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3-3-15 イサの里 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

15.イサの里
カケルの乗った船は、島原の海岸沿いを進んでいた。
「タヒラ」の岬を回って、「泉水海」へ船を進めると、島原を回ってきてはじめて目にする大きな集落を見つけた。その浜辺に、大船が2隻あった。バンは船をできるだけ海岸に寄せ、大きな岩の陰に隠した。
「あそこは?」
カケルがバンに尋ねた。
「確か・・イサの里だ。だが、随分と様子が違うようだ。あの大船はラシャ王の手下に間違いない。おそらく、ここがラシャ王の根城なのだろう。」
「では、ラシャ王はあそこに?」
エンが、躍起になって訊いた。
「いや、あの大船はラシャ王が使っているのとは違う。」
「では、ラシャ王はここには居ないのか。」
エンはがっかりした様子で船を見てから、言った。
「どうする、カケル?」
「王は居ないとしても、あの里をこのままにしておけない。きっと島原のあちこちから連れてこられた者たちが働かされているに違いない。」
「では、攻めますか?」
バンが訊いた。カケルは少し考えてから、
「いや・・相手がどれほどか判らぬ内には、無理はしないほうが良いでしょう。私とエンが、里に入り、様子を探ってみます。」
エンはカケルの言葉に頷いた。アスカとアマリが、ほぼ同時に言った。
「私もお連れ下さい。」
「いや、中に入ればどんな目に遭うか判らない。ここに居てください。」
「しかし・・」
アスカは不満そうな表情をした。
「いえ、必ず、そなたたちの力を必要とする事があります。それまでここで・・。」

 翌日、カケルとエンは、船を降り、山伝いにイサの里へ入った。
里の南側から、男たちは竹籠に土を盛り、列をなして里へ運んでいる。カケルとエンは、その列に紛れて里の中に無事入れた。
里の中では、一際大きな館が造営されていた。高い大屋根をもつ館はまさに宮殿のような造り。わずかな間に、これほどの里を作るラシャ王の力に驚いた。
夕暮れになり、男も女も皆、一所に集められ、椀に一掬いほども粥をもらった。そして、皆、館の北に設えられた、板で囲った場所に押し込められた。男も女も、皆無言で粥を食べ、次々と横になった。まるで、家畜のような扱いだった。
中年の女性の一人が、カケルとエンを見つけて、小声で言った。
「初めて見る顔だね・・どこから連れてこられた?」
二人は顔を見合わせた。
「私たちは、捕らえられたのではありません。」
「何だって?・・」
二人の話が信用できないような返答だった。
「私はカケル。ナレの村の生まれです。ヒムカ、阿蘇を越えて参りました。」
その話に、老婆が口を挟んだ。
「・・今・・カケルと言ったかい?」
「ええ、ナレの生まれ、ヒムカの国の・・」
と言い掛けた時、他の者も起き出して、二人を囲んだ。
「ヒムカの勇者、カケル様のことかい?」
「勇者ではありません。私はまだアスカケの身、生きる道を探しております。」
ざわめきが起こった。そして、ひそひそと耳打ちするように、皆の耳に言葉が伝わった。カケルの名は、島原にも届いていた。

「カケル様がおいでになった。」
「お救い下さるためにおいでになった。」
「勇者様がそこに居られる。」
皆、カケルの居場所を見つけようとしていた。
僅かな灯りの小屋の中で、カケルは立ち上がり、皆の中をゆっくりと進み、一人ひとりの顔を見ながら歩いた。皆、カケルの姿に手を合わせて拝んでいる。そして、皆の真ん中に立った。
「この中に、長は居られませんか?」
見張りに気づかれぬ様、小さな声で回りの者に尋ねた。先ほどのように、カケルの言葉は皆に伝えられた。
「この里の長様は、ハヤノヒコ様。奴らに捕らえられて、館の奥においでになる。」
「では、お救いせねば・・。」
「我らも、必ずお救いしようと準備はしておりました。・・しかし・・。」
「ラシャ王の手下はどれくらいいるのです。」
「確かな事は判りませんが、百人ほどでしょう。・・ですが、半分以上は、この里の者です。」
エンが、脇から話に加わった。
「どうして、この里の者が、ラシャ王の手先に?」
「ハヤノヒコ様が捕えられているからです。逆らえば、ハヤノヒコ様の命は無いと言われ、仕方なく従っています。」
「では、本当の敵は半数ほどなのですね?」
「はい。・・いや・・今、ラシャ王はここに居ませんから、もう少し少ないかもしれません。」
カケルはじっと考えていた。そして、
「まずは、ハヤノヒコ様をお救いしましょう。そうすれば、敵の手下となっている里の者たちも、我らの味方になるはずです。そうなれば、我らのほうが圧倒的に多くなる。畏れる事は無いでしょう。・・それに、沖には援軍も居ます。海からも攻めれば・・。」
「しかし・・ハヤノヒコ様は館の奥深くにいるのだろう?どうやってお救いする?正面から行くのは無理だろう?」
エンはカケルに訊いた。カケルは、答えに困った。
「それなら、大丈夫です。・・兵の中には我らの味方になってくれるものが居ります。以前にも、ハヤノヒコ様の様子を伺いに、裏手から入れてもらったことがあります。」
返事をしたのは、カンという男だった。
「ただ、そこまで行くのが・・・。」
「それなら大丈夫だ。俺の作った穴がある。」
小屋の隅のほうで蹲っていた男が言った。

島原海岸.jpg
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