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3-3-14 女山 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

14.女山(ぞやま)
「ハツリヒコ様、王からの使者が参りました。」
城砦の中の小さな館にいたハツリヒコの元へ、筑紫野の王カブラヒコからの使者が来た。
ハツリヒコは、戸を開け、表に出ると、使者が跪いて構えていた。
「王からの命令をお伝えいたします。過日、兵百人ほどがここへ到着いたします。その中に、シマノヒコという男がおり、タクマの地を阿蘇に奪われたと申し、我らに援軍を求めてきたとの事です。」
「それで?」
「王は、シマノヒコの素性が怪しく、筑紫野の害となると考えられております。」
「ならば、なぜ、丁重に扱う?」
使者は、辺りを見回し、少し声を抑えてから言った。
「王は、シマノヒコをここで殺害せよとの事。阿蘇との戦に見せて、亡き者にせよとの事にございます。」
「判った。下がって休め。」
ふうとため息をつき、ハツリヒコは館の中へ戻った。
「やはり、貴方の言われるとおりでした。」
ハツリヒコは椅子に座り、そう言った。対面には、阿蘇一族の主、タツルが座っていた。
タツルは、タクマの地が落ち着くのを待って、レンに里を任せ、阿蘇からの伴を連れて、北へ進んだ。タクマの里から逃れたラシャ王の残党が、北の地で狼藉を働いているという噂を耳にしたからだった。そして、女山の城砦へ到達士、ハツリヒコとの面会も得ていた。
タツルは、これまでいきさつを丁寧にハツリヒコに話していた。ハツリヒコは、筑紫野の先代の王の息子ではあるが、カブラヒコとは腹違いの弟である。母は、この女山に昔から暮らす一族の娘であり、先代の王が力ずくで娶った。ハツリヒコは、物心ついた時、そのことを聞かされ、先代の王を父とは思えず、絶えず反発し、ついには、この地に篭ってしまったのだった。
この女山には、古の時代、邪馬台国の城砦が築かれ、卑弥呼もしばらく居たところであった。したがって、多くの民は、邪馬台国に対して畏敬の念を持ち、神のごとく奉っていた。ハツリヒコの母も、ハツリヒコが幼い頃から、邪馬台国の話を聞かせており、九重の国々の穏やかな暮らしを望んでいた。
「その・・シマノヒコという男、おそらくラシャ王でしょう。火の国と筑紫野の国に戦をさせることが狙いに違いありません。」
「おそらく・・・そして、どちらかが弱ったところで手中にしようと考えているのでしょう。先代の王も見抜いたに違いありません。」
「いかがしますか?」
ハツリヒコは、タツルの問いにしばし沈黙した。
「城砦には入れません。悪しき者をこの地には入れるわけにはいきません。ここは、邪馬台国の神聖なる砦でありました。穢すことは許しません。」
タツルも、ハツリヒコの言葉に頷いた。
長く阿蘇の地を守ってきたタツルには、ハツリヒコの強き態度が、若き頃の自分と重なるように感じ、九重の将来を托せる人物だと心強く感じていた。

二日後には、ラシャ王たちの一行が、女山の城砦の入口あたりに到着した。
すでに、ハツリヒコの指示で、多くの兵が入口辺りを守っていた。
「王の兵の到着である。案内を願いたい。」
兵の中に紛れていた将の一人が声を上げた。それに答えるように、
「女山に入ること、まかりならぬ!早々に引き上げよ!」
その声とともに、控えていた兵が一斉に立ち上がり、弓を構えた。
「王の兵だぞ!何をする!」
「我らとて、無用な殺生はしたくない。王の命といえ、悪しき者を清き里の中に入れるわけにはいかぬ。戻られよ!」
百人ほどの王の兵たちは、俄かに集められた者たちである。もともと戦など不馴れであり、剣や弓もお飾りに過ぎない。女山の兵に恐れをなし、皆、慌てて武器を放り出し、散り散りになって逃げた。ラシャ王や供の者、そして将たちだけが取り残された格好になった。
「どういうことだ?王の命令に逆らうとは。」
ラシャ王は、辺りの様子に驚き、傍にいた将に突っかかった。
「こうなれば、やむを得ぬ。」
将は、腰の剣を抜いた。そして、いきなり、ラシャ王に切りかかった。間一髪、ラシャ王は身をかわした。そして、傍にいた黒服の男が、将に切りかかり、あっという間に切り捨てた。
周りにいた将たちも、ラシャ王や供の者たちに切りかかる。しかし、供の者たちも腕が立つものばかりで、将たちはあっけなく切り殺されてしまった。
その様子を、女山の城砦から、ハツリヒコとタツルが見ていた。
「かなりの手だれの者の様だな。」
「捕らえますか?」
「いや、あれほどの者だ、そう簡単にはいかぬでしょう。」
そう言って、砦の下で起きている状況をじっと見つめた。
「どうやら、姫は一緒ではないようですね。」
ハツリヒコが言った。
「ええ・・どこかに囚われたままでしょう。あいつ等を捕まえ、居場所を吐かせれば・・。」
「では、捕まえますか?」
「いえ・・姫の身がどうなのかわかりません。ここは見逃し、後を追いましょう。」
「判りました。」
ハツリヒコは、城砦の見張り台から、手をかざして、引けの合図を送った。

ラシャ王たちは、予想もしなかった事態を何とか切り抜け、皆、王の周りに集まった。
「・・カブラヒコめ。最初から、我らを信用していなかったと言うことだな。」
「王様、ここは撤退すべきかと・・あの砦から攻め込まれれば、我らとて防げませぬ。」
「仕方ない・・・」
「大船が、この先の荒尾に着いている頃です。そこまで行けば、イサの里へ戻れます。」
「よし・・行くぞ。」
ラシャ王たちは、女山の砦の様子を見ながら、一目散に、海を目指して逃れた。

城砦の中では、タツルが出発の準備に入った。
「ありがとうございました。奴らはきっと海に向かい、大船に乗り込むつもりでしょう。後を追って、姫を探します。」
「邪馬台国の姫の行方、一刻も早くつかめますようお祈りいたします。我らも、王に背いた以上無事では済まぬかもしれませんが、九重の為、力を尽くします。」
「また、いつかお会いしましょう。」
タツルたちは、ラシャ王を追って行った。

原野3.jpg
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