SSブログ

2-2 潜入 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

2.潜入
水軍の里は静かだった。桟橋に留めた船の周囲には人影は確認できない。見張りに立っている者さえも居なかった。
「不思議だ・・・これほど静かとは・・・。」
四人は、物陰に隠れながら里に近づき様子を伺うことにした。里は、小さな家が、港あたりに十軒ほど建っている。そして、そこから少し小高い丘の上にも、同じ様に小さな集落がある。小さな畑はあるが、熊毛の里の様な規模ではない。作物が植えられている様子もなかった。そして、その集落をつなぐ道に、高楼が築かれていて、里の者たちが集まれるような広場があった。高楼の脇には,大屋根をもつ館がひとつ、そして蔵も建っている。おそらく、周囲の里から奪った食料を保管しているのだろう。見張りがどこにも見当たらないのは、この里が他からの危害を受けることなどないと考えているためだろう。
昼近くなると、家々から男たちが姿を見せた。港近くの家からも丘の家からも、筋骨隆々の男が、剣や弓、槍を持ち、高楼の周囲に続々と集まってきたのだ。
カケルたちは、高楼が見える林の中に身を潜めて、様子を伺っていた。
男たちは、高楼の周りに座り込むと、じっと何かを待っているようだった。大きな鉦が鳴り響いた。しばらくすると、丘の家の更に上から、輿が下ってきた。朱の服を身にまとい、大きな冠を頭に載せた男が輿に乗っている。
「あれが、リュウキか?」
マサが呟くと、タカヒコが答えた。
「いや、あれは、ギンポウだ。水軍の大頭目だ。」
「ギンポウ?」
マサが呟くと、さらにタカヒコが答える。
「あいつは、この辺りの者じゃない。確か、安芸の国からの流れ者だと聞いたことがある。大船を奪い、隣の厳島あたりで暴れていたとも聞いた。あいつが現れてから、熊毛の里へも度々攻めてくるようになったんだ。・・あいつには和解など、頭からないだろう。」
四人が様子を伺っていると、ギンポウが輿を降り、高楼へ上がった。高楼の中段にある広間から、ギンポウは、男たちに見せ付けるように、腰の大剣を抜いて、高く翳した。地鳴りのような男達の声が響く。やがて、その声が静まると、ギンポウが口を開いた。
「荷内の島が襲われた!皆殺しだ!・・我らに楯突く熊毛の仕業に違いない!」
集まった男たちは、驚きを隠せない状態だった。林に身を潜めていた四人も驚いた。
「これまで、韓や東国の兵から、守ってきてやった恩を忘れ、愚かな奴らだ。今こそ、熊毛の里の隅々まで、我が水軍の恐ろしさを思い知らせてやろうぞ!」
ギンポウの言葉に、答えるように、男達は、剣や槍を突き上げて応えた。
「戦の前の祝いだ、それ、つれて来い!」
ギンポウの言葉に、高楼の下から、縄で縛られた男が引き揚げられた。口には猿轡を嵌められ、目隠しをされている。すでに、随分殴られたようで、目の辺りが大きく晴れ上がっていた。
「こやつは、荷内の島で捕らえた熊毛の男だ!見よ、こうしてくれる!」
ギンポウは、手にしていた大剣を振り上げると、一気に男に振り下ろした。高楼の上から、真っ赤な血が飛び散り、縛られた男の脚から下が高楼の下へ落ちた。再び、大剣を振りかざし、振り下ろす。今度は、胸から下が落ちた。
「さあ、皆の者、熊毛の奴らに目に物、くれてやろうぞ!」
真っ赤な血が滴る大剣を天に翳してギンポウが吼える。男たちもつる付議や槍を翳して応えた。

「これは大変だ。すぐに、タマソ様に知らせねば。」
マサが呟いた。カケルは、頷き、すぐにマサを船に戻した。タカヒコは、
「私にひとつ考えがあります。・・・奴らを出航できぬようにしましょう。船に火をつけて回ります。大丈夫です。まさか、ここに我らが居るなど思っておりません。すぐに、船に潜み、日暮れを待って、火を放ちましょう。」
「判った、では、タマソ王には、その火を合図に、船を動かし、明日、日の出を待って一気に攻め入るように伝えましょう。」
マサはそう言うと、すばやく海岸へ向かって走り出した。タカヒコも、同時に。桟橋へ向けて走り出した。
カケルは、和解する道を探る為、ここへ来たはずだった。しかし、ここまで事態が深刻になっていたのではもはや仕方ない事かと諦めるほかなく、二人を止める事ができなかった。
「何故このようなことに・・・。」
カケルは土を叩き嘆いていた。アスカがそっと背に手を置いた。
「カケル様、さきほど殺された男の人は、どこから連れて来られたのでしょう。熊毛の里の御方ではないでしょう?」
「そうか・・・そうだ。きっとあの者は荷内の島の御方であろう。・・と言う事は、この仕儀には何か裏がありそうだ。・・・アスカ、もう少し深く入り込まねばならぬようだな。」
里の広場に集まっていた男達は、ギンポウの輿を見送り、それぞれ戦に備えて一旦広場から退散した。ギンポウの輿は、わずかな伴を連れて、ゆっくり丘を登っていく。
「輿の後を追うぞ。アスカは、船に戻るか?」
「いえ、私もお供します。」
「私から離れるなよ。」
カケルはアスカの手を握り、林の中を抜け、土手に隠れながら、輿の上っていく先を目指して行った。

2-2周防大島海岸.jpg
nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 5

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0