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2-1 屋代島へ [アスカケ第4部瀬戸の大海]

1.屋代島
カケルの考えを受け入れたタマソ王と頭領は、万一、和解することが出来ない事態を考えて、兵を率いて大船白麗・赤龍・黒龍の三隻で、熊毛の里を出航した。馬島で手に入れた船は、随分と傷んでいて、修復に手間が掛かるため、熊毛の里に残してきた。
熊毛の里からは、可良ヶ浦に浮かぶ島々に沿って、東へ進み、上之関の激流を抜ける。ギョクは手際よく赤龍を進め、黒龍と大船がその後に続いた。
そこからは、横島(よこしま)、平群島(へぐりじま)、荷内島(にないしま)を伝い、屋代島の海女ヶ浦まで進む事になる。平群島と荷内島には、水軍が襲い手中にした里がある。
「ここからはいつ水軍が現れるか判らぬぞ。」
ギョクは丁寧に船を操る。大船の帆柱の上ではカズが目を光らせていた。
平群島は、大きな島だったが、里は南側に築かれていて、水軍からは見つからぬように通り抜ける事ができた。しかし、荷内島は小さな島である。双子島で大小二つからなり、小さな島は無人島だった。大きい島には、わずかだか人家がある。ここを見つからずに通過するのは難しい。
「見つかるのを覚悟せよ。戦になるやも知れぬ、支度せよ!」
タマソ王が号令を掛ける。男たちは、甲冑を身に付け緊張した。
「島には船はない・・・。人影も見えないな。」
カズが帆柱の上から告げる。突然、黒龍が荷内島に針路を変えた。
「どうしたんだ?」
突然の動きに皆が不審に思った。黒龍に乗っていた者の中には、この島を里とした男達が数人いたのだ。トモヒコが男たちの希望を聞いて、里に立ち寄る事にしたのだった。
「水軍の船は居らぬようだし、立ち寄り、様子を見てみよう。」
白麗、赤龍も後に続き、荷内島の小さな港に船を入れ、水軍に備えて船首を外に向けた。
先に入っていた黒龍からは、数人の男が降りて、それぞれの家に向かった。しばらくすると、その男達が、何か喚くようにしながら駆け戻ってきた。
「里の者が・・・里の者が・・・。」
大の男が皆涙を流し、船縁で蹲ってしまった。
「一体、どうしたのだ?」
トモヒコは男達の様子を見て、ほかの者を里へ走らせた。しばらくして戻ってくると、
「家々の中で、年寄りも、女も、子どもも・・皆、切り殺されておりました。」
と報告した。船縁で蹲っていた里の男達がそれを聞いて、堪えきれず号泣した。
「一体、誰がこのようなことを!」
荷内島の惨状は、すぐに、白麗や赤龍にも伝えられ、桟橋に船を着けた。
タマソ王や頭領、タモツ、タカヒコ等主だった者が、桟橋に集まった。
「一体、どうしたことなのか?」
水軍の里となっているところでこのような事態は想像もできないことだった。
「水軍がやった事でしょうか?」
トモヒコは訊いた。誰も返答できなかった。そして、頭領が言う。
「可良の里を焼き払い、里の者全てを捕えていたのも腑に落ちない事だった。これまでは、物は奪っても焼き払う等したことはない。」
タマソ王も思い出したように言った。
「赤間でも、里の者を男だけでなく女も子どもも連れて行こうとしていた。確かに、変だ。」
「水軍の中で、何かが起きているようですね。」
カケルが言うと、タマソが訊いた。
「一体何が起きているのだ?」
その日は、皆、船から降りて、里の者の亡骸を懇ろに葬り、ここで休む事になった。
翌朝には、荷内島を出て、いよいよ屋代島に近づく事になった。
屋代島は、東西に長く、瓢箪のような形をした島である。西側が大きく丸い形で大島と呼ばれ、中央に高い山が聳えている。東側は細く延びた半島状となっていた。水軍は、そのちょうど中央の低い土地、南に開けた湾を持った場所に里を築いているという事を、ギョクが話して聞かせた。
三隻は、海女ヶ浦から更に進み、アシタ崎という小さな岬に身を隠すことにした。
岬に、船をつけると早速、岬の上から水軍の里を望む場所に渡った。
「ここからは私一人で参ります。」
するとアスカが、「私も参ります。」と立ち上がった。
「危険だ、ここで待っていなさい。」
タマソや頭領が引きとめようとした。
「いえ・・これまでの戦場にもずっとお傍に居りました。大丈夫です。」
「それなら、私も行きましょう。」
タカヒコが供をすると言い出し、マサも同行すると言った。
カケルは黙って頷いた。夕暮れが迫る中、四人は海岸に沿って里へ向かった。
大船は、岬の先端の、里を望める場所へ移った。大船の帆柱の上では、カズがじっと里の方角を睨んでいる。
「船が四隻ほど留まっている。・・さほど大きな船ではないな。」
「すぐには、動きもなかろう。明日朝、すぐに動けるよう皆は休ませたほうが良いな。」
それぞれの船は、見張りを残して静かに休む事になった。
屋代島に渡った四人は、海岸沿いをゆっくりと里へ向かった。そして、里を見下ろせる高台に辿り着くと、里の様子を探った。

2-1荷内島2.jpg
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