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3-3-13 探りあい [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

13.探り合い
館の奥の王の部屋に戻ったカブラヒコのところへ、先の王イツナヒコが現れた。
「・・ふん・・やはり、あの男、何かを企んで居るようだな。」
イツナヒコは、いつものように玉座の後ろで、二人のやり取りを聞いていたのだった。そこへ、王の密使が戻ってきた。
「あの男、どうやらタクマの長ではないようです。葦野の浜に、大船がおりました。あの者達が乗ってきたようです。船を見たところ、異国のもの。おそらくペクチュ辺りのものかと。船には、兵士も乗っておりました。」
「よく調べた。それで、あの者達の企みは何だ?」
先の王イツナヒコが訊いた。
「定かではありませんが、異国の武将が、不知火や八代、島原辺りの村を襲っているという噂は耳にしております。おそらく、その者達の仕業でしょう。今度は、この筑紫野を攻めようと考えているのかもしれません。」
「そのためにやってきたのか?いや、もっと他の理由があるだろう。もう少し、探って来い。」
イツナヒコはそう言って、密使を再度、走らせた。

イツナヒコは、カブラヒコに遠慮する事も無く、玉座に座り、考えながら呟いた。
「正体を偽り、貢物の姫まで差し出し、兵を送りたい理由が何かあるはずだ。・・阿蘇の反撃にでもあったか。・・いや、王に近づいたという事は、直接、王を襲い、この国をのっとるつもりかも知れぬな。・・・・」
それを聞いたカブラヒコが言った。
「兵を出さないと言った時の慌てようは尋常ではありませんでした。やはり、兵を送りたい理由があるのでしょうか?」
「ふむ、それもあるな・・。よし、良い方法がある。兵を出すのだ。・・少数でよい。そうだな、百人ほどの農夫を集め、兵に仕立てて、向かわせよう。できるだけゆっくり進軍させるのだ。・・あの者達に先導させればよい。」
カブラヒコは、イツナヒコの意図する事が今一つわからなかった。
「兵を出してどうするのです?」
イツナヒコは、カブラヒコの思慮の無さに落胆した表情をして言った。
「・・陸路なら、浜に居る大船を使うわけには行かぬだろう。船の兵とあの者達を切り離すのだ。さすれば、わずか二十人ほどの供しか居らぬ。裸同然だ。筑紫野を出た辺りで、あの者達を始末してしまえば良い。同時に、大船も我らが戴けば良い。浜には阿蘇のと戦に具えた兵がたくさん居るだろう。一気に襲ってしまうのだ。」
「それでは・・約束が・・」
「何が約束だ。名を偽り近づいた者との約束など・・何になる。あの者達は、我が筑紫野の国には害になるだけだ。良いな。明日にも、兵を仕立て、この地から追い出すのだ。おお、そうだ、ハツリヒコにやらせれば良い。」
「御意。」
ハツリヒコとは、カブラヒコの弟である。カブラヒコに比べ、体も大きく、武力に長けており、兵たちを纏める力があった。父イツナヒコとは反りが合わず、諍いが絶えなかった。先の王イツナヒコは、そんなハツリヒコを筑紫野のはずれ、火の国との境界にある、「女山(ぞやま)」へ行かせていた。古く、邪馬台国の城砦が築かれた地であった。

カブラヒコがすぐには兵を出さぬといって部屋に戻った後、シマノヒコ(ラシャ王)は苛立ちを隠せなかった。声を荒げた事でさらに心象を悪くした事をどう繕うか考えていた。
「影よ。この先、どうすべきか?」
「戦のきっかけを作りましょう。大船に居る将を動かし、東の村で騒ぎを起こしてはどうでしょう。」
「ふむ、その手があったな。すぐに動くよう命じるのだ。」
ラシャ王は、供の一人に命じて、大船に使いを出した。

「シマノヒコ様、カブラ王がお越しです。」
部屋に控えていたシマノヒコ(ラシャ王)のところへ、カブラ王がやってきた。
カブラヒコは部屋に入るとすぐに言った。
「そなたの希望、叶えよう。百人ほどと少ないが、強い兵を集めた。そなた達が先導し、火の国との境、女山(ぞやま)へ向かうと良い。」
カブラヒコの申し出に、シマノヒコ(ラシャ王)は戸惑ったが、当初の企みどおり、兵を出すと聞いて、シマノヒコ(ラシャ王)は答えた。
「判りました。カブラヒコ様の恩、忘れませぬ。」
「・・阿蘇の狼藉は赦せぬ。すぐに出立されるが良い。船は無いゆえ、陸路となるが、そう遠いところでもない。女山には、我が弟が砦を構えて居る。阿蘇との戦に備えて居る。合流し、タクマの地へ向かわれると良かろう。」
「カブラヒコ様は、如何されるのでしょう?」
「阿蘇との戦は、ハツリヒコのほうが良いのだ。元来、戦上手である。阿蘇がどれほどであろうと負けはせぬ。」
「判りました。すぐにも出発いたします。」

大門の外には、すでに百人ほどの兵が集まっていた。俄かに集められた者たちだが、将が数人ほど兵に紛れていた。三日の後、女山の地で、ラシャ王を亡き者とする命を受けていた。

ラシャ王を先頭に、兵は進軍した。葦野の里から丘陵地帯を進み、筑後川を越え、女山の地を目指した。

「大船は手筈どおり、動いているか?」
進軍の中、ラシャ王は影に訊いた。
「それが・・、使いは捕えられたようです。大船は、この先の荒尾へ向かっております。」
「我らの策が漏れているということか?」
「・・使いは直ぐに死にました。我らの策は漏れておりません。それより、女山の地に居られる、ハツリヒコですが・・」
「どうした?」
「どうやら、カブラヒコとは不仲のようです。先ほど、兵達が話しておりましたが・・兵達は、ハツリヒコを王としたかったようです。」
「そうか・・・ハツリヒコが合力すれば、阿蘇一族を蹴散らす事も容易ということか。」
「はい。ですが・・大人しく、カブラヒコの命令に従い、兵を動かすかどうか・・・。」
早春の筑後川は、水量が増えていた。予定よりもすいぶん遅れて、ラシャ王達は女山に到着した。

筑後川1.jpg
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ひときわ

とても読みやすい文章をお持ちで良いですね。
by ひときわ (2011-10-07 10:24) 

苦楽賢人

ひときわ様

お褒めの言葉ばかりいただいて、恐縮です。
ほんの少しでも、楽しんでいただければ嬉しい限りです。今後とも、お読みいただければ幸いです。
by 苦楽賢人 (2011-10-07 12:37) 

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