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2-3 異様な集団 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

3.異様な集団
ギンポウの乗った輿は、丘の上まで来ると、一旦止まり、伴の者が周囲に目配せをしてから、人目を避けるように、小さな森の中へ消えた。カケルとアスカもそっと森の中へ入った。
鬱蒼と茂る木々の間から、館らしきものが見えていた。館の周りには小さな篝火が焚かれている。
ギンポウは輿から降りると、何故かそこに跪いた。すると、館の中から、顔をすっぽりと布で覆い、金色の衣服を纏った男が、黒服の男を数人従えて出てきた。
「予てからの策通りか?」
「はい。」
金服の男が尋ね、ギンポウは深く頭を下げた。
「これで、水軍と熊毛の決戦となるか。ほっほっほ・・。」
金服の男は、妙に甲高い声で笑った。それを見て、ギンポウが更に深く頭を下げて、
「御意。熊毛の里を落とせば、一気に赤間へ攻め入り、アナト国を手中に収められましょう。」
「ふむ・・良かろう。・・お前を水軍に送り込んでから、随分と待ったが、ようやく時が来たか。・・すぐに、安芸の使いを送り、大軍を率いて一気に攻め入るとするか。」
金服の男はそう言うと、再び館の中へ姿を消した。ギンポウは、男の後について館の中へ消えた。
カケルとアスカは、その会話をしっかりと耳にした。この企みが、隣国の者たちの策略によるものだと理解した。
「何としても、この無益な戦いを止めさせなくては・・このままでは、皆が危ない。」
「あれが、水軍の頭領ですか?」
「いや・・サクヒコ様から聞いた水軍の頭領とは違うようだ。」
「では、どうされたのでしょう?」
「何者かが、水軍を裏から操るため、すでに命を奪われたか、どこかに囚われているか。・・それよりも、あの男の使いを止めねばならぬ・・・。」
しばらく様子を伺っていると、黒服の男が二人、先ほどと同じように周囲を気にしながら、館から出てくると、館の裏手へ消えた。カケルとアスカも、男たちの後を追った。
館の裏側には、林が広がっていて、わずかに道があった。男たちに気付かれぬよう、二人は着いていく。林を抜けると、海岸に降りるための縄梯子が掛かっていた。用事深く、下を見下ろすと、海岸には小船が繋がれていた。まさに今、男達が岸を離れる支度をしている。梯子を降りていたのでは間に合わない。
カケルは咄嗟に、海岸から飛び降り、動き出そうとしていた小船の上にどかっと降り立った。小船にいた男たちは、突然現れたカケルに驚き、一人はその拍子に海に落ちてしまった。
残った一人が、「何者だ!」と叫んで、いきなり剣を抜いてカケルに切りかかった。カケルはひらりと身をかわし、男の背を強く蹴りつけると、男は船に転がった。
興奮した男は、立ち上がると、再び、剣でカケルを突く。カケルは剣を抜き受ける。先ほど、船から落ちた男が、船に泳ぎ着いて、船縁から這い上がってきた。前後にカケルは挟まれる格好となった。
「使いには行かせぬ。邪な謀など許せぬ。・・・歯向かえば命を落とすぞ。」
カケルは、男たちに言った。
「生意気な、お前一人で止められようか!」
そう言って、船尾側から男が切り付けると同時に、船首側からも迫る。
「やむを得ぬ。赦せ!」
カケルは、低く身構え、剣を横一文字に払った。
すると、船尾の男の剣が飛び、船主側の男の喉下に突き刺さった。男は絶命した。
剣を振るった男も、手首から先が切り落ちていて、その場にのた打ち回った。
カケルは、男の喉下に、剣を立て、脅すような声で訊いた。
「リュウキ様は何処だ!」
男は、息も絶え絶えになりながら、か弱い声で言う。
「うう・・うう・・山の・・洞窟に・・。」
それを聞いたアスカが山を見上げた。するとそこにはほのかに光が見えた。
「カケル様、あそこに明かりがあります。もしや・・あそこに・・。」
アスカが指差した先は、島を形作っている山の中腹、切り立った崖に口を開いたような穴らしきものが見えた。カケルは、梯子を上ると、急いで山へ向かった。
目指す場所までは、道らしき道もなかった。二人はわずかな月明かりを頼りに進む。ようやく、切り立った崖の下まで達した時、見下ろした里の先、船から火の手が上がっているのが見えた。
「タカヒコ様が、動かれたようですね。」
アスカは、夜空を焦がすように燃え上がる炎を見て言った。
「ああ・・無事にお逃げになっただろうか?・・・」
カケルも燃え上がる炎と、それを見つけて桟橋に集まる人影を見て言った。
「夜が明けると、戦が始まる。・・・何としても無益な戦いを止めねばならぬ。さあ、急ごう。」
カケルとアスカは、水軍の頭領が囚われている洞窟を目指して、崖を登って行った。

桟橋の船は、四隻あった。うち、二つは大船で,タカヒコの放った火で大きく燃え上がっている。残り二つも、帆が燃え上がり、手が付けられない状態だった。
桟橋に集まった男たちは、必死に、海の水を掬いかけるが、火の勢いは収まらない。見る間に船は炎に包まれていった。

2-3周防大島海岸2.jpg
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