではないでしょうか。」
「良いのだ。邪馬台国の威光を借り、九重を手に入れようと考えたが、阿蘇や隼人はそれには乗らなかった。もはや、邪馬台国の威光など使えぬ。それより、この筑紫野を動かしさえすれば、形勢は変わる。それで良いのだ。」
「はあ・・。」
「どうした?何か気になることでもあるのか?」
「いえ・・この先、筑紫野がどう動くか。王の言われるとおり、阿蘇と戦を構え、お互い弱りきるところまで行けば良いのですが・・仮に、手を結べば、我らの立場はなくなります。・・それと、カケルの存在が・・。」
「カケル一人で何が出来る。・・いざとなれば、カブラヒコを殺して、この筑紫野を我が物にすれば良い。どうだ、この館は、随分と立派な作りで居心地も良いではないか。」
ラシャ王は、そう言って、寝床に入った。

翌朝、広間で、ラシャ王はカブラヒコと再び対面した。
「タクマの様子をもう少し聞かせてもらいたい。阿蘇一族はどれほどの兵力を持っている?」
「はい、近隣の里の者を捕え、兵にしており、かなりの数でした。。」
「どうやって攻めてくるのだ?」
「火矢を放ってきます。家々は焼かれ、村人は逃げ惑い、兵とて火の勢いに飲まれてしまい、満足に戦えません。」
「ふーむ、そうか。ならば、我らも同様に攻めねばならぬな。」
「では・・我らに合力いただけるのですか?」
「ああ・・奪われた地を取り戻すのは、理がある。不届きな阿蘇一族は、山の中へ推し戻さねばならぬ。」
「ありがとうございます。・・いつ、出発いただけますか。」
ラシャ王は内心ほくそ笑んでいた。我が策にまんまと乗ってきた、カブラヒコは間抜けな王だと侮った。
「いや、すぐには無理だ。春を迎え、田畑の仕事を終える頃だ。そなた達も、しばらくは我が臣下として、阿蘇との戦に具えて、働いてもらいたい。」
カブラヒコの意外な答えにラシャ王は驚いた。このままでは、無駄に時間を費やす事になる。ラシャ王は答えに困った。
「姫が元気になられれば、邪馬台国の威光を示せる。邪馬台国復興を唱えれば、阿蘇一族とて引き下がる。まあ、それまで時を待つ方が良いであろう。」
カブラヒコは、何食わぬ顔でそう付け加え、すぐに戦をするつもりの無いことを告げた。
「それでは・・我が地はいつになったら取り戻せるかわからぬではないか。筑紫野の王は、戦が出来ぬお人か!」
シマノヒコ(ラシャ王)は、険しい表情になり、つい、声を荒げて言った。
カブラヒコは、何かシマノヒコの奥底の闇を感じた。
「・・ならば、勝手にされるが良かろう。・・もともと我らに何の利もない話だ。」
カブラヒコは、そう言い残すと、玉座をたち、奥の部屋に入って行った。

吉野ヶ里7.jpg
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